2023年11月24日公開
今オフも髙橋光成投手は渡辺久信GMにポスティングによる早期メジャー移籍を直訴した。しかし渡辺GMの答えは予想通りノーだった。
その理由はエースとして絶対的な数字を残せていないし、優勝もしていないためで、髙橋投手もこれには納得したようだ。ちなみに現時点において髙橋投手が海外FA権を取得できるのは2026年オフとなっている。
だが西武球団としてはもちろん、海外FA権取得までは待たせることはしないだろう。仮に髙橋投手が海外FA権を行使してMLB移籍をした場合、ライオンズは何の補償も得られなくなってしまう。MLBは、NPBのように人的補償制度がないためだ。
そのためどんなに遅くとも、2025年オフにはポスティングによる髙橋投手のMLB移籍は実現することが予想される。つまり髙橋投手がライオンズのユニフォームを着て投げるのは、長くてもあと2年ということだ。
ポスティング移籍の場合、西武球団には移籍先の球団からポスティングマネーが支払われることになり、これを使って外国人選手やFA選手の獲得などで髙橋投手が抜けた穴を埋めることもできる。
プロ野球選手会は上述の人的補償をなくす方向でNPB側と交渉をしているようだが、しかしメジャーリーグのように下部組織に選手がいくらでもいる状況ではない日本プロ野球の場合、現時点では人的補償制度がなくなることはないだろう。
だが筆者個人としては人的補償制度の撤廃には賛成だ。この制度が撤廃されれば、スター選手が罪悪感を抱くことなくFA移籍を目指せるようになる。しかし現段階ではスター選手の場合、FA移籍をすると移籍先の誰かが人的補償として古巣に移籍することになってしまう。
「自分のせいでこのチームにいられなくなった」という罪悪感を抱くことを嫌がり、あえてFA移籍をしない選手も実際にいる。だが下部組織がMLBのマイナーリーグのように規模が大きくない日本プロ野球では、もうしばらくは人的補償制度は継続されていくのだろう。
髙橋投手に話を戻すと、今季も髙橋投手は渡辺久信GMが仰る通り、エースとして圧倒的な数字は残せていない。今オフポスティングでMLB入りを目指す山本由伸投手が圧倒的な数字を残して、さらにはチームを優勝に導いたのとは対照的だ。
もちろん髙橋投手の成績も素晴らしい。今季は自身四度目の二桁勝利をマークしているし、完投数も4でこれはリーグ最多となる。防御率に関しても2.21と2年連続で良い数字を残したわけだが、しかしエースということを考えると、やはりこれらの数字だけではまだまだ物足りなさは否めない。
なおリーグトップの4完投と聞くと、さぞたくさん投げたのだろうとも思ってしまうが、実際には23試合にしか投げておらず、イニング数も155回に留まっている。
3年連続で投手主要タイトル四冠を達成している山本由伸投手も、今季こそ164回とややイニング数を減らしたが、去年は193回、一昨年も193回2/3と、200回弱のイニング数を投げている。
一方髙橋投手の場合は自己最多でも175回2/3で、山本投手とは20イニングス近くの差がある。やはりエースとしては200イニングス程度投げて、投手主要タイトルを1つでも獲っていかなければ、なかなか名実ともにエースとしては認めてもらえないのだろう。
それも理解してのことか、髙橋投手は来季2024年はチームが優勝するためには何でもすると話しており、目標も30試合登板、190〜200投球回数に設定した。髙橋投手の能力で200イニングス投げることができれば、来季は間違いなくタイトル争いに加わることができるだろう。
髙橋光成投手の2023年の成績
23試合10勝8敗、勝率.556、奪三振120、防御率2.21
山本由伸投手の2023年の成績
23試合16勝6敗、勝率.727、奪三振169、防御率1.21
髙橋投手が2019年以降勝てるようになった要因は、もちろん全体的なレベルアップもあったわけだが、それ以上に内角を攻められるようになったことが影響していると思う。
プロ野球ではいつの時代でも、内角を攻めることができない投手は勝てない。その点髙橋投手は死球を恐れることなくどんどん内角を攻め、2019年は14死球、2022年も11死球でリーグ最多の死球を与えている。
もちろん死球を与えることなく内角を攻められればそれがベストなのだろうが、やはりどんなに制球力が良い投手であってもコントロールミスしてしまうことはある。ミスターコントロールとも呼ばれた豊田清投手コーチでさえも、現役時代は合計17個の死球を与えている。
髙橋投手の場合、いわゆる魔球と呼ばれるようなウィニングショットがない。スライダーもフォークもカッターも素晴らしいのだが、「分かっていても打てない」ほどではない。そのため抑えるためにはしっかり内角を攻めていく必要がある。
そしてこれはあくまでも筆者個人の考えなのだが、髙橋投手がMLBで活躍することはかなり難しいのではないだろうか。まず160km/h未満のストレートだが、この程度のストレートを投げられる投手はMLBはもちろん、マイナーリーグにでさえいくらでもいる。
そのため仮に力勝負を挑んだとしても、筋骨隆々で屈強なメジャーのスラッガーたちに返り討ちに遭うだけだ。そして内角攻めに関しては、MLBでは日本のような内角攻めは許されない。当たっていなくても、当たりそうなボールを続けるだけで乱闘騒ぎが起きてしまうからだ。
そしてMLBのストライクゾーンは内角が狭く、外角が広くなっている。つまりストライクゾーンの内角を正直に攻めていってしまうと、日本でのホームランゾーンにボールが行くことになってしまう怖さがある。
つまり髙橋投手がメジャーで活躍するためには、いかに上手く高めの速いボールを見せながらアウトローの変化球で勝負できるか、という点が重要になってくる。だが髙橋投手はそれほど制球力がある投手ではない。
MLBでは、日本で沢村賞を二度受賞した前田健太投手でさえも苦しむ場面が多い。現状、髙橋投手の数字は日本時代の前田健太投手よりもはるかに劣っている。その投手がMLBで活躍するためには、この先2年間でよほどのレベルアップを目指さなければ難しいはずだ。
ちなみにそのレベルアップは球速アップだけではダメだ。MLBという世界は、仮に165km/hのボールを投げられたとしても、球が速いだけで通用するようなレベルではない。そしてそれは髙橋投手も十分に理解しているはずだ。
若いうちにMLBで勝負したいという気持ちもよく分かる。髙橋投手は来年は27歳であり、3年後となれば29歳、2年後のシーズンでも28歳という年齢でMLBに挑戦することになる(髙橋投手は早生まれ)。
だがMLBのデビューイヤーから活躍するためにも、髙橋投手は慌ててMLB入りを目指すよりは、あと1〜2年かけてじっくりとMLBで通用する実力を培った方が良いと筆者は考えている。せっかくチャレンジするのだから、通用せずに帰ってきてしまうよりは、しっかりとMLBで活躍してライオンズに凱旋して欲しいからだ。
そのような将来を描いていくためにも、来季、髙橋投手にはまずは山本由伸投手に匹敵する数字を残してライオンズを日本一に導いてもらいたい。