2023年12月11日公開
2月1日というのは例年プロ野球のキャンプ初日となることから、「プロ野球選手の正月」と呼ばれることもある。だがライオンズに限っては今年同様、このキャンプイン初日が来年も2月6日になるようだ。
今年に関してはWBCもあったことから、プロ野球の開幕そのものが例年よりも一週間遅かった。だが来年はいつも通り3月下旬(3月29日)の開幕となる。となるとライオンズもやはり2月1日スタートの方が良いのではとも思えるが、松井稼頭央監督は今年の2月6日始動に手応えを感じているようだ。
冷静に考えるとライオンズは今季5位だったのだから、この順位を上げるためにはどこよりも多く練習すべきだ、という意見も出てくるだろう。確かにこれに関しては一理あるし、もっともなご意見だと思う。
だがキャンプは松井監督が仰る通り、長くやれば良いというものでもない。例えばメジャーリーグのキャンプインというのは日本よりも2週間程度遅く、だいたい2月中旬あたりから始まる。
松井監督は現役時代はメジャーリーガーだったこともあり、当然メジャーリーグのシステムを熟知されている。その経験からチームで行うキャンプは短く濃縮し、そこに入るまでの準備は個々でしっかりと行ってもらうのがベストだと考えたのかもしれない。
松井監督の考え方としては、2月1日から徐々に始めるのではなく、2月6日からフルスロットルで始めたいということなのだろう。確かにこの方が選手の緊張感は高まるし、2月5日までの個々での過ごし方も自ずとそれに合わせたものになっていく。
プロ野球選手は意外と、キャンプ序盤に怪我をするケースが多い。例えば「キャンプで徐々に体を作っていけばいい」と考えているような選手は、2月1日からフルメニューで動くことができず、そこで少し無理をしてしまうことで肉離れを起こす選手が少なくない。実際ライオンズの複数の主力選手たちも、キャンプ序盤での肉離れを経験している。
そのようなスロースターターの怪我を防ぐためにも、松井監督は2月6日からフルスロットルで動けるようにと選手に指令を出したのだろう。
なお5日遅れのキャンプインを「経費削減」と見る向きもあるようだが、筆者はそうは思わない。球団を持っている規模の企業が、たった5日分程度のチーム宿泊費を賄えないはずはないし、プロ野球チームという規模で考えればその程度で球団運営が楽になるような話でもない。
「5位で終わったのだからキャンプを短縮するなど言語道断」というふうに語るプロ野球解説者の方もいるが、そもそも今季ライオンズが勝てなかったのは、不祥事によりシーズンを通して四番打者が不在だったためだ。もし打線の核がしっかりしていれば、マキノン選手のことだって四番ではなく、もっとチャンスメイクをするための打順に据えることができ、もっとマキノン選手の個性を活かせたはずだ。
そして球団が本当に経費削減が必要な状況であるならば、屋内練習場や若獅子寮の建て替えなど難しかったはずだ。ましてや今オフはすでに新外国人選手に対し2億5,000万円を捻出しており、もしヤン投手も獲得できることになればその額は4億円近くに上る。
そのためこの日程短縮を「経費削減」とだけ言って批判する方の考え方は、あまりにも短絡的とは言えないだろうか。そもそもこれを経費削減と批判した解説者は、この5日間で松井稼頭央監督が何をしたいのかをしっかりと考えたのだろうか。それとも松井監督が5日間のんびりするとでも考えているのだろうか。
古い野球解説者は時代に合った考え方をできない方が多く、新しいことやメジャー流のやり方をとにかく批判したがる。Try&Errorの精神ではなく、やる前から頭ごなしに批判してくる。
自分の気に入らないことを頭ごなしに批判するような野球解説者の言葉は、これはファンの野次と同じでありまったく建設的ではない。野球解説者を名乗るのであれば、この5日間の短縮日程に関してメリット・デメリットの双方を挙げた上でその結果を論理的に予想し、分かりやすく我々ファンに対しアウトプットするのが仕事なのではないだろうか?
プロ野球解説者も、もう少し新しいものを学ぶ姿勢を見せる人が多くてもいいような気がする。新しいものを学ばずに新しい人たちのやり方を批判するのは、これはまったく解説とは呼べない代物だ。
そしてこれも松井監督が仰るように、現代のプロ野球選手のほとんどはオフも休まずトレーニングを積んでいる。筆者がサポートしたプロ野球選手たちを見ても、オフにのんびり休んでいると思われる選手は一人もいなかった。
一昔前、二昔前であれば、体はキャンプインしてから絞ればいいと呑気なことを言っているプロ野球選手も非常に多かった。例えば2月1日は10kgのオーバーウェイト状態で入り、そこからノックを受けながら開幕までに10kg絞って行くというようなやり方だ。
しかしこれは完全に昭和のやり方であり、プロのアスリートとしては奨励できるやり方ではない。近年この調整に失敗して成績を落としてしまった選手として、ライオンズではエルネスト・メヒア選手の名前が挙げられる。
2014年、メヒア選手はシーズン途中加入選手としては史上初のホームラン王に輝いたものの、オフをのんびり過ごしすぎて体重が増えすぎてしまい、キャンプインをオーバーウェイト状態で迎えたことでまともに動くことができなかった。
それでも最終的には135試合で27本塁打をマークしたわけだが、前年の106試合で34本という数字からはやや落としてしまった。だが翌年は西武球団がメヒア選手の体調管理を徹底するようになり、2016年は再び35本塁打で大活躍を見せている。
メヒア選手の場合は調整不足で怪我をしたわけではないが、個々での調整が上手くいかないと怪我をするだけではなく、このように成績を大幅に落としてしまうこともあるという一例になった。
だがライオンズの選手たちはほぼ全員、オフはしっかりとトレーニングを積み、キャンプインにはすでに仕上がった状態で入ってきている。2022年を見ても、ルーキーだった隅田知一郎投手でさえもキャンプイン初日にブルペン入りしているほどだった。
プロ野球のキャンプが2月1日から始まるというのは、もう何十年も前から続いている慣例だ。それこそまさに昭和からずっと続いていたものだ。だが昭和のプロ野球選手と令和のプロ野球選手とでは野球の取り組み方はまったく変わってきている。
現代ではスポーツ科学や栄養学が進歩し、オフをどう過ごせばペナントレースをしっかりと戦っていけるのかということを、選手たちは個人契約する筆者のようなパーソナルコーチやトレーナー、栄養士らと相談しながら体を作って行く。
もはや正月太りするようなプロ野球選手など存在せず、そんなことをしていてはあっという間に後輩たちに追い抜かれることを誰もが理解している。
プロ野球選手たちの意識がこのように変わってきたのだから、プロ野球の慣例もそれに合わせて変えて行く。それが来年もキャンプインを2月6日スタートにした松井稼頭央監督の考えなのだろう。
メジャー流キャンプ、とまではいかないものの、松井監督が自ら体験してきたメジャーの良さを少しずつライオンズに還元して行くというのは、これこそライオンズが快く松井稼頭央選手をメジャーに送り出した際に願った将来の形だ。
NPB流とMLB流の融合ー、これは日米を経験した松井稼頭央監督にしかできないことだ。松井監督にはキャンプ日程だけではなく、メジャーの良い点をどんどんライオンズに取り入れていってもらいたい。
そしてライオンズというチームを新しく生まれ変わらせ、時代に合ったやり方で新たな黄金時代を築き上げてもらいたい。松井稼頭央監督の経験値と思慮深さがあれば、これは必ず近い将来実現されるはずだ。そしてその一歩目が2月6日にキャンプインすることで、選手たちに意識の変化を求めるこの手法なのだと筆者は考えている。