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2023年11月28日公開

不協和音だらけだったライオンズを改善させた後藤高志オーナーの手腕

ハゲタカ企業からライオンズを守り抜いてくれた後藤高志オーナー

後藤高志オーナー

やはりライオンズは後藤高志オーナーに変わって本当に良かったと思う。2005年、ライオンズを福岡から所沢に連れて来た堤義明前オーナーがインサイダー取引の疑いで逮捕され、その後ライオンズにはオーナー代行というポジションがあるだけで、約2年間はオーナーの席は空きポジションのままだった。

その頃すでに後藤オーナーはみずほ銀行から西武鉄道に移り、社長に就任していたのだが、2007年、ライオンズのアマチュア選手に対する裏金問題が発覚し、オーナー代行を勤めていた太田秀和球団社長が副社長に降格となった段階で、正式に後藤高志氏がライオンズのオーナーに就任した。

もし堤義明前オーナーの後任が後藤オーナーでなければ、もしかしたらライオンズはもはや西武ではなかったかもしれない。一部のライオンズファンは後藤オーナーが補強費を出し渋っているためチームが勝てなくなったと主張していたりもするが、しかし西武ホールディングスは金満企業ではない。一部他球団のように湯水のように補強費を捻出することはできない。

しかし後藤オーナーは以前、サーベラス側がライオンズの売却を強く主張して来た際にも「ライオンズは西武グループのシンボル」とブレない発言を続け、サーベラス側の圧力に屈することなく、サーベラス社が西武HDの株を売却するまでしっかりとライオンズを守り抜いてくれた。

サーベラスとはニューヨークの投資会社で、いわゆるハゲタカと呼ばれる存在だ。堤義明前オーナーが失脚したのち、サーベラスが株式を所有することによって西武グループはインサイダー取引事件から立ち直ることができた。そういう意味ではサーベラスは西武を救済してくれたわけだが、しかしサーベラスが行なっているのは当然慈善事業ではなかった。

観客動員数も決して12球団の上位ではないライオンズがグループ全体の重荷となっていると主張し、サーベラスは幾度も西武HD側に対しライオンズの売却を要求して来た。そのハゲタカの餌食にならないようライオンズを守ってくれたのが後藤高志オーナーだったのだ。

不協和音だらけだったライオンズを改善させた後藤オーナーの手腕

そして渡辺久信GMがGMに就任する前、SD時代や監督時代まで、ライオンズではフロントと選手との関係に大きなヒビが入っていた。その理由は契約更改のたびにかつての前田康介球団本部長や、その後任である鈴木葉留彦球団本部長が選手たちの感情を逆撫でしていたからだ。さらには2014年には当時の伊原春樹監督まで余計な言葉を発し、涌井秀章投手をFA流出させただけではなく、チームを空中分解させてしまった。

伊原監督問題以前にチーム内の不協和音を感じ取っていた後藤オーナーは、前任者たちのやり方を一新すべく手段として、まず2013年シーズンを限りに監督を勇退した渡辺久信氏をシニアディレクターとしてフロント入りさせ、2019年シーズンからGMに就任させている。

後藤オーナーが渡辺久信氏をGMに就任させたことで、フロントと選手の不協和音が一気に解消された。渡辺久信GMがまだ編成トップではなかった時代は、主力選手たちはFA権を取得するたびに移籍してしまっていたが、渡辺久信GM体制になってからは、FAを取得してもライオンズに残留する主力選手の方が多くなった。

もし後藤オーナーが渡辺久信GMの能力を見抜いていなければ、おそらくライオンズは今なおFA流出に苦しみ続けていただろう。そういう意味ではこれは間違いなく後藤オーナーのファインプレーだったと言える。

ちなみに、確かに後藤オーナーが就任してから16年間で、日本一になったのは唯一2008年の渡辺久信監督時代のみだ。リーグ優勝は2018年、2019年に達成しているが、しかしこの時は二度ともCSでまったく太刀打ちできずにあっさりと敗退してしまった。

そういう意味ではライオンズは確かに勝てていない。2008年に日本一になって以来、ライオンズは一度も日本シリーズの舞台に立っていないのだから、そこを指摘されても仕方ないと言えるのかもしれない。パ・リーグは6球団しかないのに、16年も日本シリーズから遠ざかっているのはファンとしては当然不満に思う。だが後藤オーナーの考えは目先にはない。

後藤オーナーが描いた未来予想図が形になりつつあるライオンズ

後藤オーナーは知っての通り銀行マンだ。多くのことを数字を頼りに決定して行く職種であり、堤義明氏によるワンマン体質だった西武グループを刷新させていくには打って付けの人物だったと言える。

銀行マンは目先の利益だけでは動かないと言われている。常に長期的視点で物事を俯瞰し、最終的に利益になると判断したことだけをシステマティックに取捨選択していく。

後藤オーナーはオーナー就任時、20年30年先のライオンズを見据えてチーム作りをして行くと仰っていたが、オーナー就任から16年、西武グループのトップに立って以来18年が過ぎ去ろうとしている。つまり後藤オーナーが就任時に見据えていたプランが、そろそろライオンズの中で具現化して行くであろう時期に差し掛かっているのだ。

今時期としては、ライオンズはようやく新たな血に入れ替わりが完了しようとしている。そんな時に発生したのが山川穂高選手の性的暴行事件であり、これには後藤オーナーも相当対応に苦慮されたと思う。

先日行われたライオンズのスポンサー企業に対するパーティーの冒頭でも、まず後藤オーナーが山川事件について謝罪をするところから始まったと言う。山川選手本人は雲隠れしている状況の中、後藤オーナーやこのパーティーに出席した監督・コーチ・選手たちだけが矢面に立たされた形となった。

山川選手はもうベテランであるのだから、この時期にスポンサー向けパーティーが行われることは百も承知している。もし山川選手に男気が僅かでもあったのならば、ライオンズを退団するにしても、自ら率先してこの場に出て来て頭を下げるべきではなかったのだろうか。

このような一連のライオンズの動きを見ていると、ライオンズはもう完全に山川選手を除外して来季のチーム作りに入っていることがよく分かる。箝口令かんこうれいが敷かれていた可能性も高いのだが、ライオンズ関係者の中で山川選手の残留を望むコメントを出した人間は誰一人いなかった。

2024年こそがライオンズの新時代の始まり

さて、後藤オーナーと松井稼頭央監督の相性は想像以上に良さそうだ。後藤オーナーは銀行マンであったことから数字を大切にする。それを知ってなのかは分からないが、松井稼頭央監督はオーナーにシーズン報告をした際、数字を交えて良かったところ、改善が必要なところを具体的かつ理論的に口述したようだ。

毎年オーナー報告時のニュースを見ていても、後藤オーナーはいつでもライオンズに対し厳しくも温かい言葉を送っていた。だが今オフのオーナー報告では、その報告に非常に満足したような趣旨のコメントを出されている。

そして松井稼頭央監督の仕事振りや人柄にも信頼を置いているようだ。これまでのオーナー報告時に比べると今年は、後藤オーナーは補強に対しより積極的な言葉を残している。

大砲候補と守護神候補となる外国人選手の獲得を目指していることをまず明かし、そしてそれに対し「お金の心配をする必要はない」とまで発言している。

近年はコロナ禍もあり獲得する外国人選手の小粒感は否めなかったが、やはり勝つためには一年間四番を打ち続けられる大砲が必要だと、松井監督の報告により確信されたのだろう。だからこそ後藤オーナーはあえて「大砲」という言葉を使ったのだと思う。

今オフの補強費には山川選手の退団によって浮くであろうお金、森捕手で一年前に浮いたお金を予算として使えるようになる。それぞれ単純に考えると、年俸2億円前後の大砲候補と守護神候補を獲得できるということになる。

そして一年前の話を振り返っておくと、西武球団は近藤健介選手を獲得するための資金も用意していた。このあたりを今オフしっかりと使って補強をしていくことになるのだろう。

チームが勝てなければ良いスポンサーも付かず、補強も後手後手になりがちだ。逆に毎年優勝争いしているようなチームであれば優良スポンサーもつきやすく、積極的に勝つための補強をしていける。

もちろん西武球団は金満球団ではないため、10億も20億も使うことはできない。だがそれだけ使っても優勝できないということはすでに他球団が証明してくれている。ライオンズはライオンズのやり方で優勝を目指せばいいわけだが、そのために後藤オーナーが行ったのが、西武球団の内部改革だった。

その内部改革が上手くいき、投手陣はしっかりと整備されたり、野手陣も少しずつ成長が見られるようになって来た。「敵を騙すにはまずは味方から」という言葉があるが、後藤オーナーは勝つためにまずは内側の改革をし、フロントと選手間の関係性を着実に改善させていった。

おそらく今はもう、フロントに対し不満を抱きながらプレーをしている選手はいなくなったはずだ。ライオンズは近年、道交法違反、未成年選手の飲酒喫煙、コーチによる窃盗、チームメイトに対する誹謗中傷、性的暴行事件など問題が頻発しているが、これで膿が出切ったと思えばポジティブに捉えることもできそうだ。

最後の最後に想像を絶する酷い膿が出て来てしまったが、その原因となった選手が来季もライオンズのユニフォームを着ることはまずないだろう。そういう意味では2024年こそが序章を終えた、ライオンズ新時代の幕開けとも言えるのではないだろうか。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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