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2024年5月27日公開

渡辺久信GMの意に沿わない選手起用を続けていた松井稼頭央監督の失策

まるでかつてのアスレティックのような状況だった渡辺GMと松井監督の関係性

渡辺久信監督

一部メディアでは、今季ここまでのライオンズの成績は松井稼頭央監督だけの責任ではなく、フロントの責任も重いという論調になっている。確かにそれはその通りであるわけだが、しかし責任の重さということで言えば、松井監督の責任の方が重いように思える。

西武球団のGMは渡辺久信代行監督であるわけだが、GMというのはチームが勝てるように選手を集め、監督に対し「この選手はこのように起用して欲しい」という要望を添えて選手を預けるのだ。だがこのあたりでどうやら渡辺GMと松井監督の間には行き違いが多かったらしい。

選手の起用法に関しても、選手を入れ替えるタイミングにしても、松井監督は渡辺GMが望まない形での決断が多かったらしい。その一例として挙げられるのが陽川尚将選手の起用法で、2軍で絶好調だった時にはまったく一軍には呼ばれずに、調子が落ちて来た頃になってようやく一軍登録されたものの、1試合にだけ出場して三振に倒れると、また即二軍に戻されてしまった。

つまり言い換えると、松井監督は渡辺GMが求めた選手起用法を遂行しなかったということになる。GMと監督のどちらに決定権があるかと言えば、最高決定権はもちろんGMにあり、そのGMの意向をグラウンド上で汲むか汲まないかは監督の裁量次第ということになる。

また、GMとしては監督が意図しない選手起用をしていた場合には、監督を更迭する権限がある。例えばかつてのオークランド・アスレティックスを例に挙げると、ビリー・ビーンGMはセイバーメトリクスを元にし勝てるチームを作ろうとしたのだが、当時のアート・ハウ監督はセイバーメトリクスの妥当性を当初信じておらず、ビーンGMの意向にまったく沿おうとしたなかった。その結果ハウ監督率いるアスレティックスは、まるで今季ここまでのライオンズかのように負け続けた。

だがビーンGMが自らの意向に従おうとしないハウ監督の解任をチラつかせると、ハウ監督はそこでようやくビーンGMの指示通りに選手起用をするようになった。するとアスレティックスは突然の快進撃を見せるようになり、西武球団同様の低予算球団でありながらも、3年連続ポストシーズンに出場するまでに至った。

このアスレティックスの例のように、ライオンズでも渡辺GMの意向に沿わない選手起用を松井稼頭央監督が続けていたようなのだ。なお打順に関しては平石洋介ヘッドコーチによれば、打撃コーチから上がって来たものを、最終的には松井監督が決定していたという。つまり打順の組み替えはすべて松井監督の意向だったと言える。

松井監督は温厚で人格者とも呼べる人柄である反面、非常に頑固なところがある。そのため自らがベストだと信じたことをなかなか変えていくことができず、どんどん固執していってしまったのだろう。渡辺GMもそれに気付いたことで今回の更迭を決断したのだと思う。

コルデロ選手とアギラー選手を生かせていないのは明らかに松井稼頭央監督の失策

ちなみに今回の監督更迭劇は松井監督自らが休養(辞任)を申し出たわけではなかった。そのため松井監督自身も更迭後に「もっと続けたかった」というコメントを残している。これまで報道されたことをまとめると、まず数日前に球団側から松井監督との話し合いの席が設けられ、そこでこれ以上負けることはもう許されないという圧力がGMからかけられ、半ば強制的に休養する旨を承認させられたようだ。

名目上は休養となっているが、松井監督は体調面では不安はないため、事実上の更迭だと言って間違いはないだろう。なお松井監督は負け試合を続けている間歯を強く食いしばりすぎて、顔の筋肉が硬直してしまったらしい。それを治療するためのテープを顔に貼っていたくらいで、采配を揮うのに影響ができるほどの体調不安は抱えていなかった。

さて、中には「こんな戦力で戦わされた松井監督は被害者だ」、というニュアンスで記事を書いているメディアもいるわけだが、筆者はそれは違うと思う。例えばフランチー・コルデロ選手を例に挙げると、コルデロ選手は明らかに守備に不安があった。なおかつ慣れない日本の野球にアジャストしていくという気苦労も抱えていた。このコルデロ選手を復調させられなかったのは、単純に松井監督の起用法によるところが大きい。

筆者は以前、コルデロ選手に関してはDH起用を試すべきだと書いた。また同時に、コルデロ選手は守備に不安がある前提で獲得して来たのだから、守備を理由に登録を抹消すべきではないのだ。これは間違いなく渡辺GMから松井監督に伝えられていたはずだ。だが松井監督はレフト以外の選択肢を試すことなくコルデロ選手を二軍に落とし、そのまま一軍に戻すことをしなかった。

ヘスス・アギラー選手に対してもそうだ。アギラー選手には明らかに疲れた見えていたわけだが、それでも松井監督は右足首痛を発症するまでアギラー選手を起用し続けた。もちろん一時期アギラー選手をスタメンから外したこともあったわけだが、しかし慣れない日本の野球、慣れない人工芝によりかかる下半身への負担を考えると、慣れるまではもう少し違う起用法もあったはずだ。

また、活躍した選手を次の試合で打順を降格させたり、スタメンから外すということも一度や二度ではなかった。そして明らかに古賀悠斗捕手が原因で失点を増やしているにもかかわらず、柘植世那捕手を起用することさえほとんどなかった。

そして継投策としては最初に「3連投はない」と言ってしまったことで、2連投後に守護神のアルバート・アブレイユ投手を起用できない状況に自らを追い込んでしまったこともあった。これに関しては「3連投はない」と言ってしまったことで、相手チームも「今日はアブレイユ投手は出てこない」と分かるようになってしまう。

このように、松井監督は決して渡辺GMの被害者ではないのだ。渡辺GMが求めたやるべき采配を見せられなかったのだから、冷たい言い方をすると解任されても仕方なかったのである。

松井稼頭央監督にはなく、渡辺久信代行監督にはあるもの

適材適所で選手起用することができなかった松井監督に対し、渡辺監督は2008〜2013年に指揮を執っていた時点ですでに適材適所での選手起用を見せている。そして松井監督と最も違う点は、寛容力という言葉にも表れているように辛抱強さを持ち合わせている点だ。

松井監督は選手の起用法をコロコロ変えてしまうことにより、選手に役割を上手く与えることができなかった。しかし渡辺監督は「お前はこういうふうに起用していく」と選手に告げ、しばらくは結果を出せなくても辛抱強くその起用法を続ける。そのため当時のライオンズからは主力級の打者が続々と育っていた。

一方の松井監督は役割も何もなく、打てなければ変える、打っていても変えるという目まぐるしさで、選手が役割を理解したり成長していく間もなく、あまり信念が感じられない起用法を続けていた。本来であればヘッドコーチがそのあたりに対し諫言しなければならないわけだが、しかし頑固な松井監督を説き伏せることは、上下関係が特に厳しかったPL学園の後輩という立場では、やはり難しかったのだろう。

松井監督になくて渡辺監督にあるものと言えば、寛容力、発信力、忍耐力、柔軟性、統率力、闘争心といったところだろうか。渡辺監督はどちらかと言えば非常に熱い闘将タイプの監督だ。普段はベンチにどっかりと座っていながらも、選手を守るためには試合中に怒りの表情を見せることもある。さらには不甲斐ないプレーをした選手に対しては怒鳴りつけられる厳しさも持っている。

例えば渡辺監督が二軍監督だった頃、ある選手が朝食も何も食べずにイースタンリーグの先発マウンドに登り、活躍することができなかった。それを知った渡辺監督は、何も食べずに先発マウンドに登るなどプロのやり方ではないし、そんなことでは永遠に一軍に上がることなどできない、と叱りつけたこともあった。

そして大ベテランである中村剛也選手栗山巧選手も、まさに渡辺久信監督でなければここまではなっていなかっただろう。それに関しては中村選手自身がそう語っている。

松井監督は選手から慕われていた。これに関しては疑う余地はない。だが問題なのは慕われ方だ。松井監督のアドバイスで活躍できるようになったから慕っていたのか、それともまったく怒ることがなく優しい監督だったから慕っていたのか。もしこれが後者である場合、やはりこの敗因に対する松井監督の責任はメディアで語られている以上に大きいはずだ。

もちろん松井監督にはまたいつかライオンズのユニフォームを着てもらいたいわけだが、しかし将来の監督候補が渡辺久信代行監督を含め、西口文也二軍監督、豊田清投手コーチ、松坂大輔氏と複数いるため、現実的には松井監督が監督として再登板する可能性はほとんどないだろう。しかしいつか松坂監督が誕生した際に打撃コーチとして入閣する可能性などはもちろんあるだろう。

とにかく筆者個人としての意見は、松井監督にはできれば今季最後までは指揮を執ってもらいたかったということだ。しかしそれが許されない現状があり、松井監督自身も渡辺GMの意に沿わない選手起用を続けてしまったため、今回の更迭は起こるべくして起こったと言えるものなのかもしれない。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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