2024年10月30日公開
髙橋光成投手が来季もライオンズに残留することを決めたようだ。まだ髙橋投手本人のコメントは届いてきてはいないが、スポニチの記事によれば、「今オフのポスティング移籍は断念した」、ということらしい。本来であれば「ポスティングを断念」ではなく、「来季もライオンズ!」という前向きなコメントを本人の口から聞きたいわけだが、西口文也監督からすれば大きな戦力を維持できたということにはなる。
今季の髙橋投手はライオンズファンでなくてもご存知の通り、0勝11敗という惨憺たる内容だった。確かに援護点に恵まれなかったと言える試合もあったわけだが、しかしあっさりと相手に先制点を許す試合が多く、援護点云々ではなく勝てる投手のピッチングがまったくできていなかった。
投げているボールを見ても、確かに球速は150km/h程度出ていたわけだが、その球速表示ほど速くは感じなかった。つまりこれは初速と終速の差が大きく、ストレートに伸びがなかったということだ。伸びがないストレートというのは、ちょうど打者がバットを出した高さにボールが失速していくことが多くなる。好調時の髙橋投手のボールには伸びがありボールがバットの上を通過することも多かったのだが、今季はそのような場面を見られることはほとんどなかった。
そして髙橋投手が二桁勝てるようになったのは、他でもない当時の西口投手コーチの指導のおかげだった。西口投手コーチの指導により、力まずに空振りを取れる伸びのあるストレートを投げられるようになったことで、髙橋投手はエース格の投手へと成長していった。だが今季は力まずに投げるどころか、腕力だけでボールお投げているようにも筆者には見えていた。
投球フォームの分析やコーディネートというのは筆者の専門分野であるわけだが、好調時の髙橋投手と今季の髙橋投手のフォームを見比べると、やはり下半身よりも上半身の出力が大きくなっていることで、右腕がやや遠回りしていた。そのためストレートのバックスピンの軸の傾きも大きくなり、専門的に言うとマグナス力が弱くなり、ボールの伸びを失っていた。
これが例えばダルビッシュ有投手のように筋トレによって体を大きくしても、慣性モーメントを大きくせずにコンパクトに鋭く腕を振ることができると、ストレートの質も低下することはない。だが髙橋投手の場合は腕がやや遠回りするようになり、慣性モーメントが逆に大きくなっているように見えた。
野球というのは技術力のスポーツだと言われている。技術がなければいくら筋肉を増やしても意味がないし、筋肉を増やしてもその増えた筋肉をしっかりと制御することができなければ、髙橋投手のようにパフォーマンスは低下するだけだ。ダルビッシュ投手の場合は体を大きくしても、それと比例して技術力もアップさせている。そこが同じ大柄の投手であっても勝ち続けているダルビッシュ投手と、まったく勝てなかった髙橋投手との違いだ。
メジャーリーグという世界は、ダルビッシュ投手ほどの技術があっても簡単には勝たせてもらうことはできない。つまり体が大きいだけではメジャーで通用することは絶対になく、そもそもアメリカのマイナーリーグには髙橋投手よりも体が大きな投手はいくらでもいる。彼らは160km/h近いボールを投げたりもするのだが、しかし技術力が高くないためにメジャーで通用しない選手も多い。
これまでメジャーで活躍してきた日本人投手たちの技術レベルは非常に高かった。髙橋投手も彼らに倣い、体を大きくすることよりも技術力をアップさせることに注力した方が間違いなく成績は上がるはずだ。そしてこれは平良海馬投手に対しても同じことが言える。平良投手は今季終了後に、フォームの(技術的な)課題はないためオフは筋トレを中心に行う、とコメントしている。これは危険な考え方だ。
ダルビッシュ投手でさえも、イチロー選手でさえも、毎年のようにフォームをマイナーチェンジしてより高いレベルの技術を身につけ、よりレベルの高い相手に勝つ努力を続けている。イチロー選手は2004年にメジャーリーグ史上最多のシーズン262安打(この記録は現在も破られていない)を放ったわけだが、その翌年の2005年でさえもフォームをマイナーチェンジしているのだ。
だが平良投手は現状のフォームに満足しているようで、このオフは筋トレに今まで以上に力を入れると話している。この考えにより平良投手が来季髙橋投手の二の舞にならなければ良いのだが、吉と出るか凶と出るかは平良投手次第であり、同時に対戦相手も来季はさらに平良投手の分析を強化してくるはずだ。
昨オフも筋トレを誰よりもこなしていた髙橋投手と平良投手は、今季は二人揃って怪我で長期間離脱している。本当に素晴らしい野球選手というのは怪我をしない選手のことだ。まさにイチロー選手のように。とにかく来季は、髙橋投手と平良投手には怪我なくプレーし続けることをまずは期待したい。メジャー移籍するのに相応しい成績を挙げられるかどうかはそのあとの話ということになる。