2024年5月 9日公開
弱り目に祟り目とはまさにこのことだろうか。これまで四番としてチームを牽引してきてくれたヘスス・アギラー選手が右足首痛、そして平良海馬投手が右前腕の張りで一軍登録を抹消されてしまった。二人とも、今のところどれくらいで戻って来られるかはまだ分からないようだ。
アギラー選手に関してはやはり慣れない疲れが溜まっていたのだろう。まずメジャーリーグの球場というのはほとんどが天然芝で、足腰への負担が少ないことから選手寿命を伸ばす効果が示されている。一方の日本のプロ野球の球場の大半は人工芝であり、人工芝の最深部はコンクリートであるため体への負荷はかなり大きい。
確かに近年の人工芝は、比較的天然芝に近い打球の弾み方をするようになり、走っていても柔らかさを感じる。だが根本的な部分では人工芝の下はコンクリートであることに違いはないため、やはり天然芝の野球場と比べると下半身の疲れは出やすい。
アギラー選手の場合はアメリカでもベネズエラでもほとんどが天然芝でのプレーだった。守備面に関してはもちろん人工芝よりも天然芝の方が難しくなり、ずっと天然芝で一塁を守ってきた経験から、アギラー選手の一塁守備で見せるハンドリンクは柔らかくて非常に上手いのではないだろうか。
天然芝や土のグラウンドというのは、いくら丁寧に整備されていてもイレギュラーバウンドをする前提で守る必要がある。だが人工芝の場合、イレギュラーバウンドをするのはアンツーカーなどの切れ目のみだ。そのためゴロがイレギュラーするケースはまずない。かつての松井稼頭央選手がメジャーで守備に苦しんだのもこの辺りに原因があったと言われている。ちなみにベルーナドームは松井稼頭央選手がメジャー移籍する前からもちろん人工芝だった。
アギラー選手の体重は125kgもある。源田壮亮主将が75kgであるため、この二人の体重差は細身の女性一人分ということになる。つまりアギラー選手は、源田主将が女性を一人背負ってプレーしているような体の重さなのだ。となると当然だが75kgの源田主将よりも、125kgのアギラー選手の方が足腰への負担は大きくなりやすい。
ここ最近アギラー選手が右足首を痛めてしまったのは、恐らく慣れない人工芝での体重の負荷に足首が耐えられなくなったということなのではないだろうか。この足首痛の類は、普段5kmしか走らないジョガーが突然20km走ると発症することがよくある。筆者もこの足首痛を経験したことがあるのだが、捻挫のように歩けないような痛さではない。痛いは痛いのだが、しかし基本的には日常生活にはほとんど影響することはなく、スポーツをすることが僅かに難しくなる程度だ。
恐らくはアギラー選手もそのような状態だと思われるため、それほど長引くことはないだろう。早ければ最短の10日、大事をとって慎重に行ってもせいぜい2〜3週間というところになるのではないだろうか。
さて、一方の平良投手であるわけだが、今季はメジャー行きを宣言している髙橋光成投手が右肩の張り、そして同じくメジャー行きを明言している平良投手が右前腕の張りと、最も成績を残さなければならないこの二人が揃って離脱してしまっている。
これに関しては筆者はこれまでも幾度が書いて来たわけだが、二人とも以前の投げ方と比べると明らかに下半身を使う割合が減っているのだ。筆者はそれが、二人とも利き腕にコンディション不良を抱えた原因だと考えている。二人とも筋トレで体を大きくして、大きくした筋肉によって筋出力を上げて球速を上げようとしているのだ。球速に関するこだわりは二人とも持っており、より速いボールを投げられるようにしたいとオフからずっと話している。
平良投手は確かに今季も防御率としては良い数字を残してはいるが、今季は簡単に相手に先制点を与えるケースが目立っている。一昔前の先発投手は基本的には常に完投を前提にしてマウンドに登っていた。そのためペース配分も慎重で、例えば涌井秀章投手などは入れるところは入れて、抜くところはしっかり抜くというオンオフを上手く使い分けていた。
だが今のライオンズでは基本的には完投は求められていない。もちろん今井達也投手のように120球に迫る球数をバテることなく投げられる投手もいるが、しかし他の先発投手は基本的には100球前後でリリーフ陣にスイッチしていく。
涌井投手がエースだった頃と比べると、今の先発投手たちは初回から飛ばしていくことができ、それによりプロ野球全体で先発投手の防御率が10年前よりも向上して来ているのだ(投高打低の傾向)。つまり近年のプロ野球では、HQS(7回2失点以内)を達成することだけが良いピッチャーの証とは言えなくなって来ているのだ。やはり勝てる投手というのは、点を取られたとしても相手に先に点を与えることはせず、相手先発投手よりも先にマウンドを降りることもしない。かつての涌井投手のように。
そう考えると髙橋投手にしろ平良投手にしろ、先発投手としての球数は10年前よりもかなり少なくなっているにも関わらず、二人とも利き腕のコンディション不良でチームを離脱しているのは、やはり体とフォームの作り方に何か問題があるということなのだろう。筋トレももちろん重要だが、筋トレによって球速を上げようとするのは間違いだと言えるし、それによって長期的に成功した選手はほとんどいない。
やはりローテーション投手は、一年間ローテーションを守ってこそのローテーション投手だ。その中で勝ち星を増やして最多勝争いに加わっていかなければならないのがライオンズのエースであるわけだが、近年は最多勝争いに加わった投手はライオンズからはまったく出ていない。
髙橋投手と平良投手は、メジャーに行くと宣言してファンをガッカリさせただけではなく、二人とも今季は離脱してチームに迷惑をかけている。オフには合同自主トレで同じようなトレーニングをしてきた二人が、同じように利き腕のコンディション不良を抱えたというのは、決して偶然ではないはずだ。
さて、景気の悪い話は一旦さておき、アギラー選手の代わりには蛭間拓哉選手、平良投手の代わりに青山美夏人投手が一軍に合流する。そして中村祐太投手に代わり浜屋将太投手も3年振りに一軍に合流することになった。
蛭間選手に関しては今季は春先からなかなか調子が上がってこなかったわけだが、しかしファームでコーチの指導をみっちり受けたことで近頃はようやくバッティングにらしさが戻って来て、最近10試合では5回マルチヒットをマークし、40打数15安打でこの10試合での打率は.375となっている。
今ライオンズの一軍は打線が湿りっぱなしになっているわけだが、この蛭間選手が何とか起爆剤になってくれればと思う。ちなみに蛭間選手が状態が上がり始めた時期と、栗山巧選手がファームに落ちた時期は一致している。恐らくは師事している栗山選手にも何らかのアドバイスをもらったことにより、蛭間選手は一気に状態を上げて来たのだろう。
そして青山投手は今季から本格的に先発に転向したわけだが、ファームではここまで1勝2敗ながらも、防御率は30イニングスを投げて1.80という抜群の安定感を見せている。ファームで見せて来たピッチングを一軍でも同じように見せることができれば、十分平良投手の代役を務めることができるだろう。だがそのためにはやはり先制点を相手に与えないことが重要になり、それさえできればチームを勝ちに導けるピッチングができるはずだ。昨季はルーキーながら代役守護神として開幕一軍入りした青山投手だけに、本格的に先発転向した今季の初マウンドを筆者は大いに期待していきたい。
続いて浜屋投手も今季はファームで5試合で26イニングスを投げ、勝ち負けはないものの防御率は1.73という素晴らしい数字を残している。浜屋投手の場合は一軍ではリリーフ起用となるわけだが、5イニングス程度を投げるスタミナは十分にあるため、ロングリリーフとしても期待できるはずだ。浜屋投手も入団当初は背番号20を与えられて期待値が非常に高かったわけだが、残念ながら昨オフにはその20番は剥奪され、今季からは40番を背負ってプレーしている。その悔しさを晴らすためにも、浜屋投手には是非とも3年振りの一軍マウンドで躍動感溢れるピッチングを期待したい。
アギラー選手と平良投手の離脱はもちろん大きな痛手であるわけだが、しかし蛭間選手、青山投手、浜屋投手がその不在を感じさせない活躍でライオンズに新しい息吹を吹き込んでくれるはずだ。そしてこのフレッシュな面々の活躍により、ライオンズがいち早く立ち直ってくれることをファンとしては祈るばかりだ。