2023年8月20日公開
「増田劇場」などと揶揄されていた増田達至投手だが、中4日空けて登板した8月20日のホークス戦では、先頭打者に死球を与えたものの無難に1イニングを抑えて19セーブ目を挙げた。
参考記事:「増田劇場」という言葉にライオンズ愛は一切こもってはいない
やはり増田投手も他の名守護神たち同様に35歳の壁にぶち当たっており、連投して抑え続けることがかなり難しくなって来ている。だが休み休み投げることができれば、まだまだ1イニングをしっかり抑えられるだけの力は残っている。
今季中に増田投手を守護神から外せと語っているライオンズファンは多いようだ。筆者個人としても、代えられるのであれば代えるべきだと考えている。だが今すぐに増田投手のポジションを変えることは現実的とは言えない。
松井稼頭央監督としては、ルーキーの青山美夏人投手を次期守護神にすべく育成を試みているようだが、まず青山投手を今すぐに守護神に抜擢することは難しい。理由は単純に経験不足と、ここまで防御率が30試合の登板で3.71と決して安定しているわけではないからだ。
経験不足であっても、仮に30試合で防御率が2.00前後であれば、9回中2回の登板で失点するという確率を前提に守護神に起用しても良いと思う。だが青山投手の場合、現状では9回マウンドに登れば、4回近くの登板で失点する可能性があるのだ。この確率ではさすがに守護神に抜擢することはできない。
増田投手の場合も現時点での防御率は4.74で、まったく増田投手らしくない数字になっているわけだが、増田投手には絶対的な経験値がある。多少球威が落ちていたとしても、その経験値と投球術で抑えることができる。
ここが、体力的に元気で球にも勢いがあるけど点は取られる青山投手と、球威は落ちて来ていて点は取られているけど状態が良ければ経験値で抑えられる確率が高い増田投手の違いとなる。
来シーズンということを考えれば、増田投手をセットアッパーなどへ配置換えすることが望ましいと思う。だが今季はもうシーズンも終盤に差し掛かっており、ラストスパートをかける時期も近付いているため、ここで大幅な配置転換をしてしまうとチームのバランスが崩れてしまう恐れがある。
松井稼頭央監督も、そのバランスの崩壊を恐れて増田投手の守護神を貫いているのだと思う。だがこれがもしCSという短期決戦になった場合、松井監督も増田投手を9回に投げさせることには拘らなくなるだろう。
長丁場であるレギュラーシーズンではチームのバランスは崩したくはないが、短期決戦では勢いが何よりも重要だ。そのためライオンズがCSに進出して、なおも増田投手が不安定であれば、松井監督もすぐに決断をすることになると思う。
そしてもうひとり、増田投手と共に状態が気になるのが平井克典投手だ。平井投手も増田投手同様、直近6試合の登板中3試合で失点をしている。平井投手もやはり勤続疲労がなかなか抜けないのだろう。
ちなみに平井投手は先日、2019年に81試合投げた疲れが最近ようやく抜けて来た、というようなコメントをしていた。このシーズン81試合登板というのは、ライオンズの大先輩である稲尾和久投手の78試合を抜いてのパ・リーグ記録だったわけだが、この起用法は、筆者は未だに正しかったとは考えられない。
その昔、困った時の「ピッチャー鹿取」は一種のキャッチフレーズとなるほどで、鹿取義隆投手も130試合制の頃にシーズン63試合に登板したことがあった。
そしてその後のシーズンでも鹿取投手は投げ続け、ライオンズに移籍して来た一年目にはセーブ王にも輝いている。だが同じ横手投げのリリーバーであっても、鹿取義隆投手と平井克典投手には絶対的な違いがある。
その違いとは、鹿取投手は最低限5〜6球ブルペンで投げればすぐにマウンドに登ることができたという点だ。つまりブルペンで投げる球数が鹿取投手の方が圧倒的に少ないため、同じように連投を強いられたとしても、疲労度は鹿取投手の方が平井投手よりも小さい。
鹿取投手は1997年は膝を痛めて8試合にしか投げられず、それが原因で40歳で引退してしまった。だがその前年の1996年には47試合に投げて防御率2.40という好成績を収めている。
そう考えると平井投手は今年はまだ32歳で、鹿取投手が引退した時よりもはるかに若い。そのため平井投手はコンディショニングにさえ気をつければ、これからまだまだ投げられるということだ。
だが平井投手はさすがにブルペンで5球だけ投げてマウンドに登るというような芸当はできないため、実際問題としては、コンディショニングを重視していた鹿取投手以上にコンディショニングに気を付けていく必要がある。
平井投手の今季は4月は9試合に投げて防御率0.93、5月は9試合で1.04だった。だがこれが6月になると7試合で4.26、7月は9試合で3.00、8月はここまで5試合で5.40というように、シーズンが進むにつれて成績が下降して来ている。
これは明らかに疲労が原因だと思われるため、平井投手も増田投手同様、今後しばらくは連投はさせるべきではないだろう。中日を設けながら、疲れが残ったまま投げさせないということが今後の課題になってくると思う。
増田投手も平井投手も現在は連投させることは難しい。だがそれによってブルペンが尻窄みになるというわけではない。若手リリーバーの中では水上由伸投手が徐々に調子を上げて来ているし、今年7月21日に育成から支配下登録されたばかりの豆田泰志投手はここまで6試合に投げてまだ点を失っていない。
増田投手と平井投手の力の衰えは心配されるところではあるが、しっかりと若い芽も育って来ている。やはり増田投手・平井投手という素晴らしいお手本がいるからこそ、若手リリーバーもそれを見てどんどんレベルアップしていくことができるのだろう。
豆田投手は将来的には守護神を務めたいとも明言していることから、増田投手の後継者のひとりとしてしっかりと育てていきたいところだ。
豆田投手はバファローズの山本由伸投手のフォームを参考にしてから急激にボールが良くなったようだ。だからと言って、誰でも彼でも山本投手を真似れば良くなるということではない。あくまでも豆田投手には山本投手のフォームが合っていたということだ。
それを幸運にも見つけられたのは、熱心にフォームを研究しながら支配下登録を目指して来た豆田投手の努力の証だ。豆田投手と水上投手は共に育成出身であり、ドラフト上位選手以上にハングリー精神を持って日々プレーしている。
このようなアグレッシヴな投手たちが近い将来守護神・セットアッパーを務めるようになり、増田投手や平井投手をもう少し楽な場面で投げさせられるようになれば、ライオンズのブルペン陣は安泰だと言えるだろう。
だが今すぐにこの若き二人を後ろに回すことはできない。近い将来、この二人が守護神・セットアッパーへと着実にステップアップしていくためにも、増田投手と平井投手にはまだまだ頑張ってもらう必要がある。
そのためにも首脳陣はこのベテラン二人を連投させることなく、常に良いコンディションで投げさせられるように上手く台所を切り盛りしていきたいところだ。だが豊田清投手コーチであれば、間違いなく上手くやってくれるだろう。
CS圏はまだ程遠いところにあるわけだが、それでも決して最後まで諦めず、ブルペン陣には増田投手を中心にもう一踏ん張りしてもらいたい。そして最後の最後で、ホークスを上回り3位に滑り込んでもらいたい。