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2024年8月20日公開

チャンスで打てる打者の典型的な思考を持てるようになった佐藤龍世選手

埼玉西武ライオンズ vs オリックスバファローズ/19回戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Buffaloes 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 10 1
Lions 0 0 0 0 0 0 1 0 × 1 4 0

継投髙橋光成H佐藤隼輔○平良海馬Hボー・タカハシSアルバート・アブレイユ
勝利投手平良海馬 2勝2敗0S 1.77
セーブアルバート・アブレイユ 1勝5敗19S 2.13

5回無失点の投球でも首脳陣の信頼は得られなかった髙橋光成投手

今日は髙橋光成投手が今季12試合目のマウンドに登り、5回無失点と比較的好投したわけだが、残念ながら今季初勝利には至らなかった。ただ、チームは1-0で5年振りの前橋開催で6年振りの群馬県勝利を収められたのは良かった。

群馬と言えば今日先発した髙橋投手・柘植世那捕手の出身地というだけではなく、渡辺久信監督代行にとっても故郷となる。久しぶりの群馬県開催で故郷に錦を飾れたのは良かったのではないだろうか。

さて、先発した髙橋投手に関してだが、数字的には確かに5回無失点としっかりと試合を作ってくれたと言えなくもない。しかしピッチング内容を見ると決して良いものではなかった。無四球ながらも被安打は7で、犠打も絡められて三々ピンチを背負いながらのピッチングだった。無失点でまだ76球だったとは言え、渡辺監督代行の目にはいつ失点しても不思議ではない内容と映っていたのだろう。

髙橋投手のスライダー系のボールを観察していると、曲がり始めるタイミングが非常に早いのが気になる。ピッチャーズプレートとホームプレートの距離は18.44mとなるわけだが、良いスライダーというのはホームプレートの手間5〜6m程度まで近づいてから横や縦に曲がり始める。しかし髙橋投手のスライダーは、18.44mの半分くらいの場所ですでに曲がり始めているように見えるのだ。

このような変化球を野球では「キレがない」と表現するわけだが、髙橋投手のスライダーにはあまりキレが感じられない。そして曲がり始めるタイミングが早い分打者からすると見極めやすくなり、簡単にコンタクトできるようになってしまう。

そして変化球にキレがない原因は、ストレートの質が高くないことが影響している。初速終速差の話は少し前にもここでしたわけだが、変化球というのはストレートありきの変化球となる。つまりストレートの質が良ければ変化球も良くなるし、ストレートの質が低ければ変化球のキレもなくなっていくということだ。髙橋投手の場合、ストレートが球速表示ほど速く感じられないため、スライダーのキレも低下していると言える。

そして球質というのは腕力に頼った投げ方をすればするほど低下する。つまり回転軸の傾きが大きくなったり、回転数が減ったりすることでストレートに伸びがなくなり、同時に変化球のキレも失われていくのだ。

ちなみに西口投手コーチ(現二軍監督)の指導を受けてリラックスして投げる技術を身につけられた頃の髙橋投手の球質は非常に良かった。だが今は腕力でボールリリースの出力を上げて球速をアップさせようとしているため、球質に関しては大幅に低下している。

また、フォークボールに関しても今日の試合だけを見ても落ちたり落ちなかったりとまちまちだ。フォークボールは落ちてくれないとホームランボールになってしまう危険性が非常に高いため、一軍ではほぼ確実に落とせるようになる必要がある。今日も柘植捕手のサインに何度も何度も首を振ってフォークボールを投げる場面があったわけだが、自信を持って投げている割にはフォークボールで仕留められた割合は低かった。

カウント的には、追い込みに行く浅いカウントの時はフォークボールが低めに落ちることも多かったのだが、三振を取りに行くフォークボールが落ちなかったり、高めにいってしまったりすることが多かった。このあたりの詰めの甘さが今季の髙橋投手の0勝9敗という数字にも繋がっているのだろう。

ちなみに筆者が筋トレで球速をアップさせるべきではないという話をすると、ダルビッシュ投手はそれで成功しているという話をし出す方もいる。だがそれは間違いだ。ダルビッシュ投手は確かに最先端の理論で筋トレをして体を大きくした選手であるわけだが、ダルビッシュ投手の場合、非常にレベルが高い投球動作の技術を身につけた上で筋肉を大きくし、その技術を維持できるペースで体作りをしているのだ。

そしてなおかつダルビッシュ投手の体型はやや特殊で、身長が196cmもあるのに、腕の長さと手のサイズが175cmの筆者とまったく同じなのだ。これはつまり小難しい話をすると、慣性モーメントを小さくしやすいということになり、スケール効果の影響もさほど受けないことを意味する。

つまりバランスよく体を大きくした場合、身長に対して腕がやや短いダルビッシュ投手の場合、太くなった腕にフォームが振り回されにくいということだ。そのため丸太のように太い腕を持ちながらも、投球フォームのバランスは非常に安定しており、球質がバラけることも稀だ。

一方の髙橋投手は昨オフだけで太くした腕、筋肉を増やして重くなった体をまったく使いこなせていない。今日のピッチングに関してもかなり強く右腕を振っている場面も幾度か見られたが、それだけ腕を振っているにもかかわらず、球速表示はそれほど高いものではなく、さらには下半身もかなり上半身の動きに振り回されているという印象だった。

ちなみに150km/h以上のボールを投げている投手の腕が振られている速度というのは100〜110km/h程度となる。つまり理論的には、いくら千切れるほど一生懸命腕を振ったとしても、球速は大して上がることはないのだ。球速をアップさせるためにはキネティックチェーンの順番を守り、下半身のエネルギーを効率よく上半身、ボールリリースへと伝えていく必要がある。これができなければいくら筋力をアップさせても球速は大してアップしないし、球質に関しては低下する一方となる。

確かに今日の髙橋投手は5回無失点で試合を作ることはできたが、しかしボールの質を観察するといつ失点してもおかしくはない状態だった。だからこそベンチも僅か76球で髙橋投手を降板させている。つまり、残念ながら今日の無失点のピッチングを首脳陣はほとんど評価していないということだ。もし今日の内容を評価していた場合、僅か76球で降板させることはなかったはずだ。

チャンスで打てる打者の典型的な思考を持てるようになった佐藤龍世選手

チャンスで打てる打者の典型的な思考を持てるようになった佐藤龍世選手

さて、一方の打線は今日も4安打にとどまったわけだが、その内の3本は佐藤龍世選手によるものだった。佐藤選手は怪我から復帰してまだ7試合にしか出場していないわけだが、この7試合の打率は何と.417となっている。そして得点圏打率も.333と、打数はまだ少ないながらも復帰後は良い数字を出している。

佐藤龍世選手はいわゆる苦労人だ。2020年に私生活で一つ問題を起こしてしまい、それにより無期限の出場禁止処分を西武球団から課され、翌2021年の8月にはファイターズにトレードで放出されてしまっている。しかし2022年のシーズンが終わると、当時夫人が源田壮亮主将の夫人に対する誹謗中傷の加害者となっていた山田遥楓選手とのトレードで西武に復帰している。そして今季は西武復帰2年目のシーズンとなっている。

こう考えると日本ハム球団は問題を起こした佐藤選手、山田選手の2人を西武球団から短期間の内に引き受けてくれている。この恩はいつかライオンズはファイターズに返さなくてはならないだろう。つまり広い意味で言えば佐藤選手にしろ山田選手にしろ、ライオンズだけではなくファイターズにも迷惑をかけてしまったことになる。

そのような経緯もあり佐藤龍選手は今、非常に謙虚な気持ちで野球と向き合えているのではないだろうか。出場禁止処分を受けたり、怪我で長期離脱をしたことで野球ができる幸せを実感しながらプレーしているのではないだろうか。やはりプロ野球選手と言えど、プレーすることができる環境に感謝しながらプレーできる選手というのはどんどん強くなっていく。

佐藤選手にしても過去の過ちや怪我が佐藤選手自身を強くしてくれたのではないだろうか。そして若手だった佐藤選手も今季は学年的には28歳になるシーズン(1月生まれ)を迎えている。年齢的にはもう中堅クラスと言えるし、チーム内でも主力として活躍していかなければならない立場だ。若手選手がなかなか打てていない姿をリハビリしながら見続けたことで、一打者としての責任感も芽生えたのかもしれない。

そして打席での思考についても非常に良い。打てない選手というのは特にチャンスになると、「ここで絶対打たなきゃいけない」、というように、「〜しなければならない」という自分を追い込んでしまう形で考えてしまうのだ。しかしこの思考はスポーツのメンタルトレーニングにおいてはタブーとされている。

ではどうすれば良いかというと、良い結果が出た後に何が起こるのかを想像するのが最善だ。例えば今日の試合、7回一死三塁一塁のチャンスで打席に立った佐藤選手は、「0-0で見ている方も退屈だったと思うから、ここで一発打ったら面白かな」と考えながら打席に立っていたらしい。これがまさに良い結果が出た後のことを想像しながらプレーするということだ。

佐藤選手にはこれからもこのメンタルで打席に立ち続けてもらいたい。そうすれば入団以来それほど高い得点圏打率を残せたシーズンがない佐藤選手でも、今後は軽く.300を超える得点圏打率を維持できるようになるだろう。そして実際にそのような数字を維持できるようになれば、佐藤選手はまさにかつての鈴木健選手のような、ホームランは少ないものの勝負強さで打点を稼げる主軸打者へと成長していけるはずだ。

ただしここまでの復帰後7試合のみですべてを判断することはできない。ここまでは3試合連続マルチヒットとはなっているが、問題はこの状態の良さをどれだけ長く維持することができ、そして不調に陥った時にどれだけその期間を短くできるかだ。好調期が長くなり、不調期が短くなっていけば佐藤選手は来季以降も不動のクリーンナップとして活躍することになるだろう。

そして好調を持続させるためにも、不振を短期間で終わらせるためにも、打てた理由と打てなかった理由を常に考えていく必要がある。これをすることにより、不振に陥った際にどうすればまた状態を上げていけるかということが分かるようになるのだ。だが現在の若手打者陣はそうではなく、感性や本能だけで打ってしまっている選手が多い。感性や本能というものも非常に大切であるわけだが、しかしそれだけでプレーをしてしまうと一軍ではなかなか通用しない。なぜならプロ野球選手のほとんどが感性も本能も持っているからだ。

その中で頭ひとつ抜けて活躍していくためには理論や理屈が必要になってくる。なぜヒットを打てたのか、なぜ打てなかったのかという理由をしっかりと毎打席ごと考えていくことによりそれが積み重なり、ただの理由だったものが理論へと発展していくのだ。そして独自の打撃理論を持つことができた選手だけが、一軍で活躍し続けられるようになる。一年だけの活躍ではまぐれとも言われかねない。そのため主力打者は毎年のように活躍し続ける必要があり、そうなった時に初めて一流選手として認められるようになる。

黄金時代の西武球団というのは、3年活躍してようやく本格的に年俸が上がり始めた。1年だけ活躍しても、年俸はもちろん上がるがそれは微々たるものだった。もちろんこのやり方は現代では選手会が反発するためやりにくくなってはいるが、しかし3年連続で活躍したら何かボーナスや大きなインセンティヴ報酬を付けるというのは、選手のモチベーションを維持するためには効果的だと思う。

佐藤選手はまだ一年間フルで働けたシーズンが一度もない。そのため年俸も2200万円に留まっている。27〜29歳という年齢はアスリートにとっては最もキャリアハイを出しやすい期間となるため、佐藤選手も一流選手の仲間入りをするにはまさに今がその時だ。体が最もよく動くこの期間を決して無駄にして欲しくはない。

そして今季は怪我により長期離脱を強いられてしまったが、それを取り戻すのに遅すぎることはない。今からでも主軸打者としてシーズンが終わるまで打ち続け、来季は不動のクリーンナップとして一年間活躍し続けられる選手になってもらいたい。この佐藤選手が一本立ちするだけでも、来季のライオンズ打線はまったく別物に変わっていくはずだ。だからこそ筆者は今季残り試合は特に佐藤選手の活躍に注目していきたいと考えている。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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