5月5日に若林楽人選手が三盗を失敗した場面で走塁コーチたちが怠った義務とは?

2024年5月 8日公開

若林楽人選手が三盗を失敗した場面で走塁コーチたちが怠った義務

若林楽人選手

2024年5月5日のホークス戦の5回裏、二死二塁という状況で二塁には若林楽人選手、打席にはヘスス・アギラー選手が立っていた。この場面は四番アギラー選手にどっしりと構えさせて走者を返してもらうのが最善策だったと思われる。そしてそれこそが四番打者に対する首脳陣が出すべきサインだ。

だがこのアギラー選手の打席ですでに二盗を決めていた若林選手は、三盗を試みてアウトになってしまい、アギラー選手が打つ間もなくチャンスは潰えてしまった。この場面に関しては、三盗を失敗した若林選手ばかりが矢面に立たされてしまったわけだが、若林選手のコメントを聞くと、どうやら三塁の阿部真宏コーチとの連携不足だったようだ。

ただ、どのような連携不足だったのかは語られていないため、ファンには正確なところを知ることはできない。だがこの場面での連携不足として考えられることは、俊足の若林選手に対し「グリーンライト」という、走れそうならいつでも走って良いですよというサインがまず出されていたことだ。それによって若林選手はまず二盗を成功させた。

そしてここで阿部コーチとの連携ミスが発生するわけだが、恐らく若林選手は「無条件のグリーンライト」だと受け取っており、阿部コーチは「二盗まではグリーンライト」という指示を出していたつもりだったのではないだろうか。最も考え得るこの場面における連携ミスと言えば、そのようなことだと思う。

若林選手ら野手陣と、阿部・赤田両走塁コーチとの間ではすでに前日までに、戦術面でのミーティングが行われていた。前日にミーティングが行われていたにも関わらずその翌日に連携ミスが発生したわけだが、この場合三盗を失敗した若林選手を責めたくもなるが、実際には責を負わなければならないのは阿部・赤田両走塁コーチだ。

戦略や戦術というのは、監督コーチはミスが起こる前提で策定し、実施して行かなければならない。そう考えるとすでにミーティングの段階で阿部・赤田両コーチは、しっかりと理解し切っていない選手もいる、という前提で考えていかなければならないのだ。

そして走塁面で戦術を理解し切っていないと本当に困ってしまうのは、盗塁やグリーンライトのサインが出される俊足選手たちだ。若林選手を筆頭に、金子侑司選手外崎修汰選手源田壮亮主将、高松渡選手らがそうだ。走塁コーチは盗塁のサインが出されるであろう俊足選手に対しては、二度三度と違う方面から戦術を正しく理解しているかを確認しなければならない。それがコーチの義務だ。

1分40秒/若林選手の盗塁失敗シーン

良く言えば冷静沈着、悪く言えばファイティングポーズを見せない松井稼頭央監督

スポーツニュースやSNSでは若林選手の三盗が無謀で無策だったと言われることも多かったわけだが、若林選手としてはグリーンライトであると理解していたと思われ、松井稼頭央監督が掲げる走魂というスローガンも踏まえ、さらには自分は走塁面でも大きな期待を持たれているというプレッシャーを感じながら、チームが極度の得点力不足の中、少しでも得点できる可能性を高めようと積極果敢に攻めた結果だった。

若林選手自身もこの場面は「やるなら決めなきゃいけない」と反省のコメントを残しているわけだが、しかしこの場面は松井監督、平石洋介コーチ、阿部真宏三塁コーチのいずれかが明確な形で「三盗はするな」というサインを出さなければならなかった。コーチ陣としては「二死二塁で四番だし、まさか走らないだろう」とでも思っていたのだろうか。だがここで「三盗はするな」のサインを出さなかったのは完全にベンチの失策だったと言える。

筆者も監督兼三塁コーチを務めたことがあるのだが、「盗塁するな」というサインも用意し、走るべきではない場面では走者には走る振りだけをさせていた。実際に走らなくても、走る振りをしているだけでも投手は集中力を削がれるものなのだ。そして上述の若林選手のような場面も、筆者自身監督兼三塁コーチとして経験したことがある。その時には筆者は二塁走者に対し「盗塁するな」というサインを毎球出していた。

そのサインを理解した走者は盗塁することなく、本気で盗塁してきそうなリードを取ってバッテリーを揺さぶり、投手の集中力を上手く削いでくれた。すると俊足走者に三盗をされるのが嫌なバッテリーの配球はストレート系が自ずと多くなり、打者は的を絞りやすくなり、結果その時は三番打者が二塁打を打ってくれた。

今のライオンズは打線が奮わないだけではなく、このような選手・コーチ間の連携さえも上手く取れていない。だが不思議なのはその連携ミスを知りながらも、松井稼頭央監督が小言一つ言わないことだ。本来であればファンに見せるプロ野球なのだから、松井監督も「あそこは走塁コーチがランナーを走らせないようにしなきゃダメだった」くらいのことを言わなければならない。少なくとも故野村克也監督であればそうボヤいただろう。ましてや星野仙一監督であればベンチを蹴り上げていたかもしれない。

松井監督は良く言えば冷静沈着と言えるし、悪く言えばファイティングポーズを見せない監督だとも言える。勝っていれば前者だと見られるし、現状のように負けている時には後者として見られる。一方首位を走るホークスの小久保監督は、選手のミスに対してもコーチのミスに対してもかなりの厳しさを見せている。

企業コンプライアンスばかり気にして選手に厳しくできなくなってしまった西武球団

今のライオンズには「プロとしての厳しさ」がまったく感じられない。選手たちは恐らく、何度ミスをしてもまた挽回できるチャンスがいくらでもあるという前提でプレーをしているのではないだろうか。特に外野のように確固たるレギュラーがいない現状では、「レギュラーがいないのだからチャンスはまたいつでも巡ってくる」とでも選手たちは心の奥底では考えているのだろう。

だが目の前のチャンスがラストチャンスだという気持ちで挑めない者は、真のレギュラーになることなどできない。残念ながら今のライオンズの若手選手は、ファンにそう思われても仕方ない選手たちばかりだ。渡辺久信監督の頃までは、個を生かす伸び伸び野球の中にもまだ厳しさが感じられていた。

例えば渡辺監督は投手出身監督で、しかも自身が黄金時代のライオンズの絶対的エースだったということもあり、特に当時のエース涌井秀章投手に対しては常に高いレベルを要求し続けた。間違いなく一軍レベルであっても、エースとして不甲斐ないと感じれば、他の一軍投手よりは良いはずなのに二軍で再調整させることも厭わなかったし、エースに対する厳しさはファンにもヒシヒシと伝わってきていた。

だが渡辺監督が退任されて伊原春樹監督がチームを空中分解させてしまうと、その後任を務めた田邊徳雄監督時代には完全に放牧主義となってしまった。どうやら西武球団のコンプライアンスが厳しくなりすぎて、監督コーチが下手に選手に厳しくできなくなってしまったようなのだ。

そうなってしまった最初の原因を作ってしまったのは、菊池雄星投手とトラブルを起こしてしまったデーブ大久保コーチで、さらに追い討ちをかけたのが選手の心を逆撫でするような言葉を繰り返し、まったく時代にそぐわないやり方で厳しさだけをパワハラ的に選手に押し付けた伊原監督だったと言える。

伊原監督の問題もあったことから、田邊監督も選手に何かを強制できるような状況ではなかった。極端に言えば、もはや選手個々を信頼してグラウンドに送り出すことしかできないような状態だ。そして辻監督時代には、選手が試合中に監督をイジることが許されるほどまでライオンズは凋落してしまった。リーグ二連覇は果たしたとは言え、渡辺監督までの、ほとんど毎年Aクラスにいた強いライオンズの面影はもはやすっかり消え去ってしまった。

だがそんなライオンズの中においても、まだ豊田清投手コーチだけは選手に対し厳しさを持っているようにファンには伝わってきている。豊田コーチのインタビューを聞いていても、褒めるところはしっかり褒めながらも、ダメなところは容赦なくダメ出しをする。やはり首脳陣側とすれば、これくらいの厳しさを示していかなければ選手たちもなかなか緊張感を保つことができないのではないだろうか。

残念ながら現在のライオンズには、選手に媚びているように見える行動を見せる一部コーチもいる。松井監督もさすがにそれには気付いているはずなのだから、松井監督自身が監督としてまず厳しさを示さなければならないだろう。ミスをした選手・コーチを庇うだけではなく、ダメなところはハッキリとダメ出しできる厳しさを、ファンにも伝わるように見せていかなければならない。そしてその厳しさは、決してコンプライアンスを蔑ろにするものではない。

今のライオンズを見ていると首脳陣にしても選手にしても、「う〜ん、どうして僕たち勝てないんだろうね?」と考えながらプレーしているように見えてしまうのだ。例えばこれが黄金時代であったならば、若林選手のように三盗や送りバントを失敗したり、強風の中フライを捕れなかったりすれば、試合後に2時間でも3時間でも特訓をしていただろう。

古い言い回しをすれば、反省など猿にもできるのである。最近はそんな猿を見かけることも少なくなったように思えるが、ミスを反省することそのものにはまったく意味がない。ミスをしたら、同じミスを決して繰り返さないのがプロフェッショナルだ。筆者はそのような野球をライオンズには求めているのである。だが残念ながら今のライオンズにそれを求めることは難しいのかもしれない。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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