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2024年6月29日公開

6勝の隅田知一郎投手と0勝の髙橋光成投手の科学的観点から考える二人の相違点

東北楽天ゴールデンイーグルス vs 埼玉西武ライオンズ/11回戦 楽天モバイルパーク
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Lions 0 0 2 1 0 0 1 0 0 4 9 0
Eagles 0 0 0 0 0 0 0 2 0 2 7 1

継投○隅田知一郎Sアルバート・アブレイユ
勝利投手隅田知一郎 6勝5敗0S 2.94
セーブアルバート・アブレイユ 1勝4敗14S 2.63
盗塁岸潤一郎(4)

埼玉西武ライオンズ

今日6勝目を挙げた隅田知一郎投手と未だ0勝の髙橋光成投手の違いとは?

今日も見事な勝利だった。先発した隅田知一郎投手は8イニングスを投げて被安打6、奪三振8、失点2という内容で3試合連続でHQS(7回2失点以下)を達成した。5月から6月上旬にかけては隅田投手の悪い部分が出ることが増えていたのだが、交流戦の終盤からはかなり調子を上げてきており、自身3連勝で今日の勝ち星は6勝目となった。

調子が悪い時の隅田投手は力で抑えにいくようなピッチングで無理して空振りを奪いにいくことがあり、逆に今日も含め好調時の隅田投手の場合、効果的に緩急を付けられていることが多い。今日の試合でもストレートで押しに行くことなく、ストレートを見せつつチェンジアップで緩急を付け、押しのピッチングではなく引きのピッチングができていた。

よほどの剛腕投手でない限りは、ある程度球速が速い投手であっても押しのピッチングがいつまでも通用するということはないし、押しのピッチングを続けていればあっという間にスタミナを消耗してしまう。もちろんリリーバーであれば最も自信がある球でどんどん押していっていいわけだが、先発投手の場合は引きのピッチングを覚えることにより、打者のタイミングを上手く外して少ない球数で抑えられるようになる。

今日の隅田投手は8回に2点を失ってしまったわけだが、7回までのピッチングはマダックス(100球以下での完封勝利)を期待させるような素晴らしい内容だった。今日のようなピッチングは、まさに日本代表の名に相応しいパフォーマンスだったと言える。

最近3試合で見せているような巧みな引きのピッチングの極意を隅田投手が本当に掴めている場合、今後は好不調によって試合を壊すことはほとんどなくなるだろう。調子が悪くても悪いなりに良いピッチングができるようになるはずだ。隅田投手は昨オフはホークスの和田毅投手に弟子入りしたわけだが、そこで教わったことが今形になり始めているのかもしれない。

今日のピッチングを見ていても、全盛期の和田投手を彷彿させる巧みな投球術を見せていた。ただ、ストレートの質に関しては今の隅田投手よりも、全盛期の和田投手の方が圧倒的に高いと言える。球速に関してはもちろん隅田投手の方が速いわけだが、ストレートの伸びに関しては和田投手の圧勝だ。

今後隅田投手がスピン数を増やすことによりストレートの初速と終速の差をさらに小さくし、なおかつ少しスピードを落としたストレートを投げられるようになれば、打者としてはさらに打ちにくくなるだろう。詳しくはここでは書き切れないため簡単に書かせてもらうと、球速が速くなるほど空気抵抗が大きくなり、ストレートの伸びが低下しやすくなるのだ。

例えば今季の髙橋光成投手の場合、筋肉量を増やすことによって筋出力を高め、その出力の高さによって球速を上げようとした。確かに最速は少し上がったのだろうが、しかし球速が1〜2km/h上がっても回転数にほとんど変化がなかった場合、この球速アップは実はストレートの伸びを低下させるだけになるのだ。

髙橋投手はラプソードを所有しているため、このあたりの数値はブルペンでは毎回正確に出せていると思う。しかしそれでもストレートの質を改善させられなかった理由として考えられることは、(1)球速と回転数の関係に気づいていない、(2)空気抵抗とマグナス力に関する知識がない、(3)回転数や回転軸ではなく球速表示ばかりに注視してしまっている、などのことが考えられる。

ちなみに投手が投げるボールが受ける空気抵抗というのは、140km/h程度まではボールの質量よりも小さくて済む。さらに言うと、110km/h程度までであれば大きなマグナス力を維持できるため、実際に上に曲がるボールを投げることが物理的には可能だ。ちなみに筆者はM号やJ号であれば実際に上に少し曲がるボールを投げることができる。

そしてこのマグナス力は120km/hを超えていくほどみるみる低下していき、再びマグナス力が強くなるのは球速が170km/hを超え始めた時となる。かなり難しい野球物理学の話になってしまうわけだが、つまり隅田投手が今後150km/hという数字へのこだわりを捨て、140km/hちょっとの力みなく投げられるストレートに切り替えていくことができれば、隅田投手のストレートの伸びはさらにアップし、打者が空振りする確率はさらに高まることになるだろう。ザッと説明をするとこの違いが今季まったく勝てていない髙橋光成と、今季6勝目を挙げた隅田投手との違いだと言える。

今日もまたバントミスが出てしまったライオンズ

さて、勝って兜の緒を締めると言うべきなのか、またライオンズはスクイズを失敗してしまった。いくら3連勝中とは言え、チームとしてこれだけバント失敗が続いているというのは大問題だ。ちなみに今日スクイズをミスしたのは古賀悠斗捕手だった。

確かに1人1人を見ていけば、同じ選手が毎回毎回バントを失敗しているわけではない。しかしこの短期間でチームとしてこれだけバントミスが続いていては、今週は良くても来週はまた勝てなくなってしまうだろう。今日の古賀捕手はスクイズに失敗した後にヒットでそのミスを取り返した。これは本当によく取り返してくれたと筆者も試合を見ながら思っていた。

しかしいつも書いているように、バントミスというのは試合の流れを一瞬で悪くしてしまうことがあるのだ。今日に関しては古賀捕手がスクイズ失敗直後に意地でタイムリーヒットを打ってくれたから良かったものの、打率.229の打者が今後も今日のようにいつもいつも猛打賞を打てるということはない。いや、そういう意味では全盛期のイチロー選手にだってそんなことはできない。

だからこそ今日も1球でスクイズを決めて試合の流れを良くしたかったわけだが、こうしてバントミスが続いている現状を考えるならば、やはり一度チーム全体でバントの特訓をすべきではないだろうか。6月のバントミスのダメージはそれほどは大きくはならない。しかし9月のバントミスは1つでも上の順位を狙うチームにとっては致命傷となる。勝負どころの9月でもっとそつのない野球をしていくためにも、やはりまだシーズンが半分残っている今のうちに手を打っておくべきだと思う。

四番打者として期待以上にしっかりと機能してくれている岸潤一郎選手

岸潤一郎選手

少し前までのライオンズは、一軍半クラスの投手からもなかなかヒットを打つことができなかった。しかし今日は今季0勝2敗とあまり奮っていない滝中投手から8安打で4点を奪って見せた。ここ数試合の試合内容を見ていても、交流戦が終わったあたりからようやくナベQ野球の形が整ってきたように見える。

やはりまず、新四番の岸潤一郎選手がしっかりと四番の仕事を果たしていることが今は何よりもチームのプラスとして働いている。今日も岸選手は2安打1打点の活躍で、昨日.300ちょうどだった得点圏打率は今日は.323まで上げてきた。

読者の皆さんの記憶にも新しいとは思うが、筆者はいくつかの理由を上げて岸選手の四番はまだ早いと少し前に書いた。やはりその最たる理由は長打率が高くはない点だ。例えパ・リーグトップの長打率を誇るホークスの近藤選手の場合、長打率は.594となっており、実にヒットの36%が長打となっている。

一方規定打席まで59打席足りていない岸選手の長打率は.397で、順位的にはリーグ4位相当の長打率とはなっている。しかし打球を高く上げることができていない分、三塁打が0本なのだ。近藤選手の場合はここ2年くらいは打球を上げることが非常に上手くなっているため、岸選手の二塁打と比べると余裕のある二塁打が多いし、打球が高く上がってフェンスにぶつかる分三塁にもなりやすくなっている。

もし岸選手の打球がもっと上がるようになってくれば、筆者も文句なしに岸選手を四番打者だと評するだろう。だが現状ではホームランを見てもライナー性のホームランが多く、対空時間が短いのだ。そして滞空時間が短くなると長打も頭打ちしやすくなるため、岸選手一人でチャンスメイクできる確率も減ってしまうのだ。このような観点から、筆者は岸選手にはまだ四番を打つには早いのでは、と書いたのだ。

事実今日の試合でも、2安打1打点と本当に立派な活躍を見せたわけだが、ヒットは2本ともシングルヒットに留まっている。しかしそれでも岸選手は、かつての鈴木健選手のような繋ぐ四番として本当によく機能してくれていると思う。打率に関しても4月は.228、5月は.275、そして6月は.286とどんどん上げてきている。

長打力はさておき、今あと岸選手に求められているのは出塁率だろう。岸選手は四球を多く取れる打者ではないため、出塁率は.303に留まっている。一方栗山巧選手の出塁率は.370、平沼翔太選手も.353と、ふたりとも規定打席には至っていないもののリーグトップレベルの出塁率となっている。

岸選手が今後、.453の近藤選手ほどではないにしても、リーグ2〜3位に食い込んでいくことができる.370台の出塁率まで上げていければ、もっと四番としての風格が出てくるはずだ。そのためにも今後はもう少し的を狭くしてボールを待てるようにし、追い込まれるまでの空振り率を下げることが一つのテーマとなっていくだろう。このあたりのパフォーマンスが改善されていけば四球も増えるようになり、出塁率もどんどん上がっていくはずだ。そしてこの夏岸選手には、ぜひともそのような四番打者になっていてもらいたい。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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