2020年11月11日公開
昨季までV2を達成していたライオンズだが、今季は3位という順位に終わり、CSに進出することも叶わなかった。もちろん例年であればCSに進出できる順位ではあったが、しかし今季はコロナウィルスの影響でファーストステージは開催されない。しかし少なくとも優勝からBクラスに転落することがなかったことだけは本当に良かった。
渡辺久信GMが誕生して以来、西武球団の雰囲気は本当に良くなったと思う。監督経験者がスポーツマネジメントを学びGMに就いたというのは、ライオンズにとっては本当にプラスに働いたと思う。これがかつてのGM的存在であった前任までの球団本部長であれば、順位を落とした責任、成績が奮わなかった責任をコーチ陣を代えることによって済ませていたかもしれない。
渡辺久信GMが誕生する前は、特に投手コーチは頻繁に交代させられていた。筆者は常々思っていたのだが、これではチームは強くならない。チームは選手だけではなく、監督・コーチも育てていく必要がある。かつてのライオンズも監督を育てようとする意図は常に見えていたのだが、コーチを育てようとはしていなかった。
今季のライオンズはチーム防御率もチーム打率も非常に低かった。以前の西武球団であれば簡単にコーチ陣を代えていたと思うのだが、渡辺久信GMはそうはしなかった。急降下してしまった攻撃力を見ても、「阿部コーチも赤田コーチも来年はきっとやり返してくれるはず」と、まるで選手に期待を抱くかのようにコーチ陣に絶大な信頼を寄せている。編成のトップのこのような言葉を聞いて燃えないコーチいるはずもない。
GM自身、やはり監督時代には目まぐるしく変わるコーチ陣にやり難さを感じていたのだと思う。コーチ陣の顔ぶれが変われば、チームとしての戦略も変わってくる。これが毎年のように繰り返されてしまっては、監督がやりたい野球がなかなかチームに浸透していかない。するとチーム全体で同じ方向を見ることができなくなり、戦い方もチグハグになり、1勝がどんどん遠ざかっていく。
今オフ1軍で変わったのはバッテリーコーチだけだった。これは2軍でコーチ経験を積んだ野田浩輔コーチを、今度は1軍の勝負所で実力を確かめてみたいという渡辺GMの親心と期待心の現れでもあるのだろう。現役時代の野田捕手は、実は細川亨捕手との正捕手争いに敗れてレギュラーになることはできなかった。だが2002年や2004年には優勝争いも経験し、ここぞという場面で活躍をしたこともあった。
そして当時、名捕手であった伊東勤監督がどのように細川捕手を正捕手に育て上げたのかも間近で見ている。この経験は正捕手としてはなかなかできないもので、二番手捕手だったからこそできた経験だと言える。もちろん現役時代の野田捕手は悔しかっただろうが、しかしコーチになった今、この時の経験は大きく役立つはずだ。
「選手が奮わなければコーチはクビになるだけ」、「今年の成績は低迷したが来年挽回するチャンスを与えられた」とであれば、当然後者の方がコーチとしてのモチベーションは上がる。そしてモチベーションが上がれば今まで以上の努力も惜しまなくなる。すると戦略・戦術も成熟していき、コーチ陣が監督の意図をより深く理解できるようにもなり、チーム全体で同じ方向を向けるようになる。
実は監督・コーチというのは簡単には代えるべきではないのだ。例えば監督がやりたい野球がチームに浸透するまでは3年かかると言われている。つまり自身4年目のシーズンになり、ようやく監督は自分のやりたい野球をチームにやらせることができるのだ。そのため筆者は成績が低迷していたとしても、チームを壊すようなことさえしなければ4年間は監督を代えるべきではないと考えている。
例えば伊原春樹監督の二次政権では、伊原監督がやや余計なことを口にしてしまい、それを端折って報道したスポーツ紙を読んだ選手たちに、意図しない形で監督の言葉が伝わってしまったことがあった。そしてそれによりライオンズを去る決意をしたと思われる主力もいたほどだった。このように意図せずともチームに不協和音を生んでしまう場合は、成績に関わらず監督は速やかに交代させるべきだと思う。だがそうでなければ、一度任せたのならば4〜5年はしっかりとチームを任せ切るべきだ。
ちなみに西武ライオンズとして2年以下の短命に終わった監督は、東尾修監督と伊東勤監督の繋ぎ役だと自認していた伊原春樹監督一次政権の2年、成績不振で辞任した同じく伊原監督二次政権の約2ヵ月、そして監督代行として伊原監督を急遽引き継ぎ、2軍監督経験もないまま監督就任した田邊徳雄監督の2年のみで、その他の監督は軒並み4年以上指揮を執っている。
このように、ライオンズは選手と監督を育てるノウハウは持っていた。あとはコーチを育てるノウハウを持てるかどうかだったわけだが、それを今、渡辺久信GMが培っていこうとしている。コーチというのは監督と選手を結ぶ役割を担っているため、監督がいくら有能であったとしても、コーチに能力がなければ監督の意図が選手たちに上手く伝わらず、チームは強くならない。
ライオンズが今投手陣に苦しみ続けているのは、渡辺GM就任以前、投手コーチを頻繁に代えていたツケだと言えるだろう。だが今、その悪い流れを渡辺GMが断ち切ろうとしている。投手陣は来季も西口・豊田両コーチという、かつては渡辺久信投手と共にプレーをした両コーチに来季も任せ、継続して投手陣の立て直しを図っていく。そして今季はすっかり鳴りを潜めてしまった山賊打線だったが、昨年・一昨年で得られた信頼関係は、阿部・赤田両コーチと渡辺GMの間で、今季の成績低迷だけではまったく揺らがなかった。
まだまだ今シーズンは終わったばかりだが、しかし渡辺久信GMのやり方、チームに対する言葉を耳にすると、来季は大きな期待を寄せても良いように筆者には感じられる。来季こそはきっと高橋光成投手、今井達也投手が開幕からしっかりと一本立ちし、山賊打線も復活の狼煙を上げてくれるはずだ。そんな来季に思いを馳せながら、筆者は西口コーチ、豊田コーチ、阿部コーチ、赤田コーチ、野田コーチには特に大きな期待を寄せたいと思っている。