2023年8月23日公開
2023年8月23日現在、ライオンズは12の負け越しで5位に沈んでいる。そしていわゆるCS圏となるAクラスまでは、3位ホークスまでまだまだ7.5ゲーム差となっている。現実的に考えるならば、今季はもう優勝どころか、Aクラス入りさえ難しい状況だ。
だがこれは決して松井稼頭央監督と平石洋介ヘッドコーチの責任ではない。そのため、仮に今季を最下位で終えたとしてもこのふたりは絶対に解任すべきではない。
負けが込んでくると、多くのファンがもっともらしいことを並べて監督批判を行う。現時点でも松井稼頭央監督のマネジメント力を批判するような書き込みを多数見かける。
もちろん監督の務めは、与えられた駒を上手く使って試合に勝つことだ。そのため勝負勘、経験値、判断力、想像力、知力のすべてが求められることになる。
だが監督就任1年目の松井稼頭央監督に与えられた駒はまったく十分ではなかった。また、ライオンズが星を落とす大きな要因もいくつか重なってしまった。そのため今季のライオンズの面子では、名将・故野村克也監督であっても勝つことは難しかったのではないだろうか。
まず言わずもがな、今季のライオンズは開幕早々にして山川事件によって四番打者を失ってしまった。開幕早々に軸を失ってしまった状態の打線をシーズン中に蘇らせることは困難を極める。
もちろんライオンズには中村剛也選手というかつての四番打者がまだ健在であるわけだが、しかし中村選手自身が語っているように、中村選手が今四番を打っているようではライオンズは強くなることはできない。
外国人選手としてはペイトン選手とマキノン選手が新規加入したわけだが、ペイトン選手は長期間1軍を離脱してしまった。マキノン選手は試合に出続けて頑張ってくれているが、数字的には四番打者を任せられる水準には至っていない。
そしてペイトン選手にしてもマキノン選手にしてもホームランバッターではなく、あくまでも四番打者の前に走者を貯める役割が求められていた。だがマキノン選手はチーム事情により多くの試合で四番を任されている。
本来は四番を任せるために獲得したわけではなかった選手を四番に起用しなければならないというのは、松井稼頭央監督としても非常に苦しかったはずだ。
だが口数の少ない松井稼頭央監督は、決して選手を責めることをしない。「与えられた選手を起用して勝つ」ことではなく、「今いる選手だけを起用して勝利を目指すしかない」という現実を完全に受け入れている。
投手陣の防御率は今季もリーグ1〜2位あたりで推移しており、投手力は非常に安定していると言える。だがほぼシーズン丸々四番打者不在の状況で戦わなければならない状況では、得点力がリーグ内でダントツの最下位という数字にも驚きはない。
※ 8月23日現在、ライオンズのチーム得点は315点で、4〜5位のマリーンズとイーグルスが382点、1位のホークスが404点。ライオンズの得点は5位のチームより67点も少ない。
そして今季はバファローズ相手に今季ここまで5勝14敗で9つも負け越している。これは単純に森友哉捕手からライオンズの情報がすべてバファローズに流れているからだ。
ライオンズは今季、森捕手がバファローズに情報を流出させることを前提にバファローズ戦を戦わなければならなかった。だが投手陣も打撃陣も、バファローズ相手に好戦できる試合は非常に少なかった。
こんな時経験値のある捕手がいれば投手陣の配球もガラッと変えることができたのだが、頼れるベテランの岡田雅利捕手は未だリハビリ中で、森捕手が抜けた捕手の補強も行われなかった。これに関しては渡辺久信GMのミステイクだったと筆者は今でもそう考えている。
参考コラム:ライオンズの正捕手が背負うべく27番の争奪戦がいよいよ幕を開ける
例えばかつてファイターズで「抑え捕手」を務めた中嶋聡捕手(現バファローズ監督)のようなベテラン捕手が一人でもいれば、バファローズ戦でまさか5勝14敗と惨敗することもなかっただろう。
そしてもう一点、今季は守護神の増田達至投手が安定感を欠いていることも戦う上では非常に辛かった。だが増田投手の力の衰えはすでに昨季の時点から見えていたため、可能であるならばここもしっかりとバックアップを整えておきたかった。
だが渡辺久信GMとしては、もう一年平良海馬投手にリリーフを任せたいと考えていた。実際渡辺GMは平良投手の説得も試みていたわけだが、平良投手側は話し合いが完結する前にネット上で自己主張を始めてしまい、西武球団側の対応が「悪い」という印象が先行しそうになってしまった。
そのため渡辺GMとしても、西武球団としても、平良投手の先発転向を認めざるを得なかった。だが筆者個人としては平良投手のやり方は好きではない。平良投手にその意識があったかは別として、これは明らかなイメージ操作であり、野党がよくやるネガティブキャンペーンによく似ている。
これはあくまでも筆者個人の意見であるわけだが、平良投手はまずは球団との話し合いをしっかりと進め、終わらせた上で現状をファンに報告すべきだったと思う。
この平良投手の行動は、大袈裟に言えば反乱に値する。当然松井監督としても増田投手の次を務める守護神候補を育てられるまで、少なくともあと1年は平良投手にリリーバーを務めてもらいたかった。そして渡辺久信GMも2024年からは先発に転向するための手形を用意していた。
だが平良投手が先行してネットに投稿をし、名のある元プロ野球選手の一部も平良投手に同調して煽るような投稿をしたため、渡辺久信GMとしても交渉の余地を完全に失ってしまう形となった。
西武球団としてはこれまで、リリーバーとしての平良投手に対し高額年俸を支払っていたのだから、平良投手としてもそれを理解した上でもう少し行動を慎むべきだったのかな、と筆者は思いながら経緯を見守っていたのだが、果たして他のライオンズファンはどのように見ていたのだろうか。
ちなみに平良投手はここまで7勝6敗と1つ勝ち越してはいるが、リリーバー時代の貢献度と比べるとかなり物足りない数字だ。もちろん打線との巡り合わせも影響したわけだが、増田投手の不調だけではなく、平良投手の貢献度の低下も今季の敗因となっていることは間違いない。
例えば仮に今季も平良投手がブルペンにいたならば、開幕時点で本調子ではなかった増田投手の代役として、開幕戦にルーキー青山投手がセーブを失敗することもなかっただろう。増田投手に代わり平良投手が守護神を務めていれば、今季落とさずに済んだ星は決してひとつやふたつではなかったはずだ。
一部のファンは松井稼頭央監督の解任を希望しているようだが、今季に関してはどんな名将が率いたとしてもライオンズを上位に導くことは難しかったはずだ。
今季は空中分解寸前のライオンズではあったが、もし松井稼頭央監督がチームを率いていなければ、ライオンズは間違いなく実際に空中分解していただろう。今季は松井監督だったからこそチームがなんとか土俵際で踏ん張り、なんとか最下位転落だけはまだ免れている。
ちなみにファイターズは現在チーム防御率はリーグ2位で、得点力は同3位となっている。それでも今季も最下位に沈んでいるところを見ると、松井監督との手腕の差を感じてしまうのは筆者だけだろうか。
新庄剛志監督はコーチ経験がまったくない状態で突然監督に就任した。だが松井監督は2軍監督、1軍ヘッドコーチを経て満を辞して監督に就任した。監督としてしっかりと育成をしてもらった松井監督だからこそ、今季のライオンズは空中分解せずに済んだのだ。これは松井監督の今季の功績の一つとして讃えるべきだと思う。
ライオンズがここから上位に食い込むことはもはや現実的ではない。それならばもう育成にシフトしてしまった方が潔いと言えるかもしれない。例えば四番打者に関しては早急に育成する必要があるため、いつまでも中村選手やマキノン選手に頼るのではなく、渡部健人選手なら渡部選手に絞って、多少打てなくても我慢して四番打者として育てていくべきだと思う。
もはや山川選手はいるものと考えない方が良い。チームもようやく山川選手抜きの状態に慣れて来たのだから、また山川選手にチームを振り回せれぬよう、もう山川選手なしのチームを見据えて来季の準備に入るべきだ。山川選手のファンには大変申し訳なく思うわけだが、これが筆者個人の正直な意見だ。
とにかく、仮に来季も同じようなチーム状態になってしまったとしたら、これは完全に渡辺久信GMの責任ということになる。だがそんなことは渡辺GM自身重々理解しているため、もちろん今オフのチームビルディングはただの構築ではなく、リビルディング(再構築)としてチームの立て直しに着手していくはずだ。
だからこそ現場を松井稼頭央監督だけに任せるのではなく、ここはGM責任で「来季を見据えた起用を」と現場に指示を与えるべきだと思う。そうしなければCSの可能性が1%でも残っているうちは、松井稼頭央監督の判断で育成起用に切り替えることは事実上不可能に近い。
だがライオンズは四番や正捕手、守護神の育成が急務となっているため、渡辺GM自らそれをファンに対し宣言し、もう残り試合は育成に徹して来季を見据えた戦いにシフトすべきだと思う。そうすれば仮にこのままBクラスに沈んでしまったとしても、来季に希望を抱ける終戦を迎えることができるのではないだろうか。