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2023年8月10日公開

1勝10敗だった昨季とは変わった今季の隅田知一郎投手の投球内容

一歩ずつ左腕エースへの階段を登り始めている隅田知一郎投手

一歩ずつ左腕エースへの階段を登り始めている隅田知一郎投手

昨季は4球団の競合の末の大卒ドラフト1位左腕として大きな期待が抱かれていた隅田知一郎投手だが、結果としては1勝10敗という惨憺たる結果に終わってしまった。だが今季は、徐々にプロの水にも慣れ始めているような姿も見せ始めており、ここまで6勝7敗、防御率3.36という数字を残している。

もちろんまだまだ今季も1つ負け越しているわけではあるが、昨季の1勝という数字と比べると、2年目で6つまで勝ち星を伸ばして来ているのは立派だと言える。

もちろん同じ大卒左腕の軟投派であるホークス和田毅投手とは比較することはできない。和田投手はプロ入り1年目から5年連続で二桁勝利を挙げているし、プロ2年目までの数字を見ると、合計13個勝ち越している。一方の隅田投手は今季8月10日の時点で2年目までの数字はちょうど10個の負け越しだ。

これだけ数字に圧倒的な差がある和田投手と隅田投手を純粋に比較することはできないわけだが、しかし隅田投手も少しずつ和田投手の領域に近付いていっているとは思う。和田投手は最多勝を獲得するまで8年かかったが、隅田投手にはぜひ5年目くらいには最多勝を狙えるだけの投手になってもらいたい。

そのために重要なのは、隅田投手は自らのボールを過信し過ぎないことだ。もちろんプロに入ってから隅田投手の球威は確実に上がって来ている。だが現代のプロ野球では、1軍レベルであれば155km/h前後のボールを投げる投手はいくらでもいる。

そう考えると、いくら最速が150km/hだったとしてもアヴェレージが140km/h台であれば、ストレートで力押しするピッチングをすることはできない。もしそれをやろうとすれば、昨季同様に簡単に返り討ちに遭ってしまうだろう。

そうならず、一歩でも和田投手の域に近付くためにも、伸びをアップさせたストレートをさらに速く見せる投球術を磨かなければならない。アスリートとしての全盛期を迎える前にしっかりと投球術を磨いておけば、30歳を過ぎて体力的には下り坂に差し掛かった時でも、和田毅投手のように40歳を過ぎても勝ち続けられる投手になれるだろう。

1勝10敗だった昨季から変化が見えて来た隅田投手の投球内容

昨季は1勝10敗、今季はここまで6勝7敗となっている隅田投手だが、では昨季と今季では一体何が変わって来ているのだろうか?筆者が考えるに、それはボール球の使い方が上手くなったことに理由が隠されている。

昨季繰り返してしまった失敗の一つに、簡単にストライクを取りに行ってしまうという悪い癖があった。最速150km/hというストレートを左腕から投げられる隅田投手の場合、大学生相手であればどんどんストライクを取りにいってもそう簡単に打たれることはなかった。

だがプロ野球という世界は、2軍で長年燻っている打者でさえも大学野球の四番打者以上のレベルだ。そのような相手に簡単にストライクを取りにいけば、打たれない方が不思議というものだ。

隅田投手にはまだまだ精密な制球力があるわけではない。だが今季のピッチングを見ていると、甘くいくべきではない場面で上手くボール球を使える割合が増えている。

言い換えると「察せられる」ようになって来た、ということだ。この察しこそが経験値という言葉を具体化したものの一つであり、例えば「打者が打ちそうな雰囲気」を敏感に察して、打者が次の1球で打ち気満々で来ているようであれば、ボール球で気を逸らすというようなテクニックだ。

これはブルペンで練習するだけでは決して身に付かず、場数を踏むことによって養われていく感覚だ。今季の隅田投手のピッチングを見ていると、打者の打ち気を上手く察したようにボール球を使ってくる場面が多くなった。

もちろん昨季であっても、勝負の1球になりそうな場面でボール球を投げてくることはあった。しかし昨季と今季とで違うのは、今季は意図的にボール球を使っているのに対し、昨季はどちらかと言えば逃げのピッチングでストライクゾーンを外れたというボールが多かった。

まったく同じボール球であっても、逃げてボール球になったボールと、あえてボール球にしたボールとでは、次の1球に対する意味合いが大きく変わってくる。たった一年でこの違いを見せて来る隅田投手には、やはりさすがは大卒のドラフト1位投手だなと唸らせられるばかりだ。

これからのクリーンな西武球団の象徴ともなりうる隅田知一郎投手

そしてもう一点昨季から変わったと思われる要素に、内角を恐れずに攻められるようになったという点がある。やはりプロでは、豪速球を持っていたとしても内角を使えない投手は勝てない。

逆に豪速球や魔球を持たなくても、内角を上手く見せたり、速くはないストレートを速く見せる投球術を持っていると、和田毅投手のように130km/h台のストレートでも勝ち続けることができる。隅田投手にはぜひともライオンズの和田毅投手になっていってもらいたい。

そして現在では張奕投手が背負っている背番号47番だが、やはりライオンズの47番と言えば左腕エース工藤公康投手のイメージが強烈だ。ライオンズでの最後の一年間だけは55番を背負っていたが、やはり47番は左腕エースである工藤公康投手の代名詞だと言える。

隅田投手にいつかこの47番や、和田投手が背負う21番を背負ってもらい、47番と言えば、21番と言えば「隅田」となるように、ファンの認識をどんどん上書きしていってもらいたい。

このコラムを書いている二日前、隅田投手はプロ初の完封勝利を挙げている。その時のピッチングは理屈を並べるまでもなく、本当に見事な快投だった。これだけのピッチングを見せられるのだから、やはり隅田投手は「本物」だと言えるだろう。

もちろん現在隅田投手が背負っている16番を背負って来たライオンズの歴代投手たちも偉大だ。だがパ・リーグの左腕である以上、やはりイメージが強いのは工藤投手の47番と和田投手の21番だ。ライオンズファンにとっては石井一久投手の16番以上に、やはりこのふたつの番号の方が左腕エースとしてのイメージが強い。

そして最後にもう一点、隅田投手は完封勝利を挙げた際、長崎の原爆についての話をしている。長崎出身である隅田投手は、広島県民同様に子どもの頃に被爆体験の話を聞く機会が多かった。そのため原爆に対する思いも他の選手とは比べられないほどなのだろう。

これまでのプロ野球人生の中で、最も注目を浴びても良いプロ初完封という場面で口にした原爆の話。これはプロ野球選手という、一般人以上に影響力を持つ職業に就いているという隅田投手の覚悟や責任感を感じさせてくれるものだった。

一部のプロ野球選手はそんなことはほとんど考えず、チャラチャラしている選手も多くなってしまった。だが隅田投手はプロ野球選手としての自覚を強く持っている、まさに子どもたちのお手本となるべき選手だと言える。

これはあくまでも筆者個人の意見ではあるが、活躍して天狗になってチャラチャラしているような選手ではなく、隅田投手や栗山巧選手のように、プロ野球の世界じゃなくても、一般社会でも十分通用する人間性を持った選手を応援したいし、そんな選手にこそ活躍してもらいたい。

隅田投手は本当に、これからのクリーンな西武ブランドの象徴となっていく選手だと思う。だからこそ今季はまだ6勝7敗と負けが込んでいるが、ここから巻き返してもらい、最終的には勝ち越しを作ってシーズンを終えられる2年目にしていってもらいたい。それが今筆者が隅田投手に対し抱いている正直な思いだ。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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