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2022年10月30日公開

ただのイケメン監督ではなかった策士松井稼頭央監督が改革する新生西武

仮に打率.000だったとしても1軍に置いておく価値のある山野辺翔選手

打率.000だったとしても1軍に置いておく価値のある山野辺翔選手

ユーティリティープレイヤーだった熊代聖人選手が現役を退き、その後継者はどうやら山野辺翔選手が務めていきそうな雰囲気だ。野球というスポーツは四番打者が9人集まっても勝つことはできない。それぞれが異なった役割を持つ9人に加え、その9人をバックアップする役割を担う選手がいることにより、初めてチームは一つの和となる。この和をなかなか作れなかったのが辻発彦監督時代のライオンズだった。

デーブ大久保コーチのようになれるであろう熊代聖人コーチのポテンシャル

メジャーリーグのように圧倒的な力を持った9人が集まればまた話は別なのだと思うが、しかし日本人選手の体格ではメジャーリーガーに太刀打ちすることはできない。それでも仮に個と個ではなく、個に対し和で戦うことができれば、かつてのWBCのように屈強な選手たちを相手に日本チームが勝つこともできる。

とは言えば屈強な選手たちが集う他国のチームが和したとしたら、これは日本人選手では本当に太刀打ちできなくなってしまうだろう。だがそのような場面はWBCやオリンピックなどの国際試合でしか起こることはなく、NPBのペナントレースでは最下位のチームであっても首位チームをスウィープすることは可能だ。

ここまでの松井稼頭央監督の言動を注意深く見守っていると、松井監督は一流選手を中心に勝つ野球からは少し距離を置きそうな空気を醸している。最近6年間のライオンズは、特にリーグ二連覇をしたあたりからは山川穂高選手森友哉捕手の打力に頼った点の取り方を見せることがほとんどだった。そのため主力の調子が良ければチームは勝てるのだが、主力が調子を落とすとそのままチームも下降線を辿ってしまう傾向が強かった。

辻監督以上に明確な指令を繰り出している松井稼頭央監督

松井稼頭央監督ももちろんそのようなライオンズの姿を、2軍監督時代から見続けていた。そのため辻監督時代と同じことをしていてはもう勝てないということも念頭にあるように見える。辻監督から松井監督に代わって筆者が特に感じたことは、辻監督は選手を信頼し、比較的選手任せにすることが多かった。だが松井監督は秋季練習の段階からどんどん明確な指令を繰り出している。

その一つが山野辺選手の起用法だ。山野辺選手は社会人出身の来季5年目の内野手であるわけだが、ここまでは通算117試合の出場で、27安打で打率.189という数字に留まっている。来季29歳という年齢を考えると、打撃に関しては何かを大きく変えなければこの数字が大きく変動することはないだろう。

正直なところ、松井監督も山野辺選手に対しては口では決して言わないものの、打撃成績においてはそれほど期待はしていないと思う。もちろん打って欲しいとは願っていると思うが、しかし冷静さを求められる監督としては山野辺選手に対し打撃成績は求めていないはずだ。

しかしそれでも山野辺選手には熊代聖人選手のようにプロ野球選手としての生きる道がある。仮にヒットを1本も打てなかったとしても、山野辺選手は今、熊代選手のようにバッテリー以外のすべてのポジションを守れるように準備をし始めている。これはまさに松井稼頭央監督の指令によるもので、山野辺選手も春季キャンプまでには内外野用のグラブに加え、ファーストミットも準備してくるようだ。

もちろん山野辺選手にもたくさんヒットを打って欲しいわけだが、しかし仮に1本も打てなかったとしてもこのように守備でチームを助け、ピンチバンターとして確実に走者を送り、代走として一つでも先の塁を陥れる果敢な走塁を見せることができれば、仮に打率.000だったとしても1軍のベンチに置いておく価値は非常に高くなるし、年俸だって上がって行くだろう。

鈴木将平選手と山野辺翔選手に対し一塁練習を指示した松井稼頭央監督の意図

さて、松井稼頭央監督はこの秋季練習中、鈴木将平選手と山野辺翔選手に対し一塁の守備にも対応できるようにと指令を出した。これは一体何を意味するのだろうか?もちろんこの二人に対し、山川選手の存在を脅かせと言っているわけではない。当然だがこの二人には山川選手ほどホームランを打てる能力はない。

だとすれば考えられることは、近年の山川選手が頻繁に怪我をしていたという点だ。特に足首など下半身の怪我が多く、二連覇したシーズン以降、全試合出場や、それに近い出場数に至ることはなかった。松井監督の頭の中では、来季31歳となる山川選手はさらに怪我のリスクが高まることを想定しているのではないだろうか。

そして山川選手は守備力は高くはない。僅差で勝っているゲームで、残りイニングで山川選手に打順が回る可能性が高くはない場合、もしくは回すことを想定せずに逃げ切りたい場合、7〜8回くらいに山川選手に代え、守備力のある一塁手を置くことを想定しているのかもしれない。

森友哉捕手に対しても無視することはできない守備固め

常勝チームを作るにあたり、守備固めができるか否かは非常に重要だ。これは内外野の守備はもちろん、捕手にも同じことが言える。例えば打力という要素を除外した場合、森友哉捕手が今ライオンズで一番捕手としての能力が高いかと言えば、そうとは言い切れない。

もちろん出場試合数を鑑みれば森捕手の捕手力が他者を圧倒していなければならないわけだが、岡田雅利捕手や柘植世那捕手と比較した時、圧倒しているかと言えばそうではない。そのためもしパスボールやワイルドピッチを防ぐ能力が岡田捕手や柘植捕手の方が優れているのであれば、守備固めとして終盤は森捕手から代えて行く場面も来季は増えるのではないだろうか。そしてこのような起用法が森捕手の疲労度を軽減させ、常に森捕手を良いコンディションで起用できることにも繋がって行く。

ただ岡田捕手に関しては来季は34歳で、肩の衰えが気になり始める頃だ。それでもリード面ということで見ると、この3捕手の中では岡田捕手のリードが最も安定しており、上手く投手をリードして見えることが多かった。そのため理想的なのは数年後には岡田捕手が兼任コーチとして1軍ベンチで森捕手と柘植捕手を支える態勢なのかもしれない。

ただのイケメン監督ではなかった策士松井稼頭央監督

松井稼頭央監督は着々とチーム改革を進めている。主力に対しては各自責任を持ってやらせながらも、一軍半の選手に対してはどんどん具体的な指令を出して行っている。

辻監督は優しい方であるため、選手個々を総合的に伸ばしてあげようとしているように筆者には見えていた。分かりやすく言えば、全選手に対してレギュラーを獲れるように指導されているように見えていた。これはまさに親心であり、選手としてはとても嬉しいことだと思う。だがライオンズというチームを勝たせるという意味では、時としてこの親心が邪魔してしまうことがあったのかもしれない。

一方松井稼頭央監督の場合は選手とはさほど年齢が離れていないこともあり、親心というものが芽生えるような段階ではない。そのためライオンズというチームを勝たせるために必要なピースをピンポイントで挙げ、そこをしっかりとカバーして行くという指導法を取っている。

辻監督の親心は、2軍監督であれば好々爺的にもっと生かせたかもしれない。しかし育成以上に勝利が求められる1軍では親心が時として仇となってしまう。これはもちろん起用法の話ではなく、まだ育成法の話だ。辻監督がもし選手たちを全体的にではなく、もっとスペシャリストを育成する方向で指揮を執っていれば、ライオンズの戦いはもっと違ったものになっていただろう。

例えば日本一にはなれなかったものの東尾監督時代にはAKD砲はすでに解体されていたが、橋本武広投手、清水雅治選手、河田雄祐選手というスペシャリストがいた。そして伊東勤監督時代には福地寿樹選手というスペシャリストがいた。黄金時代のようにレギュラー全員がスペシャリストであるのが理想であるわけだが、現代野球でそれは難しい。そうなるとやはり如何にしてスペシャリストを育て、上手く起用していけるかが安定して勝つための一つの鍵となって行く。

そして今松井稼頭央監督は、山野辺翔選手に対しスペシャリスト化を求めている。そして今季のチーム60盗塁はリーグ最少で、これは1997年に松井稼頭央選手一人で走った62盗塁をも下回る。この盗塁数の改善にもすでに着手しており、代走要員としてはイースタンリーグで盗塁王を獲得している山野辺選手に足でもスペシャリスト化することを求め、今季は10盗塁に留まった外崎修汰選手に対しても盗塁数を増やすようにすでに指令を出している。

このように松井稼頭央監督は場面を想定したスペシャリスト育成と、走塁改革にすでに着手しており、レギュラー奪取に至らなかった選手たちはそこに対応しようと秋季練習に励んでいる。まだ表立って結果が出てくるような段階ではないが、ここまでに関しては、松井稼頭央監督のチーム改革は着々と進んでいるように見える。

かつてのライオンズには、しょうもないエラーをした選手は主力であってもベンチに下げられてしまうという厳しさがあった。だが渡辺久信監督の頃からはそれによって反発しそうな世代の選手も増えてきたことから、多少のミスには目を瞑る寛容力が求められるようになってきた。だが実際指導者側からのプレッシャーにより反発し問題を起こした投手も渡辺監督時代には出てしまった。

山川穂高選手にかかる松井稼頭央監督からの無言のプレッシャー

ミスを取り戻すチャンスを与えるという寛容力は絶対に必要だと思う。しかしそれと同時にミスはミスとしてしっかりと反省させる厳しさも勝つためには必要だ。ミスを取り返すチャンスは翌日以降に与えれば良いと思う。そういう意味では主砲の山川選手であっても、しょうもないエラーをしたならば即山野辺選手や鈴木選手に出番が回ってくるような厳しさが来季以降は求められる。

松井稼頭央監督が山野辺選手や鈴木選手に対し一塁の守備にも対応するように指令を出したことは、当然山川選手の耳にも入っているはずだ。ここで万が一にでも山川選手が「俺はホームラン王になった」と高を括ってしまったとしたら、山川選手の起用法は今季までとは違うものとなって行くだろう。

だが山川選手が松井監督からのこの無言の圧力を意気に感じ、もっと守備力やチームバッティングの面でのスキルアップを目指したならば、山川選手はきっと背番号に相応しい真の四番打者として認められるようになるだろう。そして山野辺選手や鈴木選手に一塁の守備練習を求めたのは、これはつまり松井稼頭央監督から山川選手に対する、「ホームラン王でも気を抜いたプレーをすれば容赦しないぞ」という無言のプレッシャーなのだ。

そしてこれまではあまり見せることがなかった山川選手の和に対する意識を目覚めさせるためにも、山野辺選手と鈴木選手の一塁手としての準備は効果を生み出すと思う。こうしてここまでの松井稼頭央監督の言動を見ていると、思った以上に策士なのだなという印象を筆者は抱いている。どうやら松井稼頭央監督はただのイケメン監督ではなく、勝つための戦術をかなり豊富に引き出しに溜め込んでいる知将であるようだ。

もうすでにライオンズは今季までとは違うチームになりつつある。自らの意図を時間をかけて選手に丁寧に伝えて行く姿は秋季練習でもすでに見られており、そのような松井稼頭央監督の姿勢は、短期間でライオンズを勝てるチームに変えてくれそうな雰囲気がある。

辻監督のことは筆者も大好きだったが、しかし今はそれ以上に松井稼頭央監督が仕掛ける新たなライオンズの姿を早くベルーナドームで見てみたいという気持ちが非常に強い。来春はWBCの影響で開幕はやや遅れそうだが、今からその開幕戦が楽しみで仕方がないとすでにうずうずしているのは、きっと筆者だけではないはずだ。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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