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2024年9月 5日公開

西武のコーチ陣からベテラン名指導者がいなくなり若手のみになった理由

ボディーブローのように効き続けている20年前の粉飾決済事件

西武のコーチ陣からベテラン名指導者がいなくなり若手のみになった理由

ライオンズの打者はやはり基本がまだできていないのだろう。今季はとにかく送りバントの失敗が多すぎる。つい先日も長谷川信哉選手が送りバントを2球連続でファールにし、今日も山野辺翔選手がバントを失敗している。

長谷川選手の場合はスリーバントはせずにヒッティングに切り替えてなんとか進塁打を打つことができたが、今日の山野辺選手は2ストライク後に空振りして3球三振となり、チャンスを広げることができなかった。長谷川選手にしても山野辺選手にしてもスラッガーではない。小技をしっかり決めてこそ何ぼの選手であり、このようなバントを含むチームバッティングをしっかりできるようにならない限りは、レギュラーと呼ばれる日はやってこないだろう。

そして今季本当に目立っているのが、明らかな送りバントの場面でなぜかセーフティ気味にバントをして失敗する場面だ。今日の試合の山野辺選手然り、今季はこのパターンでバントに失敗している選手が非常に多い。セーフティ気味に犠打をして、あわよくば自分も一塁に残りたいという気持ちは分かる。しかし99%犠打という場面でセーフティ気味にやる必要はまったくない。

渡辺久信監督代行にしても、常々送りバントは1球で決めて欲しいと口にしている。そうすることで攻撃のリズムが生まれていくわけだが、こうしてセーフティ気味に送りバントをして失敗してしまうと攻撃のリズムは一気に悪くなり、取れる点も取れなくなってしまう。今季のライオンズの得点力不足というのは、四番不在以上に、このようにやるべきことをやれていないことが大きな原因だと言って間違いない。

もちろん送りバントだって成功率は100%ではない。誰しも時には失敗してしまうことはあるものだ。しかしだとしても、今季のライオンズの打者陣の送りバントの失敗率はあまりにも高い。観ているファンは、送りバントのサインが出される度にヒヤヒヤさせられる。

恐らくはベンチで見ていた隅田知一郎投手もこのバント失敗には相当ガッカリしてしまったはずだ。それが影響したのか、このバント失敗の直後に隅田投手は3点を失ってしまった。

今年の秋季キャンプ、来年の春季キャンプでは、ライオンズの打者陣は徹底してバント練習をすべきだ。そしてただ練習するだけではなく、しっかりとバントのやり方を指導できるコーチを招聘した上で練習をしなければならない。バント一つにしても、構え方の基本ができていない状態で練習を繰り返してもまったく意味はないのだ。

例えばバッティングマシンを150km/hに設定をしてひたすらバント練習をしたとしても、マシンというのはいつも同じ速度で同じところにボールを投げて来る。そのため誤ったバントの構え方をしていても、速度にさえ慣れてしまえば簡単にバントすることができるのだ。要するにバッティングセンターでは打てたとしても試合で打てるとは限らないのと同じ話だ。

そのためバント練習は、味方投手陣とのガチンコでやるのが理想だ。例えばバント練習はブルペンでもできるため、ブルペンで投手陣に球種を打者に伝えることなく真剣勝負で投げてもらい、打者は本番さながらの緊張感を持って練習をすれば、まず今現在自分たちのバント技術がどれだけ低いのかという事実を知ることができるだろう。

そしてどこにどんな球種が来るか分からない状態でバント練習を繰り返しておけば、その状況が普通になり、シーズンに入ってバントのサインが出た時に緊張して身体が固まることもなくなる。バントは、少しでもどこかに力みが生じてしまうと上手く決めることはできず、実は野球未経験者が思う以上にバントというのは難しいものなのだ。

これだけバントミスが繰り返されていることを考えれば、来季は外野守備走塁コーチとして平野謙現山岸ロジスターズ監督を招聘すべきではないだろうか。平野謙氏と言えば黄金時代のバント名人であり、筆者は平野選手がバントミスした場面をまったく思い出すことができない。

残念ながら今のライオンズのコーチングスタッフにはかつてバント名人と呼ばれた選手はいない。阿部コーチ、赤田コーチは比較的バントは上手い部類の選手ではあったが、名人だったかと言われればそこまでではなく、実際両コーチの指導ではライオンズの打者陣はまったくバントが上達していない。

また、嶋コーチ、高山コーチに関しては現役時代はバントはまったく上手い方ではなかったため、この打撃コーチ二人にはバントを指導することは難しいと思われる。

一度はコーチングスタッフの若返りを図った西武球団であったが、それがまったく機能しなかった現実を踏まえると、やはり来季のコーチングスタッフにはベテラン指導者を多く集めるべきだと筆者は考えている。ただしベテランコーチのみにするのではなく、ベテランコーチと若手コーチでコンビを組ませるのだ。

例えば外野守備走塁コーチを平野謙氏が務めるのであれば、内野守備走塁コーチを片岡易之氏が務めたり、金森栄治氏が打撃コーチを務めるのであれば、打撃コーチ補佐を中島裕之選手が務める、といった具合だ。もちろんこの人選はただの例であるわけだが、若手コーチを育てたいのであれば、やはりこうしてベテランとコンビを組ませることで育てていく必要がある。

一般的には若手コーチよりもベテランコーチの方が年俸は高くなりやすい。これは当然の事実だ。例えば監督にかける予算を削減するために、楽天球団は非常に若い今江監督を新監督として登用した。西武球団の場合もコーチ陣を一気に若返らせたことで、コーチングスタッフに割く予算を一気に削減したと思われる。だがこれは明らかに失敗だった。

しかし渡辺久信GMとしては、これは苦肉の策だったとしか言いようがない。親会社から与えられる予算の中で、少しでも選手獲得のために資金を使いたいと考えた場合、やはり削減できるポイントとなるとコーチングスタッフということになってしまう。

現在コーチングスタッフの年俸は公にはされていないが、例えば大物監督を招聘することになれば、その年俸は1億円以上になる場合がほとんどだ。そしてコーチの平均年俸はだいたい1000〜1500万円程度となっている。この平均年俸で考えてみると、例えばコーチをすべて若手で組閣した場合、10人雇うと単純計算で1億円となる。だが実績があるベテランコーチを10人招聘した場合は最低でも1億5000万円となりその差は5000万円となってしまい、この5000万円があれば、一軍クラスの選手一人分の年俸を賄うことができてしまう。

本来であれば渡辺GMももっと指導力に定評があるコーチを招聘したいと思っているはずだ。だが近年それが適わなかったのは、親会社がまだ再建の道半ばだったことが影響していたと思われる。だが親会社の本業が好調である今、今オフはもう少し予算は増やされるはずだ。もちろん大幅にとは行かないだろうが、しかし渡辺GMが資金を使うべきところでしっかりと使える程度には予算を出してもらえるのではないだろうか。

バントミス一つ取っても、突き詰めると実はこのような事情が見えて来るのである。要するにかつて西武鉄道が引き起こした粉飾決済事件というのは、20年経った今でもライオンズにボディーブローのように効き続けているということなのである。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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