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2023年7月21日公開

今井達也投手に歩んでもらいたいスーパーエースへの道

髙橋光成投手がライオンズを去るのも時間の問題

今井達也

近い将来、エース髙橋光成投手のメジャー挑戦が確実視されている。本人もすでに渡辺久信GMにポスティング移籍の希望を出しており、渡辺GMも優勝してエースとして圧倒的な数字を残せば認めるという趣旨のコメントをされている。

だが現時点においては渡辺GMは髙橋投手の成績にはまったく満足しておらず、「今の成績のままではダメだ」というニュアンスの言葉も残している。確かに髙橋投手は現在ライオンズのエースであるわけだが、例えば渡辺久信投手、西口文也投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手らのような絶対的エースという域にはまだまだ至っていない。

現に月間MVPやスピードアップ賞は獲得しているが、投手主要部門タイトルは一度も獲得したことがない。そこがやはり上述した4人の絶対的エースとは違うところだと言える。だとしてもビジネスとしてはやはり、FA権を行使されて何の補償もなく移籍されるよりは、ポスティングを認めて移籍金を得た方が球団にとってはプラスになる可能性が高い。となるとやはり、2025年オフのポスティング移籍が現実的と言えるのかもしれない。
(髙橋投手は最速2026年のシーズン中に海外FA権を得る)

遅くとも2025年、早ければ2024年オフにポスティング移籍ということになると、髙橋投手がライオンズでプレーをするのはあと1〜2年ということになる。では髙橋投手がメジャーに移籍したのち、一体誰がエースの座を引き継ぐのだろうか。

その最有力と思われているのが今井達也投手だ。今井投手は調子が良いと手が付けられないほどの圧倒的なピッチングを披露することがある。これだけのポテンシャルを持っているのだから、次期エースなどとは言わず、今すぐにでもエースの座を奪い取ってもらいたいところではある。

だが残念ながら今井投手は今季2023年シーズンも含め、年間を通して1軍で投げ続けた経験がまだない。必ずどこかで怪我や不調によって登録抹消されている。これも今現在今井投手がエースの座に挑めない大きな原因となっている。

今井達也投手が学ばなければならないメンタルスキルの重要性

今井投手が今首脳陣から求められているのは更なる技術力アップではない。もちろんさらにレベルアップできればそれに越したことはないわけだが、今首脳陣が今井投手に求めているのは何よりも安定感だ。今井投手は良い時は凄く良いのだが、悪くなり始めると一気に悪くなってしまう。好不調の波がかなり大きく、この不安定さが首脳陣の頭痛の種となっている。

ではなぜ今井投手には安定感がないのだろうか?かつて往年のヤンキースの名捕手ヨギ・ベラはこう言った。「野球の90%はメンタルで、残りの半分がフィジカルだ」ー。これは今なお野球界で語り継がれているヨギ・ベラのアフォリズムの一つだ。この言葉が表しているように、野球というスポーツはとにかく高いメンタルスキルが要求される。

例えば涌井秀章投手のように決して冷静さを失わないというのもメンタルスキルだし、西口文也投手のようにいつも同じ出力でボールを投げる自己制御能力もまた、メンタルスキルの一種だ。だが今井投手はというと、インスタグラム上でメンタルトレーニングを完全否定するようなコメントを残している。

もちろん今井投手が言いたいことも理解できる。今井投手としては「徹底的に練習して技術力を上げれば、自ずとメンタルスキルも養われる」という趣旨で発言されたのだと思う。だが科学的にはこの考え方は正しいとは言えない。そもそも徹底的に練習して技術力を上げるという作業は、プロ野球選手であればほぼ全員がやっていることであり、今井投手だからできるという話ではない。

徹底的に練習して技術力を上げて、その身につけた技術力を常時安定的に発揮するために必要なのがメンタルスキルなのだ。つまり科学的には徹底的に練習してどれだけ高いレベルの技術を習得したとしても、メンタルスキルのレベルが低ければそれを常時発揮することはできない、ということになる。

ちなみに筆者の職業はプロの野球専門パーソナルコーチであり、多くのプロ野球選手のサポートや動作分析をしてきた。そしてもちろん野球動作のバイオメカニクスだけではなく、メンタルトレーニング法も長年プロとして学び続けている。その筆者に言わせてもらえるのならば、今井投手は今すぐにでもメンタルトレーニングに対する認識を改めるべきだ。

ライオンズには2009年まで鋒山丕コーチというメンタルトレーナーが専属で付いていた。鋒山コーチは日本においてはメンタルトレーニングの第一人者であり、筆者も幾度かライオンズの選手について鋒山コーチとお話をさせていただいたことがある。ライオンズはもう一度このようなメンタルトレーニングの専門家を専属で招聘すべきではないだろうか。

今現在ライオンズにメンタルトレーナーが専属で付いているのかは筆者は把握していないのだが、しかし今井投手の発言を聞く限りでは、もし専属で付いていたとしたら、今井投手によるこのようなメンタルトレーニングに対する無知な発言は出てこないと思う。

ちなみにメジャーリーグにおいてメンタルトレーナー事情はどうかと言うと、まず全球団に専属のメンタルトレーナーがいるし、スコット・ボラスなど、メジャーリーガーのエージェントたちが持っているクライアント向けサポートチームにも必ずメンタルコンサルタントが在籍している。

日本では未だに精神論や根性論が熱く語られることがあるが、メジャーリーグではその根性論をも科学的根拠を示しながら、選手をメンタル面でも徹底的にサポートしている。今井投手はダルビッシュ有投手を敬愛しているのだから、もっとダルビッシュ投手からメジャーリーグのメンタルトレーニング事情を学んでも良いのかもしれない。

今井達也投手に目指してもらいたいのはスーパーエースへの道

とにかく現時点での状況においては、近い将来髙橋光成投手がメジャー移籍する可能性が非常に高い。それが分かっている今、髙橋投手が抜けてから次期エースを探すのではなく、髙橋投手がいる内に次期エースを育成しておく必要がある。それが果たして今井投手になるのか、松本航投手になるのか、はたまた他の若手投手が担っていくのかは今はまだ誰にも分からない。

しかし少なくとも他の投手はどんどん髙橋光成投手に挑戦していかなければ、2年後ではもう手遅れになってしまう。髙橋投手が去った2年後にエースになろうと考えているようでは、そのポジションは他の投手の手に渡ってしまうだろう。そうさせないためにも、髙橋投手以外の先発陣には目の色を変えて投げて欲しいというのが筆者の正直な気持ちだ。

個人的には内海哲也コーチの愛弟子で、蛭間拓哉選手の盟友でもある渡邉勇太朗投手にもう少し頑張ってもらいたいなとは思っている。そして将来的には渡邉投手がエースとして投げ、蛭間選手が主砲としてチームを引っ張るというライオンズになっていって欲しい。

だがその前に、今井投手や松本投手が渡邉投手らを引き寄せないレベルのピッチングを見せていかなければならない。特にライオンズにとって栄光の背番号である11番を返上してまで武隈祥太投手が背負っていた48番を譲り受けた今井投手は、そろそろ安定感を見せてエースの座に挑戦していかなければならない。

2023年4月にめでたく結婚された今井達也投手

その今井投手も今年4月に結婚されて、今は私生活もきっと安定しているのだと思う。夫人のサポートを受けて、野球に集中できる環境もきっと整ったのだと思う。とすると、今井投手が安定感抜群のピッチングを見せ続けてくれる日もそう遠くはないのかもしれない。

今井投手に今必要なのは、良いピッチングを一年間安定的に見せ続けることだ。良い時は凄く良いけど、悪い時はまったくダメというピッチングをこれからも続けてしまうようでは、今井投手がエースの座を奪い取れる日はやってこないだろう。だがライオンズにとっても、ライオンズファンにとっても、今井投手が今すぐにでもスーパーエースへと進化してもらわなければ困るし、誰もがそれが期待している。

だからこそ筆者は今井投手にはフィジカルだけではなく、メンタルスキルも大切にして欲しいと願っているのだ。かつてはライオンズを支えてくれた鋒山コーチも近年は体調が優れないようだが、その鋒山コーチもきっと同じことを考えていらっしゃるのではないだろうか。鋒山コーチに闘病に打ち勝つための元気を送るためにも、今井投手にはここで本当の意味で覚醒して、文字通り無双状態でライオンズを優勝に導くピッチングを見せ続けてもらいたい。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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