2023年12月19日公開
今年のドラフト1位で西武球団が指名したのは、大学No.1投手とも名高い國學院大学の武内夏暉投手だった。ドラフト当時は西武、ソフトバンク、ヤクルトの3球団競合となり、「スイッチは無理だから右手で」と言っていた松井稼頭央監督が見事当たりクジを引き当てた。
ライオンズは2年前に隅田知一郎投手という素晴らしいサウスポーをドラフト1位で獲得していたわけだが、今年もやはり素晴らしい左腕武内夏暉投手を獲得した。
ライオンズには他にも浜屋将太投手や佐藤隼輔投手というドラフト2位の左腕コンビもいるわけだが、浜屋投手は残念ながらここまで思うような結果を残せず、今オフは背番号も20番から40番に変更されてしまった。
佐藤隼輔投手に関しては今季からリリーフ一本に絞ったことで、今や1軍では欠かすことのできない左のセットアッパーとしての確かな地位を築き上げた。
だが先発ということになると今現在は隅田知一郎投手のみとなる。ローテーションの理想としては表ローテ、裏ローテそれぞれに一人ずつ左腕がいることだが、来季はどうやらこの形を実現させられそうだ。
開幕ローテとなるとまだまだ未知数ではあるが、しかし仮に開幕ローテーションに入って来れなかったとしても、武内投手は間違いなく来季中には先発デビューを果たすだろう。そして大学No.1投手のその名の通りの実力を発揮し、ライオンズの厚い先発陣に食い込んでいくことになるはずだ。
武内投手はストレートの最速は153km/hで、変化球はスライダー、カーブ、チェンジアップ、ツーシーム、スプリッターと多彩だ。大学時代のピッチングを見る限りでは、間違いなくルーキーイヤーから1軍の戦力になることが予想される。
ただし完成された投手ではまだなく、フォームにはまだばらつきが見える分まだまだ伸び代を感じさせる。球種によってフォームがかなり変わることもあるため、プロではこの弱点を簡単には見逃してはもらえないだろう。
だが下半身をプロで必要なレベルにこれからさらに強化していけば、フォームは今まで以上に安定するようになり、球種によってフォームがばらつくことも減っていくのではないだろうか。
プロコーチである筆者が見る限り、武内投手は下半身をもう少し鍛えてフォームがさらに安定した時が、1軍で活躍し始める時期だと言える。そのためにも武内投手は春季キャンプまでのここからの1ヵ月半、とにかく下半身をいじめ抜くトレーニングを積む必要があるだろう。
そのように高い意識でしっかりと目的を持ちトレーニングを積んでくれば、武内投手はかなり早い段階から1軍の主戦投手になっていくはずだ。そして隅田投手と共に1軍ローテーションには欠かせない先発サウスポーとなっていくだろう。
さて、武内投手は生まれも育ちも福岡で、大学のみが東京だった。そのため子どもの頃からホークスのファンであるようで、憧れの投手として和田毅投手の名前を挙げている。和田投手はお手本としては最高の投手と言え、隅田投手もやはり和田投手の投球術をしっかりと盗んでいくべきだと言える。
野球はベースボールとはやや異なり、球速至上主義で行くべきではない。現代野球ではどの世代でも球速が最優先されがちだが、球速を最優先にして安定して勝てるようになったピッチャーはいない。
例えばメジャーリーグには、マイナーリーグも含めて160km/h投げられるピッチャーはいくらいでもいる。だがその中でメジャーで勝てるようになるのはほんの一部だけで、「制球力+球速」をセットで持っている投手だけだ。
さらに言えば、「制球力>変化>球速」という式を決して崩さない投手だけが、日本でもメジャーでも勝てる投手になれる。これに関しては今も昔も変わりない。
ピッチングというのは陸上競技とは異なり、一番速いボールを投げられた選手が優勝するわけではない。安定した制球力を持ち、そのボールや投げるタイミングなどに変化を付けていくことで、球速に頼らずとも和田毅投手は日米通算163勝(2023年シーズン終了時点)を挙げている。
武内投手も隅田投手も150km/h程度のボールを投げることができる。だがこれはあくまでも最速であり、アヴェレージではない。重要なのは最高球速ではなく、平均球速なのだ。
そういう意味では武内投手も隅田投手も剛腕投手というわけではない。となるとやはり球速を追い求めるのではなく、投球術で勝ち星を重ねる和田毅投手が歩んだ道を進んだ方が、ふたりにとっては少ない怪我で好結果に繋がっていくはずだ。
特に武内投手は大学時代はまだ、力を込めてストレートを投げに行った時にフォームが崩れたり、重心が上がってしまうことがある。全盛期の西口文也投手のように、踏み込んだ足のつま先でしっかりと踏ん張りながら軸足を回したり、クロスさせていく投げ方なら良いと思う。だが武内投手の場合はまだ重心が浮いてしまうことが多々あるのだ。
この癖はプロでは弱点となり、重心が浮くことで球が上擦ってしまうと、相手がクリーンナップではなくてもホームランボールとなってしまう。大学では通用したことも、プロでは通用しないということを、春季キャンプ前に誰かが武内投手に指導してあげる必要があるだろう。なぜならプロ野球選手のほとんどすべてが、アマチュア時代はクリーンナップを打っていたのだから。
だが下半身を鍛え直すことによってこの癖が見えなくなれば、武内投手はそれこそ憧れの和田毅投手を超えるような大投手になっていく可能性を秘めている。そしてそれはもちろん隅田知一郎投手にも同じことが言える。
ライオンズでは近い将来、髙橋光成投手と平良海馬投手がポスティングによりメジャー移籍することが確実視されている。そうなった時ライオンズの先発陣を引っ張っていかなければならないのは、まさに若きこの左腕たちふたりだ。
武内投手と隅田投手は2歳差となる。これはかつての渡辺久信投手と工藤公康投手と同じだ。この若き左腕ふたりが、黄金時代のダブルエースのように切磋琢磨しながら成長していけば、髙橋投手と平良投手が抜けたとしてもライオンズの先発陣が揺らぐことはないだろう。
そして来季、武内投手が1軍に食い込んでいくことで先発陣の層はさらに厚くなり、誰もが「ちょっと気を抜けばすぐにポジションを奪われてしまう」という危機感の中でプレーすることになる。チーム内に走るこの緊張感は常にチームを強くする。そう、黄金時代のライオンズのように。
武内投手と隅田投手は、今後始まっていくライオンズの新たな黄金時代の象徴のような選手になって行ってもらいたい。この左腕ふたりが共に鎬を削り合えば、その黄金時代は早速2024年からでも始まっていくことになるだろう。