2023年11月28日公開
ライオンズの投手陣は近年非常に安定しているわけだが、こと守護神に関してはそろそろ世代交代の時期を迎えようとしている。現守護神である増田達至投手も今季は35歳を迎え、連続してセーブに失敗する場面が増えてしまった。
もちろん増田投手はまだまだ限界に来ているわけではない。守護神の座を若くて勢いのある投手に譲ったとしても、一軍の必須戦力であることには間違いない。だが増田投手も来季は36歳となり、守護神という過酷なポジションを務めるのはやや難しくなってきているのかもしれない。
今季終盤戦ではクリスキー投手が今後は守護神を務めるのではないかとも思われたが、残念ながらクリスキー投手は契約内容で折り合いがつかず、すでに退団が発表されている。
また、平良海馬投手もかつては新守護神候補ではあったが、現在は先発に転向している上、近い将来メジャー移籍も視野に入れているとも報道されている。
今現在、次世代の守護神として名乗りを上げているのは豆田泰志投手だけではないだろうか。青山投手も将来的には守護神を任せてもらえるような、というニュアンスで話すことはあるが、豆田投手に関しては明確な言葉で守護神の座を奪取することに対し意欲を見せている。
豆田投手は今季3年目の20歳(1月生まれ)の投手で、過去2年間は育成契約選手だった。だが今季途中で支配下選手登録を勝ち取り、背番号も3桁から70番に変わった。
この若き守護神候補が、同じく育成上がりの水上由伸投手らと切磋琢磨し、最終的に守護神の座に就いたとしたら、これは本当に育成の西武を印象付けることになるだろう。
豆田投手が突然変異を遂げたのは、ライオンズファンの多くが知っての通り、投球フォームを今オフメジャー移籍をする山本由伸投手に似せたからだった。このフォーム改良を行なったのちは、ストレートの球質が本当に良くなった。
豆田投手のストレートのアヴェレージはだいたい140km/h台後半なのだが、打者はスピードガン表示以上の速さを感じているはずだ。いわゆるストレートの伸びがアップしたということで、フォーム改良前と比べると、初速と終速の差が小さくなっている。
近年のプロ野球は誰しもが球速アップばかりに目が行っているが、やはり大事なのは球速アップよりも球質アップだ。球質が悪ければ、いくら160km/h近いボールを投げられたとしても、簡単に打ち込まれてしまう。
打者にとって最も打ちにくいボールは、初速と終速の差が小さいボールだ。例えば初速160km/h・終速150km/hのストレートと、初速147km/h・終速145km/hのストレートでは、後者の方が圧倒的に打ちにくくなる。逆に前者の場合は簡単に打ち込まれてしまう。
豆田投手はフォームを山本由伸投手に似せたことで、この初速と終速の差を小さくすることに成功した。だがもちろん、山本投手のフォームに似せれば誰でもこうなるわけではない。たまたま豆田投手の場合は山本投手のフォームがフィットしただけであり、これを発見できたのは普段から熱心にフォームを研究していたからなのだろう。
守護神の座は確かに世代交代の時期を迎えてきているわけだが、しかしここであっさりと増田投手を最終回から外してしまうのは逆に良くないと思う。少なくとも2024年の開幕時は、コンディション次第ではあるが守護神は増田投手に任せるべきだ。
今季は打ち込まれると「増田劇場」などと言われ、一部の心ないライオンズファンに揶揄されたわけだが、このまま黙っているような増田投手ではないはずだ。今オフは今まで以上にコンディショニングに時間を割き、来季は必ず万全の状態でマウンドに戻ってきてくれるだろう。
その増田投手に挑戦させるような形で、松井稼頭央監督には豆田投手や青山投手をぶつけていってもらいたい。そして最終回を守る増田投手を間近で見ながら、彼らには守護神に必要なものを学んでいってもらいたい。
そして豆田投手についてだが、今季は15イニングス少々を投げただけだったが、防御率は0.59、WHIPは0.98という素晴らしい数字を残している。もちろん15イニングスだけだった、という見方をしなければならないわけだが、だとしてもこの数字は素晴らしい。
やはり守護神に必要なのは0点台のWHIPだ。WHIPとは1イニングあたり何人の走者を許すか、という数字のことであり、豆田投手は1イニングあたり0.98人の走者しか許していないということになる。
ちなみに先発投手でWHIPが0点台になってくると、スーパーエースと呼ばれるようになる。この豆田投手の数字が来季、シーズンをフルで戦った時どう変わるのかが重要なポイントとなるだろう。
もしシーズンを通して1.00前後のWHIPを記録できれば、豆田投手は十分に守護神を目指す資格があると言える。だが逆にこのWHIPが1.10よりも大きな数字になってしまった場合は、ちょっと危なっかしいピッチングが増えて行くはずだ。例えば今季の増田投手のWHIPは1.34で、これは毎イニング必ず走者を1.34人ずつ背負っているという計算になる。
守護神の座は与えられるものではない。豆田投手には守護神を目指すと明言したからには、ぜひ結果によって増田投手から守護神の座を奪い取ってもらいたい。そして逆に増田投手には、豆田投手らに守護神の座を奪われないように来季は復調した姿を見せてもらいたい。
このようにベテランと若手による切磋琢磨が発生すれば、ライオンズのブルペンはますます強固なものへとなって行くだろう。そうして行くためにも松井稼頭央監督には、簡単には増田投手を守護神の座からは外さない起用法をしてもらえたらなと思う。
だが松井監督の忖度などなくても、来季の増田投手はきっと復調してきてくれるはずだ。そして増田投手が復調することにより、豆田投手らもさらにレベルアップを強いられて行くようになる。このようなシナジーが発生することによって、チームはどんどん強くなって行く。