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2024年9月22日公開

成長している姿を見せる野村大樹選手と二軍でも燻る松原聖弥選手の違い

2025年に向けて飛躍のきっかけを掴みつつある野村大樹選手

野村大樹選手

9月は野村大樹選手が良い働きを見せてくれている。7月にホークスからライオンズに移籍してきて、8月までは1割台の打率に低迷して二軍降格も経験したわけだが、再昇格後の9月は月間打率がここまで.320と好調を維持している。ちなみに二軍に降格していた間のイースタンでの9試合では.387という圧倒的な打撃を見せていた。

ただ、.320と言ってもまだまだ打席数が少ないため、例えば次の試合で3打数ノーヒットという結果に終わってしまうと、この月間打率は一気に.285まで下がってしまう。逆に3打数1安打となれば.321と打率はやや上がる。月間打率というのは当然だが打席数が非常に少ないため、ヒットを打てば簡単に打率が上がるし、逆に打てない試合が続くと打率は急降下していく。

例えば怪我から復帰した平沼翔太選手の打率は3割台中盤と非常に高かったわけだが、数試合ヒットが出ないだけでその打率は.276まで下がってしまった。この平沼選手の場合は最近5〜6試合では三振の数が非常に増えているため、恐らくは相手バッテリーにほとんど打てないコースに誘われて、そこを振らされているのだろう。

さて、野村選手に話を戻すと、野村選手はクリーンナップを任せられるタイプとはまだ言えない。その理由は得点圏打率の低さにある。現在の得点圏打率は.219で、一軍復帰後はこれがやや改善されているとは言え、チャンスでの勝負強さという面で見るとまだまだ物足りない。だがこの得点圏打率も、今後コンスタントにヒットを打てるようになればそれが自信に繋がり、チャンスでも平常心で打席に立てるようになることで改善されていくことも考えられる。

そのためチャンスでの勝負弱さも、あくまでも「現時点では」という注釈であり、来季以降に今季のこの数字を繋げられれば、高校時代には68本塁打放った長打力も秘めているため、和製大砲へと成長できる可能性だってある。そしてシーズンを通して打率.300前後を維持し、20本塁打以上打つことができれば、自身が目標としている打点王のタイトルも自ずと見えてくるのではないだろうか。

同時期に移籍してきた野村大樹選手と松原聖弥選手の見え方の違い

同じ時期にライオンズにやってきた松原聖弥選手の場合、ジャンアンツで見せていた悪癖をライオンズでも同じように露呈してしまっている。そのため移籍というこのチャンスをまったく生かすことができていないわけだが、野村選手の場合はこの移籍を本当に大きなチャンスだと考えながらプレーしているのがひしひしと伝わってくる。

松原選手の場合は、もしかしたら優勝争いに加われるチームから最下位のどん底で喘いでいるチームへの移籍によって、モチベーションを下げてしまった可能性もある。ライオンズに移籍したのちも、「ジャイアンツの一軍で活躍したかったな〜」と思いながらプレーしているように見えてしまうこともあるのだ。もちろん絶対にそんなことを考えながらプレーはしていないのだが、しかし覇気が感じられないバッティングを見せ続けられると、ファンとしてはどうしてもそのように感じてしまうのである。

だがそういう意味では、野村選手にしても首位を快走していたチームから最下位チームへの移籍となったわけだが、とにかく野村選手はホークスでは一軍に上がるチャンスがほとんどなかった。二軍で活躍したとしても一軍に食い込む隙がなく、それこそ黄金時代のライオンズの若手選手たちと近い状態にあった。それが移籍によって一軍での出場機会に恵まれるようになり、一軍で思うなような成績を挙げられていない時であっても、本当に一生懸命プレーしているのがひしひしと伝わってきた。

そしてボールに向かっていく姿にも好感が持てる。9月15日の試合では佐々木朗希投手が投げた抜けたフォークボールで頭部死球を受けていたわけだが、その後の3試合でも9打数2安打とヒットはしっかりと出ており、21日の試合ではホームランも放っている。頭部死球を受けてしまうと無意識にボールに対する恐怖が勝ってしまい、踏み込んでいけなくなることが多い。例えば2008年のクレイグ・ブラゼル選手の例がまさにそれで、ブラゼル選手はシーズンの最終局面で頭部死球を受けたあとは、クライマックスシリーズにも日本シリーズにも出場することなく、そのまま自由契約となってしまった。

このブラゼル選手の場合は頭部死球の10日ほど前にも背中に死球を受けており、この死球禍により状態を落としてしまった。だが野村選手は頭部死球に怯むことなく、打席ではファイターのような姿を見せてくれている。このように打席でアグレッシヴになり、泥臭く懸命にプレーする選手こそが、近年のライオンズに最も欠けていたピースだとも言える。

松原選手ももちろん一生懸命プレーしてくれているわけだが、まだまだジャイアンツ時代のスタイリッシュなプレースタイルが抜けないのか、本人は懸命にプレーしてくれているのだとしても、ファンの目には攻守ともに一生懸命さが足りないと映ってしまうことがある。もちろんもう30歳である松原選手に、ここでいきなりプレースタイルを変えろと言っても難しいと思う。だが松原選手自身、ここで何かを変えるなり、もっと泥臭さを見せるなりしなければ、1〜2年後にはユニフォームを脱がざるを得ない状況にもなってしまうだろう。

一方の野村選手は、このコラムを執筆している最中に行われているマリーンズ戦でも5番ファーストとして出場し、初回にいきなり二塁打を放って見せている。つまりこの試合の1打席目を終えた時点で、.320だった9月の月間打率が.346まで跳ね上がったということだ。

2025年シーズンに向けて確かな希望が見え始めている西武打線

野村選手が今後も良い数字をキープしていくための鍵は、四球の数にかかってくると思われる。二軍降格前の野村選手の四球数は少なく、出塁率を見ても7月は.246、8月も.284と低空飛行が続いていた。そして7〜8月にかけての四球は、11打席に1つの割合だった。だがこれが9月に入ると7.5打席に1つの割合となっている。つまり今の野村選手は、それだけしっかりとボールが見えているということだ。

バッティングで良い成績を残すためには好球必打で打席に立つことが大切だ。ボール球や厳しいボールには追い込まれるまでは手は出さず、追い込まれるまではとにかく甘いボールだけを待って振り抜いていくということがとにかく大切で、今季それがほとんどできなかったのがライオンズ打線全体の姿であり、逆にこの9月にそれができているのが野村選手だと言える。

そして野村選手は左投手の食い込んでくるボールをやや苦手にしているわけだが、二軍降格前はそのボールを空振りすることが多かったのだが、一軍昇格後は、まだ左投手との対戦は少ないものの、それまで空振りしていたボールを見逃して、ボールカウントを増やせるようになってきている。このあたりが降格前と、昇格後の大きな違いとなっているのではないだろうか。

また、野村選手は右投手よりも左投手を苦手としているのが今季であるわけだが、昨日の試合では左腕小島投手から4号ホームランを放ち、これは今季初の左腕からのホームランとなっている。このように野村選手は、二軍降格前と一軍再昇格後でこれだけの違いを見せているため、8月までも一軍で結果を出せていない時期は、自分でも何が上手くできていないのかをしっかりと把握できていたのではないだろうか。

自分に足りていないことがハッキリと分かっていたため、二軍でしっかりと目的を持った取り組みを行うことができ、再昇格後の好調に繋がっているものと思われる。まだまだ今季24歳と若い野村選手なだけに、短期間でこのように成長してくる姿を見せられると、来季以降に本当に大きな期待を寄せたくなってしまう。

野村選手は決して俊足ではないが、隙あらば盗塁を決められる程度の走力は持っている。そのため来季は出塁率を上げてチャンスメーカーという役割で三番に定着することができれば、ライオンズにとってはこれは大きな戦力となっていくだろう。そして野村選手が三番として起用できるレベルになっていけば、最近は三番に入ることが多くなっている西川愛也選手もうかうかしていられなくなる。西川選手は4月以降で見ると、月間打率が最も高い月でも9月の15試合で.254で、短期的に見てもとても三番を任せられる数字を残すことはできていない。

そのためもし野村選手が三番として機能することができ、なおかつ来季は四番を任せられる外国人選手を獲得することができた場合、一番長谷川信哉選手、二番西川選手、三番野村選手、四番外国人助っ人、五番佐藤龍世選手、もしくはもう一人の助っ人、六番佐藤龍世選手、もしくは平沼選手というオーダーになっていくのではないだろうか。

ただ、西川選手の場合は得点圏打率が.344と非常に高いため、出塁率が求められる三番よりは、走者が溜まった場面での五番の方が数字的には合っているようにも見える。また、平沼選手も得点圏打率は.435と非常に高いため、やはり五番六番でのポイントゲッターとしての役割が期待でき、逆に選球眼が良く出塁率が.342となっている佐藤選手は、意外と二番に置いてあげると、坂本勇人選手のような活躍を見せ始めるのかもしれない。

選手個々の数字的特徴を観察していくと、打線ももう少し工夫できる点が見えてくるわけだが、このあたりは渡辺久信監督代行が投手出身であるため、基本的には打線に関しては打撃コーチの意向が強く反映されているものと考えられる。だが来季打撃コーチが一新され、このあたりの数字的特徴をもっと生かしたオーダーを組めるようになれば、来季は打線の繋がりはもっと良くなるはずだ。

ただし、もちろん今季に関しては佐藤選手以外に四番を任せられる打者がいない、西川選手以外に三番を任せられる打者がいない、という状況もあるため、一概に打撃コーチの取り組みを批判することはできない。しかしそのような状況でももっとできることはあるように見えるため、来季はもう少しセイバーメトリクスを含めた数字を読むことができる打撃コーチを招聘した方がいいのかなとも思える。

だがいずれにしても今季終盤になって野村選手という期待を持てる選手が出てきたり、長谷川選手が8月以降は18試合で.330以上の出塁率で4盗塁し、リードオフマンとしての成長を見せ始めていたりと、打線でも来季に向けて希望が見え始めてきた。

今のライオンズの立て直しは2年3年では難しいというのがメディアや解説者の基本論調であるようだが、筆者はまったくそのようには思っていない。四番を打てる軸となる強打者、そして30歳前後の経験値のある正捕手を獲得することができれば、投手力にはもともと定評があるため、来季からでも十分優勝争いに絡んでいくことができる。

だがそのためにも残り、今日の試合を終えると9試合となる今季を、来季の開幕戦だと思って戦っていくくらいの気持ちが必要だ。他チームにとっては優勝争い、CS争いという位置付けの残り試合だったとしても、ライオンズにとってはそうではなく、すでに来季の戦いが始まっているのだ。だからこそ残り僅かとなった今季を、今季ここまでの流れのままで終わらせていくのではなく、野村大樹選手のように明らかに成長しているという姿を見せながら戦って欲しいと筆者は願っている。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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