2023年8月 1日公開
2023年7月30日、増田達至投手が通算106ホールド目を記録した。これはライオンズの球団歴代1位のホールド数となり、これまで長年ずっと1位だった星野智樹投手の105ホールドを更新するものとなった。
ちなみに増田投手はすでに通算193セーブを記録しており、いわゆる名球会入りまであと57セーブというところまで来ている。しかしまだ駆け出しだった頃の増田投手は右肩に不安があり、いつまで1軍で投げ続けられるのかという心配もあった。それでも1年目の2013年から2023年まで、11年連続で30試合以上に登板し続けている。
肩に不安があっただけにコンディショニングには誰よりも気を遣い、怪我を防ぐためのトレーニングやフォームの微調整を続けてきた。松坂大輔投手は引退する際に「自分に投資してください」と言い残したが、増田投手はまさにそれをずっと続けてきたからこそ、肩への不安が大きな怪我に繋がることもなかったのだろう。
ライオンズの投手たちはこの増田投手から、トレーニングだけではなく、いかにコンディショニングが大切なのかも学んでいって欲しい。そしていつか増田投手が引退した後も、増田投手を見て育って来た投手たちにレベルの高い守護神争いを繰り広げてもらいたい。
筆者は野球肩野球肘を動作改善によって克服させることを一つの仕事としているのだが、野球肩や野球肘の専門家である筆者から見ても、ライオンズ入団当初の増田投手はいつ肩が壊れても不思議ではないようなフォームで投げていた。言い換えると、かつてライオンズで守護神を務めた小野寺力投手のように、背番号も同じということもあるのかもしれないが、増田投手もまた怪我に苦しむかもしれないと、筆者は10年以上前、そのような目で増田投手を見ていた。ただ、それでも増田投手はピッチャーとして本当に魅力的な選手だった。
だが増田投手の体つきやフォームは年々少しずつ変わっていき、気付けば今季は11年目のシーズンを迎え、時々コンディションが低下することもあったわけだが、大きな故障に苦しむことなく投げ続けてくれている。11年ほど前の筆者の予測は良い意味で外れたということだ。
今回はホールド数の球団記録を塗り替えた増田投手だが、セーブ数もすでに2位豊田清現投手コーチの数字を大幅に上回るセーブ数となっている。豊田投手は他球団の成績も含めた通算でも157セーブ、鹿取投手は131セーブであるため、増田投手は文字通りライオンズ歴代No.1守護神と呼ぶことができるだろう。
増田達至 西武通算193セーブ
豊田清投手 西武通算135セーブ
鹿取義隆投手 西武通算73セーブ
小野寺力投手 西武通算59セーブ
潮崎哲也投手 西武通算55セーブ
高橋朋己投手 西武通算53セーブ
グラマン投手 西武通算52セーブ
ただし書き添えておかなければならない点として、豊田清投手はプロ8年目の2000年までは先発だったという点がある。1996年のシーズンから先発投手として頭角を表していき、1997年と1999年には10勝もマークしている。もし豊田清投手が最初からリリーバーだったとしたら、守護神として名球会入りしていた可能性は高かっただろう。
かつて、9回表のマウンドに豊田清投手が登ると西武ドームはどこか神聖な空気に包まれるようだった。投球練習を終えるとバックスクリーンに向き直り、帽子を胸に当て、祈りを捧げているかのように下を向き目を瞑る姿。その姿、その時の空気を覚えているライオンズファンも多いと思う。
そのかつての守護神豊田清投手と、現守護神増田達至投手を比較すると、まず性格に関しては豊田投手はとにかく引きずる性格だった。セーブに失敗すると何日もその失敗を考え続け、いわゆるくよくよしてしまう性格だった。だがくよくよしてそのまま流されてしまうのではなく、そこで打ち勝つ精神的強さを持っていた。
一方の増田投手は特別な儀式のようなことは行わず、性格も豊田投手とは真逆で失敗をまったく引き摺らない。性格はいわゆる天然であるようで、セーブ場面で失敗してもその日球場を出るとそのことはもう忘れているというくらい切り替えが上手い選手、それが増田投手の特徴だ。
もう現役は引退してしまった武隈祥太投手が増田投手の親友であるわけだが、学年的には武隈投手が一つ下になるのだが、ふたりはまるで同学年の親友のようだった。野球界に当たり前のように存在している上下関係はそこにはまったくなかった。
ある時武隈投手が1軍登録を抹消された際、武隈投手が戻ってくるまで一緒に戦っているつもりで投げる、という意味で、増田投手は自らのバックパックに武隈投手グッズであるタオルを結びつけていた。このように仲間意識や協調性が非常に高い選手で、このような投手が守護神として牽引するからこそ、ライオンズのブルペン陣はリーグ屈指となれたと言って間違いないだろう。
ライオンズでは現在四番打者が非常に深刻な問題を起こし、チームを壊してしまったわけだが、彼の和をほとんど意識していないようなコメントと比べると、増田投手はまさにチームを一丸にし勝利に導くことのできる選手だと言える。やはりこのような選手であるからこそ、今後も決して怪我に苦しむことなく引退するその日までベルーナドーム(西武ドーム)のマウンドに立ち続けてもらいたい。
それにしても、背番号14を背負ったライオンズの守護神はふたりとも本当に人柄が素晴らしい。小野寺力投手に、増田達至投手。小野寺投手に関しては残念ながら2011年にトレードでスワローズに移籍してしまったのだが、彼もまた本当に素晴らしい人柄だった。
小野寺投手とはライオンズ時代のオフシーズンに何度かお話をさせていただいたことがあるのだが、これだけ抜群のルックスを持ち、ライオンズのスター選手であるにも関わらずまったく飾るところがなく、マイクを向けると歌さえも披露してくれるような人だった。ただ明るいだけの性格なのではなく、思い遣りのある本当に気遣いができる人で、誰よりもファンを大切にしていた。
小野寺投手ほど人前で何かをすることはないわけだが、増田投手もやはりチームメイト、そしてファンから本当に愛されている。問題を起こしている四番打者は、問題を起こす前からネット上でもアンチの数が多かったわけだが、小野寺現スワローズコーチと増田達至投手に関しては、アンチなどいないに等しいのではないだろうか。
今季前半戦はなかなかコンディションが上がらずに苦しみ続けた増田投手だが、気温が上がるにつれて調子をどんどん上げて来ている。ライオンズの夏攻勢に増田投手の活躍は不可欠であるため、ここに来て増田投手の状態が良いというのはチームにとってもファンにとっても本当に大きな勇気となる。
今季、仮に優勝はもう難しかったとしても、何とかAクラス入りしてCSで下剋上を見せつけるためにも、増田投手にはこれからも本当に怪我をすることなく、毎日でもベルーナドームの9回表のマウンドに登り続けてもらいたい。なぜなら増田投手が試合を締め括るということは、ライオンズが勝つことを意味するからだ。