筆者が考える2023年の西武打線〜求められるのは個に走らない四番打者

2022年9月26日公開

高木渉

チームより個を優先している山川穂高選手

筆者はかねてより、早く次世代の四番打者を育成した方がいいという旨の記事を書いてきた。現時点においての四番打者はもちろん山川穂高選手なのだが、山川選手はチームを勝たせられる四番打者ではないと思うのだ。そして年齢的にもこれからは下り坂という年代へと入っていく。つまりここから山川選手が飛躍的にレベルアップすることは考えにくい。

確かにホームランを打てるというのは素晴らしい能力ではあるが、打率を残すことはできず、得点圏での打率も四番打者としては相応しくはない数字だ。そして打点に関しても、ここまで39本塁打の割には86打点に留まっている。もちろん86打点も素晴らしい数字ではあるのだが、四番打者ということになれば話は別だ。

ただしライオンズは長年1番打者を固定することができず、それにより山川選手の前に多くのチャンスを作れないという事情もある。東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手と比較をすると、得点圏での打席は村上選手の175打席に対し、山川選手は131打席となっている。ここに出場試合数という要素を加えると、村上選手は1試合あたり1.3打席の得点圏での打席があり、山川選手は1試合で平均1打席となっている。このような事情もあり、山川選手の打点が思うようには伸びていないのだが、しかし得点圏打率は村上選手の.353に対し、山川選手は.283となっている。

.283という数字は、四番打者の得点圏打率としては非常に低い数字であり、通算打率だったとしても四番打者としては物足りない数字だ。つまり山川選手は調子が良い時に当たればスタンドまで運ぶパワーはあるのだが、調子が落ち始めると本当に打てなくなってしまうという、好不調の波が非常に大きいのが特徴なのだ。

四番打者というのは、自分自身の調子が悪くてもチームを勝たせられる打撃をしなければならない。だが山川選手は「自分が打てばチームは勝つ」と公言しており、チームバッティングよりも自らのホームラン数を優先した発言を繰り返して来た。筆者個人としては、この考え方では真の四番打者にはなれないと思っている。

もちろんアレックス・カブレラ選手のように、.300以上の打率を残しながら50本前後のホームランを打っていれば話は別だ。だが山川選手は1軍に定着して以降、年間を通して安定した打率を残したシーズンはない。必ず調子が良い時期と大不振に陥る時期があり、過去には幾度となく四番の座を中村剛也選手に返上している。

チーム内で抑えが利いていない山川穂高選手

山川選手と中村剛也選手の違いは、個人を優先しているかチームを優先しているかにある。山川選手は全打席でホームラン狙いを公言しているが、中村選手の場合は無理にホームランを打たなくても良い場面では犠牲フライを狙ったり、軽打をする姿を頻繁に見せてくれる。この姿勢はまさに無冠の帝王とも呼ばれた清原和博選手の系譜に繋がる。

清原和博選手は主要打撃タイトルこそ取れなかったが、しかしチームバッティングを徹底したことにより、ホームランを打たなくてもチームを勝たせることができる四番打者だった。もし清原選手がライオンズ時代にチームより個を優先していたら、何度もホームラン王に輝いていただろう。

しかしその清原選手も黄金時代の先輩選手たちが次々とライオンズを去っていってしまうと、徐々にチームで孤立し始めてしまった。東尾修監督が就任した頃にはまさにそれが顕著となり、チーム内でも浮いた存在となってしまったのだ。東尾監督もそれを危惧していたのだが、最終的には清原選手もライオンズを去ってしまうことになる。

例えば石毛宏典選手や秋山幸二選手がいた頃というのは、彼らが抑えになることで清原選手もチームバッティングを優先せざるを得なかった。だが抑えとなっていた先輩が次々とチームを去り、抑えが利かなくなると、清原選手は徐々に個に走るようになってしまった。ただ、それでも東尾修監督の存在があることで、清原選手も完全に個を優先する選手に堕ちてしまうことはなかったのだが。

では山川選手の場合はどうなのだろうか?中村剛也選手、栗山巧選手という抑えになってくれそうな先輩選手はいるわけだが、このふたりは言葉でチームを引っ張るタイプではなく、背中で引っ張るタイプだ。石毛宏典選手のように言うべきことは言う、というタイプの選手ではない。

また、中村選手にとっての江藤智選手、デーブ大久保コーチのような存在、清原選手にとっての石毛宏典選手や土井正博コーチ、伊原春樹コーチのような存在が、山川選手にはいないように見えるのは筆者だけだろうか。

中村選手はデーブ大久保コーチの責任下で「ホームランを打てるんだからいくら三振してもいい」と伸び伸び打たせてもらうことで才能を伸ばし、そしてベンチでは江藤智選手によって四番道を教え込まれた。

清原選手にしても技術は土井コーチに叩き込まれ、そして少し調子に乗った姿を見せると伊原コーチから雷を落とされていた。そして石毛宏典選手という天性のリーダーがいたことで、どんな状況でも「チームのために打つ」という姿勢を貫いた。

しかし山川選手にはそのような存在の先輩やコーチがいないように筆者の目には映っているのだ。技術に関しては山川選手は自己流を貫くタイプだし、山川選手を抑えられるような先輩の存在の姿も感じられない。もしそのような存在があれば、山川選手も個を優先するような発言などしないはずだ。

山川選手の「自分が打てばチームは勝てる」という発言は、裏を返せば「自分が打てなきゃチームは勝てない」という意味になる。だが四番打者はこれではいけない。自分自身が不調であっても犠牲フライ、進塁打、盗塁の補助、軽打などによってチームを勝利に導かなければならない。だが山川選手はそのような姿を見せたことはない。山川選手は常々公言しているように、全打席でホームランを狙っているのだ。

全打席でホームランを狙うという山川選手の言葉を聞き、落合博満氏でさえも「自分にはできない」というコメントをされていた。だがこの言葉はかなりオブラートに包まれており、実際には「自分ならやらない」が落合博満氏としては本音ではなかっただろうか。

ライオンズの次世代四番打者は一体誰?!

ライオンズはこの先1〜2年で次世代の四番打者を登場させなければならないわけだが、その際には今のうちからメンタル教育もしておくべきだ。ホームランを打てばいい、というのが四番打者ではなく、調子が良かろうが悪かろうがチームの勝利のために尽くすという考え方を教え込まなければならない。

山川選手のバッティングを見ていると、まるでメジャーリーガーの考え方なのだ。だがメジャーリーガーのレベルはパ・リーグとは次元が違う。メジャー球団の1〜9番打者は、誰もが日本では4番を打てるレベルの打者たちだ。そんな打者たちの上に立っているのがメジャーで3〜4番を打つ打者たちであり、次元が異なるそのようなレベルであれば、山川選手のような考え方でも通用するだろう。

例えばヤンキースのジャッジ選手は今季ここまで打率は.314で60本塁打をマークし、打点は128という数字だ。しかし山川選手はメジャーリーグよりも個々のレベルは遥かに低いパ・リーグであっても、これに近い数字を残すことはできていない。だからこそ筆者は山川選手にはもう少しチームバッティングというものを考えてもらいたいのだ。山川選手が行っているのは野球ではなくてベースボールであるため、ベースボールではなく野球をしている他の選手たちとなかなかプレーで繋がることができず、現在のライオンズ打線は線としてほとんど機能していないのだ。

次世代の四番候補としては今後やってくるであろう外国人選手の除けば、ブランドン選手、高木渉選手あたりが候補になってくるのではないだろうか。大砲という意味では渡部健人選手もホームランを打つことはできるが、如何せん打率がファームでも1割台と低過ぎる。

個人的には次世代の四番打者としてブランド選手に期待を寄せている。ブランドン選手は若林楽人選手と仲が良く、共に1軍にいた際にはお互いに協力し、切磋琢磨して腕を磨いていった。この関係はまさに中村剛也選手と栗山巧選手の関係によく似ており、このようなチームメイト同士の連携によって打線を繋げていくことができる。

筆者個人としては、若林選手に2番を打たせて野球を学ばせ、そして中村選手が引退を迎える前にブランドン選手に3番、もしくは5〜6番を打たせて、中村選手から四番道を学ぶことができる環境を作ってあげて欲しい。

そして育成出身の高木渉選手に関しても、かつて伊東勤監督が中島裕之選手を7番に固定して上手く育成したように、1軍の下位打線を打たせて場数を踏ませ、1軍レベルのボールにもっと慣れるためのチャンスを与えてもらいたい。そうすれば1軍でも徐々に結果を残していけるだけのレベルにある選手だと筆者は考えている。

筆者が考える2023年のライオンズ打線

本来であれば平石洋介打撃コーチが山川選手に四番打者としての考え方を叩き込まなければならないわけだが、すでに打者として完成しつつある山川選手、そしてライオンズ一年目の平石コーチということを考えると、平石コーチもまだチームに馴染むことが必要な段階で、なかなか山川選手ら主力に強いことを言えるきっかけを掴めなかったのではないだろうか。

だが次世代のブランドン選手、高木選手、渡部選手となれば話は別だ。今オフ以降では、平石コーチもどんどん彼らに四番道を叩き込んでいけると思う。平石コーチ自身はもちろん現役時代には四番打者ではなかった。しかしイーグルスの監督・コーチ、ホークスのコーチとして数々の四番打者の指導を任されてきた。その経験を来季以降はもっと活かしてもらいたい。

山川選手のように個を優先するようなコメントをしてしまう四番打者ではなく、常にチームの勝利を優先したコメントをし、チームバッティングが必要な場面ではチームバッティングに徹することができる四番打者を育成してもらいたい。そうすれば繋がらない時はまったく繋がらない現状の山賊打線のようなことにはならず、誰かが調子が悪くても他の誰かが繋いでカバーしてくれる、まさに線として、輪として繋がっていく打線を作っていけるはずだ。

例えば筆者ならこんな打順を組んで繋がりを生み出していきたい。
※ 近藤選手をFAで獲得した前提
1番 近藤健介選手 or 金子侑司選手(左)
2番 若林楽人選手(中)
3番 ブランドン選手(三)
4番 新外国人選手(DH)
5番 森友哉捕手(捕)
6番 山川穂高選手(一)
7番 外崎修汰選手(二)
8番 高木渉選手(右)
9番 源田壮亮主将(遊)
ここに左右の代打として栗山選手と中村選手が控えていれば、打線としては繋がりも厚みも出していけると思う。山川選手に関しても四番打者としての重責は負わせずに、6番で打率.250くらいで40本塁打くらいを自由に打ってもらえばいいのではないだろうか。

今季は愛斗選手や呉念庭選手に多くのチャンスが与えられてきたわけだが、ポジションを勝ち取ったというわけではなく、他にいないから起用されていた、という印象の方が強い成績となっている。

そして上述の打線のポイントは2番3番コンビだ。コンビネーションを取れるこのふたりを並べることにより、打線の繋がりを良くする狙いがある。

そして源田主将に関しては2番という制約の多い打順ではなく、9番を打たせることによってキャリア初の3割を打たせてあげられるのではないだろうか。逆に若林選手は2番という打順で野球を学ばせ、栗山選手のようなクレバーな選手になってもらいたい。

そして外崎選手のセカンドに関しては、ここは呉念庭選手らがどんどんプレッシャーをかけていけば良いと思う。そうすれば外崎選手のお尻にも火が着くし、呉念庭選手らにとっても下から突き上げる存在となることで、さらなるレベルアップの必要性をもっと感じてもらえると思う。

辻発彦監督にはもう少し威厳が必要だった

とにかくライオンズ打線には近年はまったく繋がりがない。これは辻発彦監督が主力選手には好きにプレーをさせていたツケだと思う。

辻監督はもう少し参謀タイプの知将になるのかなと思っていたが、選手とはとてもフレンドリーであまり威厳を感じられない監督だった。やはり監督には威厳は必要だと思う。選手にイジられるような軽い存在であってはならない。威厳があるからこそ選手たちも「この監督に付いて行けば勝てる!」と思うようになり、監督の意図も選手に伝わりやすくなる。そして監督の意図をしっかりと選手たちが理解できるようになると、それは大人のチームと呼ばれるようになり、安定して勝てるようになる。

選手に対し寛容になるのは必要なことだ。しかし寛容であっても、笑顔を見せても、監督としての威厳を失ってはいけない。そしてそれと同時に、監督をイジるべきではないということが分からない若手選手もライオンズには少なからずいる。このようなチームには締まりが生まれず、どこか歯車が一つ狂っただけでガタガタと崩れていってしまうケースが多い。

選手の調子が良い時、歯車が噛み合った時に勝てるのは当たり前のことだ。そんなのは万年最下位チームであっても同じことであり、しかしそれでは日本一になることなどできはしない。ライオンズが日本一になるためには調子が良い時、歯車が噛み合った時は当たり前のように勝ち、調子が落ちたり歯車が多少崩れたりしても、チームが一丸となって戦い、その苦しい時期を全員野球で乗り切ることができるチームに生まれ変わる必要がある。

例えばスワローズにしても、ホークスにしても、今季はライオンズ以上のコロナ禍に見舞われた。しかし一丸となれる大人のチームであるため、それでもスワローズは優勝し、ホークスもバファローズとの熾烈な優勝争いを演じている。

ライオンズベンチには、どこか緊張感が足りていないように筆者はもう何年も感じ続けている。だが仮に来季は松井稼頭央新監督ということになるのであれば、松井監督にはもっと緊張感のある中で選手たちにはプレーさせてもらいたい。東尾野球、伊原野球、星野野球、メジャーリーグを経験してきた松井稼頭央現ヘッドコーチであれば、きっとチームの作り方を間違えずに上手くマネジメントしてくれると思う。

もちろんそんなマネジメントを辻監督にも求めていたわけだが、しかし辻監督はそのマネジメントには失敗しているように筆者には見えている。辻監督は良い人であり良い監督であったと思うが、結論としては名将ではなかったと思う。

辻発彦監督は名将なのか?それとも日本一にはなれない監督なのか?!

3位を確定するためにはもう1敗も許されないライオンズ

2位バファローズとのゲーム差は4となっており、バファローズの残り試合は3試合、ライオンズは4試合だ。ということは仮にバファローズが3連敗し、ライオンズが4連勝したとしてもゲーム差は3.5しか縮まらず、ライオンズが2位になることは不可能だ。

ライオンズは現在イーグルスとの3位争いをしているわけだが、4位イーグルスとの差は0.5で、イーグルスの残り試合はライオンズよりも1つ多い5試合。

ライオンズが残り4試合すべてに勝つと勝率は.521となり、イーグルスが残り5試合すべてに勝つと勝率は同じく.521となる。この場合は当該球団同士の対戦成績により順位が決まるため、現時点で14勝9敗とイーグルスに勝ち越しているライオンズがCS進出となる。ただしライオンズとイーグルスの直接対決が1試合残っているため、最終的に五分になることは考えにくいが、ライオンズが残り4試合で1敗でもしてしまえば、残り試合が少ないライオンズの方が圧倒的不利になる。

つまり3位確定までのマジックナンバーを点灯させることができない現状では、ライオンズはとにかく4戦4勝するしかなく、次の1敗が致命傷となってしまうのだ。

もちろんライオンズにCSに出てもらいたいわけだが、この最後の4試合は本当に厳しい戦いとなるだろう。何せ相手は優勝争い中のホークスが2試合、そしてイーグルスとの直接対決が1試合なのだから(最終戦はファイターズ戦)。

だがそんな苦しい残り4試合であっても、何とか最後の最後でチームを一つにし、個々で相手にぶつかっていくのではなく、一丸となってホークスとイーグルスに獅子の牙を剥いていって欲しい。そうすれば4戦4勝という結果も自ずと見えてくるはずだ!

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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