2023年7月19日公開
本来であれば松井稼頭央新監督に代わった今季、渡辺久信GMとしてはある程度万全な体制を例年以上に整えてからチームを託したかったはずだ。だが結果的には昨オフは森友哉捕手の引き留め、近藤健介選手の獲得に失敗してしまった。
交渉の裏側の真実はファンまで届くことはないわけだが、しかし森捕手のFA宣言からオリックス入りまでの時間があまりにも短かったことから、森捕手には最初から残留の意思はなかったようにファンには感じられる部分もあった。
そして近藤健介選手に関しては、ソフトバンク球団に完全にマネーゲームで持っていかれてしまった。やはりあそこまでの札束攻勢を見せられると、現在の西武HDでは太刀打ちできないというのが正直なところだろう。つまり森捕手にしろ近藤選手にしろ、渡辺GMの手腕が届かないところにすでに既成事実があり、それをどうすることもできなかったというのが、筆者の目に映った昨オフのFA交渉だった。
それでもライオンズは近年投手陣が充実していたため、昨シーズンはそれほど打っていたわけではない森捕手が抜けても今季を戦い抜ける目処は見えていた。しかし平良海馬投手が先発転向を強く直訴したことで、首脳陣のプランが崩れ始めてしまう。
もちろん平良投手には先発転向を直訴する権利があるわけだが、渡辺久信GMとしてはもう一年待ってくれという要望を出していた。やはり松井監督元年において、7〜9回を締める勝利の方程式を解体するのはあまりにもリスクが大きかったからだ。
その影響とは言えないが、前半戦は守護神増田達至投手が機能しない試合が増えていった。ストレートの威力にも翳りが見えており、球速も全盛期と比べると落ちてきている。その状態でブルペンエースとして、平良投手がリリーフ陣から抜けた穴を埋めなければならないプレッシャーは決して小さくはなかったはずだ。
しかしそれでも後半戦が近付くにつれ少しずつ調子を戻してきた姿を見ると、さすがは増田投手だと思えてくる。とは言えいつまでも増田投手に頼り続けることはできない。守護神というポジションは激務であることから、30代後半という年齢に差し掛かるとかなり辛くなる。やはり理想としては30歳前後の勢いも経験値もある投手が守護神を務めることが望ましい。
普通に考えれば平良投手が後々守護神になってくれればそれがベストだったと思う。だがその選択肢がなくなってしまった今、松井監督は早急に次期守護神の育成も進めなければならない。
開幕当初、先発陣はかなり奮闘していた。だがその先発陣に疲れが見え始めてくると、崩壊寸前だったブルペン陣の影響もあり、チームはガタガタと崩れ始めた。開幕当初は首位争いを演じていたが、折り返し地点であるオールスターの段階では最下位を抜け出すのがやっとという状況だ。
これだけチームが崩れてしまった原因は、当然だが山川問題の影響が非常に大きい。もしかしたら報道される以前から、一部のチームメイトや球団関係者はこの山川問題を把握していたのではないだろうか?
開幕して間もなく山川選手が故障で登録抹消されて中村剛也選手が四番に座ると、チームは安定感のある戦いを見せ始めた。だが故障が癒えて山川選手が戦列復帰した途端、チームの勢いはパタリと止まってしまう。
やはりチーム内でも山川選手のことを「厄介者」として見る目があったのではないだろうか。ちなみに筆者のように選手と関わりを持つ職に就いている人間の中では、山川選手は決して評判の良い選手ではなかった。山川選手の人間性に疑問を持つ者も少なくなく、筆者もその一人だった。そのため筆者はこのサイト内での記事でも度々山川選手の言動について苦言を呈していた。
かつてどん底だったライオンズを三連覇に導いた名将三原脩監督はこう言った。「アマは和して勝ち、プロは勝って和す」と。ちなみに三原監督は筆者が最も尊敬する野球人だ。
そして今、山川選手が掻き乱したライオンズは勝つこともできず、ましてや山川選手が原因で和すことさえできない。このような状態のチームを預けられ、松井稼頭央監督と平石洋介ヘッドコーチは本当に一瞬たりとも気が休まる時はないのではないだろうか。ただ、オールスターを直前にして少しずつチームがまた勝ち始めたのはファンにとっては朗報だった。
今松井稼頭央監督が早急に作らなければならないのは次期エース、次期四番、次期守護神、それにリードオフマンと正捕手だ。この中で正捕手に関しては柘植世那捕手と古賀悠斗捕手が切磋琢磨しており、そこに他の若手捕手も絡んできている。この正捕手争いを怪我が癒えた岡田雅利捕手がサポートすることができれば、良い捕手が育っていくことに疑いはないだろう。
次期エースに関しては髙橋光成投手がすでにメジャー移籍を志願している状況を踏まえれば待ったなしだ。髙橋投手がいつまでライオンズで投げるのかが分からない今、髙橋投手に依存したローテーションを組み続けることは将来的には不安だ。
本来であればここで迷わず今井達也投手の名を挙げられればいいのだが、残念ながら今季も含め、今井投手は未だ1シーズンをフルで戦い抜いた経験がない。必ずどこかで故障や不振により登録を抹消されている。
次期四番に関しては渡部健人選手に期待を寄せたいところだったが怪我に強くなく、未だ一年間戦える体力を身につけていない。となると先の先を踏まえれば、蛭間拓哉選手をかつての中島裕之選手のように英才教育していっても良いのかなと思う。
リードオフマンに関しては今さら書くまでもないだろう。ここに関しては秋山翔吾選手を欠いた2020年以降、一向に定まる気配がない。そして今にして思うと、日本復帰の際にライオンズではなくカープを選んだ秋山選手の決断は正しかったと言える。カープは野球に集中できなくなるようなチーム内トラブルが非常に少ないため、ストイックな秋山選手もじっくりと野球と向き合えているはずだ。
正直なところ、ライオンズがここから優勝を目指すというのはもはや現実的ではない。首位までは14.5ゲーム差で逆転優勝は不可能ではないとは言え、今ライオンズが優勝という言葉を口にするのはあまりにも
しかし渡辺久信GM率いるフロント陣からすると、もう来季に向けたチーム作りを始めなければならない。まずは四番としてしっかりとホームランを打てる外国人選手を招聘し、打線が線として機能する状態に戻す必要がある。今ライオンズには中村剛也選手を除けば、四番打者の存在がない。5年前であれば中村選手にもう少し頑張ってもらうこともできるが、今の年齢では中村選手にフル出場を求めることはできない。
そして新しいチームを構築するためにも、首脳陣はもう少し我慢の起用を見せても良いような気がする。見切るのが少し早いかなという印象だ。蛭間選手にしても、高木渉選手にしても、もう少し時間をかけて見てあげても良いように筆者の目には映っていた。
だが松井稼頭央選手の後を継いだ中島裕之選手が一年間「7番ショート」で起用され続けた時のライオンズと、今のライオンズとではまったく状況が異なる。今季ここまでのライオンズはエースが6勝6敗で勝ち星が先行せず、四番打者も不在だ。不安定要素ばかりの中での戦いを強いられている松井稼頭央監督の心情を
しかし松井稼頭央監督と平石ヘッドコーチのコンビであれば、必ず1年、2年のうちにしっかりとチームを立て直してくれるはずだ。だからこそ筆者は目先の順位に目を奪われることなく、先を見据えて松井稼頭央監督の采配を信じ続けたいと思うし、フロントも長期政権を前提に松井稼頭央監督を全力でサポートしてあげてもらいたい。