2022年10月25日公開
今季FA権を取得した外崎修汰選手は早々にライオンズ残留を宣言した。となると渡辺久信GMの残る今オフ最大の仕事は、同じく今季FA権を取得した森友哉捕手との残留交渉ということになる。
外崎選手の場合はFA宣言が解禁される日本シリーズ後に改めてFA宣言しての宣言残留となる見込みだ。そして一方の森捕手もFA宣言そのものは行うことが濃厚であるようだ。FA宣言をした上でライオンズに残留するのか、それとも他球団への移籍を目指すのかは、まだ森捕手の口からは説明されていない。
大阪出身の森捕手は子どもの頃はオリックスジュニアの一員としてプレーをしていた。そして森捕手は関西でのプレーを熱望していると橋上秀樹監督も仰っている。また、もし森捕手がFA宣言した場合はオリックスと巨人が交渉に乗り出す可能性が高いこともすでに報道されている。
森友哉捕手は現時点で果たして何%の確率でFA移籍しそうなのか?!
ここまでの現状だけで見るならば、どうやらオリックスと森捕手が相思相愛であるように見ることもできる。ちなみに森捕手の今季の年俸は2億円を超えているため、資金力に乏しい球団は森捕手の獲得に乗り出すことは難しい。だが資金力という意味では、西武球団もかなり厳しいと言わざるを得ない。近年はコロナの影響もあり、観客動員数は12球団ワーストレベルとなっている。
ちなみにライオンズは今オフは外崎選手と森捕手、来オフには源田壮亮主将と山川穂高選手のFAが控えている。果たしてライオンズの資金力でこの4人全員を残留させることができるのかは、現時点では何とも言えない。
だが観客数に制限がなくなってくれば、西武球団としてもある程度のレベルでの交渉は可能になるだろう。とは言えもしマネーゲームになったとしたら、西武球団は金満球団には太刀打ちできない。そのため西武球団が交渉を優位に進めていくためにはプレー環境と、優勝できるチーム作りが鍵となってくる。
森友哉捕手の気持ちになって考えれば、まずオリックスはリーグ二連覇中だし、山本投手や宮城投手といった球界屈指のピッチャーとバッテリーを組むこともできる。これは一人の選手としては確かに魅力的だ。しかもオリックスを率いる中嶋監督は捕手出身で、ライオンズ時代には松坂大輔投手の専任捕手も務めていた。森捕手が捕手としてさらにレベルアップしたいと考えた時、中嶋監督の存在も大きな魅力となるだろう。
そしてオリックスは現在は捕手は併用制を取っており、投手との相性によって捕手を変えている。これは良く言えば相性という言葉を使えるが、悪く言えば正捕手になる決め手に欠いているということにもなる。つまりこのような状況の中へ森捕手が入っていけば、比較的簡単に正捕手の座に就くことができるということだ。
こうして書いていると森友哉捕手がFA移籍する可能性はかなり高いようにも感じられるが、しかしちょうど一年前、森捕手は大阪桐蔭の先輩でもある岡田雅利捕手のライオンズ残留を強く望んでいた。森捕手自らも個人的に慰留したという経緯もあり、自分の相談役として岡田捕手にはライオンズに残って欲しかったようだ。
森捕手自身、岡田捕手を慰留した2021年オフの時点で、2022年は自らがFA権を取得することはすでに知っていた。つまり岡田捕手がFA交渉する一年後には自分もFA交渉する身となることは分かっていたわけで、それを前提に森捕手は岡田捕手を慰留していた。
もし森捕手がFA移籍することを強く望んでいたのだとしたら、一年前に岡田捕手を慰留するようなことはしなかったはずだ。一年前には岡田捕手を慰留しながらも今年自らはFA移籍したとしたら、森捕手はあまりに義理堅くないということになってしまう。もしそのようなことをすればファンのみならず、ライオンズナインも敵に回してしまうことになるだろう。
だが流石に森捕手はそこまで不義理な人間ではないと思うし、思いたいという気持ちが強い。そして普通に考えれば、森捕手は当然FAについて岡田捕手にも相談をしているはずだ。そして人柄の良い岡田捕手であれば「好きなようにしたらいい」と言うのではないだろうか。
もし森捕手が岡田捕手からそのような免罪符をもらってしまっていたとしたら、事はかなり厄介になりそうだ。ファンはこのようなやりとりなど知りようもないため、森捕手がFA移籍してしまったとしたら、森捕手は不義理な人間だと考えるファンはかなり多くなるだろう。
ライオンズの理想としては森捕手が常時出場し、そこに二番手三番手として常に岡田捕手と柘植世那捕手がベンチ入りしている状態だと思う。だが今季の岡田捕手は6月に一度1軍出場しただけで、打席に立つことさえなかった。
だがもし岡田捕手が「今季はダメだったけど来季はずっと1軍にいてお前をサポートする」と言えば、森友哉捕手は迷わずライオンズに残留するだろう。岡田捕手の存在は、森捕手にとってはそれくらい大きな存在だと思うし、その存在感はバッテリーコーチ以上であることは間違いない。
だからこそ渡辺久信GMは自ら交渉に当たるだけではなく、岡田捕手の存在も活かしながら森捕手の慰留に努める必要がある。そしてこのようなやり方は『孫子』の定石でもあり、もし渡辺久信GMが目指す故根本陸夫であれば、やはり岡田捕手の存在を活かしながら森捕手を慰留していくはずだ。
交渉上手のGMや編成部の人間は、周りを固めてから本人と交渉するケースが多い。その方が遥かに交渉が上手く進むからだ。例えば結婚をしている選手であれば、選手よりも先に夫人を説得する。例えば臨時ボーナスであったり、住宅手当であったり、何らかの贈り物を活用しながら夫人が残留に対しポジティブに思えるように差し向けていく。
選手は必ず夫人に相談しながらFA移籍に関しては考えていくため、夫人が残留することの方により強いメリットを感じられたならば、選手は夫人の意向に従うケースが多くなる。これはプロ野球では昔から行われている手法であり、三原脩監督、根本陸夫監督、星野仙一監督もこの手を使って交渉を優位に進めていった。
森捕手の場合はまだ未婚であるため、夫人ではなく岡田捕手や実家のご家族がその対象となる。渡辺久信GMほどの手腕があれば、少なくとも岡田捕手とは何らかのやりとりはすでにしていると思われる。例えば森捕手の意向を岡田捕手から窺うというようなことはすでにしているだろう。
それに加えてご実家や、大阪桐蔭の関係者の力を借りていければ、森捕手がFA宣言したとしてもライオンズに残る可能性は非常に高くなるはずだ。渡辺久信GMはGMなのだから、やはりこれくらいの調略めいたことはしていくべきだ。
FA交渉とは、当該選手とのやり取りだけが交渉ではない。当該選手の周辺も巻き込みながら交渉していくことによって、資金力に乏しい球団は初めて交渉を優位に進められるようになる。それが森捕手のようなトップクラスの選手であれば尚更だ。
球界の寝技師とも呼ばれた故根本陸夫は、まさに調略と呼ぶに相応しい手法で次々と有力選手の獲得に成功していった。もし故根本陸夫の存在がなければ、ライオンズに黄金時代がやって来ることもなかっただろう。
現代はコンプライアンスという言葉ばかりが独り歩きしてしまい、故根本陸夫のような調略めいた手法は嫌厭されがちだ。しかし渡辺久信GMが本気で新たな黄金時代を築こうとしているのであれば、ある意味では嫌われ役を買って出るくらいの覚悟が必要だ。
しかしそれでも故根本陸夫のように最後まで面倒をしっかり見ていけば、誰もが渡辺久信GMを慕うようになるだろう。そして「このGMは最後までちゃんと面倒を見てくれる」というイメージを植え付けることができれば、それは渡辺久信GMにとっては他者には真似できない強みとなっていく。
もし森友哉捕手がFA宣言をして他球団が交渉に乗り出して来れば、慰留は非常に難しくなる。だが渡辺久信GMが新人類として現代の寝技師となれれば、森捕手は来季もライオンズのユニフォームを纏ってプレーをしているはずだ。
森捕手が目先の利益だけに走って容易に移籍してしまわないようにするためにも、渡辺久信GMにはあらゆる手を使って残留交渉に挑んでもらいたい。もはや誠意を尽くすだけで選手が球団に残ってくれる時代ではない。選手はより大きな利を求めてFA権を行使していく。
来季ライオンズが日本一を目指すためには、疑いようもなく森友哉捕手の存在が必要だ。その替えの利かない存在を失わないためにも、渡辺久信GMへの筆者の期待値は非常に高い。前任者たちでは絶対に成し遂げられないような残留率を、渡辺久信GMならばきっと成し遂げてくれるはずだ。