2024年4月18日公開
かつて西鉄ライオンズを弱小球団から最強球団に生まれ変わらせた名将、三原脩監督はこう言った。「アマは和して勝ち、プロは勝って和す」と。三原脩監督は筆者が最も尊敬する野球人であり、三原監督に関する書物はすべて読み漁った経験がある。
その三原監督の言葉で評価すると、今のライオンズはアマチュアだと言えるのかもしれない。ライオンズというチームは確かに選手同士が仲が良くチームの雰囲気も良い。だが勝つことができていない。最後に日本シリーズで勝ったのは2008年であり、今からもう16年も前のことだ。
プロ野球は12球団しかないのに、ライオンズは16年も日本一から遠ざかっている。確かに2018〜2019年はパ・リーグを連覇したが、しかしCSではホークスに手も足も出ず敗れ、日本シリーズに駒を進めることすらできなかった。そして16年と言えば、2008年に生まれた子は高校一年生になっており、あと2年もすればドラフトにかかる年齢となる。
強かった頃のライオンズには個性派選手が揃っていた。そして黄金時代で言えば石毛宏典選手を中心にチームは一丸となっており、チームメイト同士の関係性は「友だち」ではなく「ライバル」だった。だが今のライオンズはどうだろうか。まるで仲良しの友だちが集まって作ったチームかのようだ。
特に辻発彦監督の時代には、試合中に監督をベンチをいじるような選手もいたほどだ。その選手は夫人がチームメイトの奥様を誹謗中傷したことでライオンズを放出されたわけだが、選手が試合中に監督をいじるなど、プロ野球ではあってはならないことだったと筆者は今でも考えている。
そして辻監督自身、現役時代は肉離れを起こしても休めばライバルにポジションを奪われると言い、脚にテーピングをグルグル巻きにして試合に出続けたという逸話を持つ。強かった頃のライオンズには、チーム内にもそれだけの緊張感があったのだ。
しかし今のライオンズはどうだろうか。連敗をしていてもベンチで笑顔を見せている選手さえいる。時代が違うと言われれば確かにそうかもしれない。だがライオンズが2008年を最後に日本一になっていないことは事実であり、そのようなチーム内の緩さが弱体化を加速させているのではないだろうか。
そんな中、栗山巧選手だけは連敗中、決して笑顔を見せることがなかった。敗戦後には誰よりも厳しい顔を見せ、全身で負け続けている屈辱を表している。そんな栗山選手の姿を見て、果たして若い選手は何とも思わないのだろうか。栗山選手の険しい表情を見て心を打たれているのは、果たして我々ファンだけなのだろうか。
松井稼頭央監督にしても選手を甘やかし過ぎているように見える。例えばルーキーの武内夏暉投手だが、確かにしばらく週5試合が続くため登板機会がなかったとも言える。しかしデビュー戦から2試合連続で素晴らしいピッチングを見せた武内投手を抹消する必要はなかったのではないだろうか。
松井監督はルーキーとしての疲れを鑑みてというコメントをされていたが、しかしこの程度でへばっているようでは新人王など獲得できない。せめて先発投手が不安定さを見せた際の第二先発としてベンチ入りさせておくべきだったと思う。
ここまで松井監督の采配でキレが見えた采配はほとんどないのではないだろうか。どうも選手のコンディションを気にし過ぎていて思い切った采配ができていないように見えるのだ。確かに選手に怪我はさせたくないわけだが、しかしスポーツに多少の怪我は付き物だ。その多少の怪我に耐えられないような選手は、一軍で生き残ることなど出来はしない。
例えば当の松井稼頭央選手は現役時代、ぎっくり腰という持病を抱えていた。そのため数年に一度酷い腰痛に悩まされたわけだが、それでも松井選手は試合に出続けた。そして松井稼頭央選手を試合に出し続けたのは当時の東尾修監督で、まさに松井稼頭央選手を一流選手に育て上げた名将だった。
東尾監督は非常に機転が利く人物だった。選手のコンディショニングを重視しながらも、「できるならやれ」というスタンスで選手を使い続け、それにより多くの名選手を育て上げた。そしてチームの士気が下がり始めているなと感じると中心選手を呼び出し、自腹でお金を渡し、その中心選手に他の選手たちを食事に連れ出すなどさせていた。
松井選手ももちろんそのうちのひとりで、松坂大輔投手が入団した際、東尾監督は松井稼頭央選手にポケットマネーを渡し、食事に連れて行かせていた。とにかく東尾監督はボスとして、オンとオフと上手く使い分けた名将だった。
だが松井監督は選手を信頼し過ぎているように見えるし、逆に信頼していないようにも見えるのだ。例えば采配を見ると「選手たちがきっとやってくれるはず」というものが多く、これは選手を信頼し過ぎている采配だと言える。例えば複数回失敗して状態も然程変わっていないのに、さらにその選手を起用し続けるなどがそれに当たる。
逆に打順などでは1試合上手くいかないとオーダーを猫の目打線のように変えてくる。これは選手を信頼していないからこそ動かし過ぎてしまっていると言えるのではないだろうか。
確かに勝つための采配は非常に難しい。だが勝つためには選手を信用すべきだが、信頼してはならない。監督は必ず、その選手の活躍を期待しながらも、その選手が失敗する前提で起用していくべきなのだ。それができていれば、フランチー・コルデロ選手の起用法ももう少し違ったものになっていたはずだ。
松井稼頭央監督が勝てる監督になっていくためには、もう少し選手を上手く活用できる采配が必要になってくるだろう。調子が良い選手、コンディションが良い選手だけを起用していくことなど誰にでもできることだ。それこそ野球通の草野球の監督であってもできるだろう。だがプロ野球ではそれでは勝てないのだ。
さて、西鉄ライオンズを3年連続で日本一に導いたのち、三原監督は大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)の監督に就任した。当時のホエールズにはスター選手がまったくと言って良いほどおらず、せいぜい秋山登投手くらいのものだった。そしてホエールズ自体も「お荷物球団」と呼ばれるほどの体たらくぶりで、6年連続最下位に沈んでいる真っ只中での監督就任だった。
その時三原監督が使ったのが「超二流」という言葉だった。これは言い換えると、決してスター選手とは言えないが何か一芸に秀でた選手たちのことで、三原監督はホエールズの超二流選手たちの個性を上手く活かし、まさに適材適所で選手を起用し、複数の超二流選手たちを組み合わせることで、他球団の一流選手に匹敵する戦いを見せた。
その結果、6年連続最下位に沈んでいたホエールズは三原脩監督就任1年目でまさかの日本一を達成し、当時としては前年最下位だった球団が日本一になることは史上初の出来事だった。それが1960年の出来事で、その次にホエールズ(ベイスターズ)が優勝するのはその38年後、権藤博監督が率いた1998年となる。
この三原脩監督は筆者だけではなく、昨年WBCで侍ジャパンを見事世界一に導いた栗山英樹監督にも大きな影響を与えている。例えば栗山監督はファイターズの監督時代、三原監督が西鉄監督時代に作り上げた「流線型打線」を再現したり、選手起用に関してもまさに三原監督の超二流を継承しているかのようだった。その結果在任10年で二度ファイターズを日本一に導いている。
現在のライオンズはもはや、黄金時代のようなオールスターチームではない。そんな状況において真っ向勝負を挑み続けても体力を消耗するばかりで、一時的に勝てたとしても勝ち続けることは難しい。これこそが今ライオンズが負け続けている原因だと言えるのではないだろうか。
例えば今のライオンズが、FAなどで次々と選手を獲得するホークスやバファローズに真っ向勝負を挑んでも簡単に勝てるとは思えない。特にホークスの選手などは日本シリーズを幾度も経験している猛者ばかりなのだから。それならばもう黄金時代のプライドなど完全に捨て切り、野村克也監督曰く、弱者の兵法を用いるべきではないだろうか。
もちろん松井監督にも思い描くヴィジョンはあると思う。しかしこうも負けが込んできたことを考えると松井監督もスパッと頭を切り替える必要があるのではないかとさえ思えてくる。
そして松井監督に関してもう一点気になることが筆者にはある。それはリプレー検証のリクエストだ。今季筆者はここまで全試合観ているのだが、その中で少なくとも二度、明らかに判定が覆るはずがないという場面でリプレー検証を要求しているのだ。さらにその内の少なくとも一度は、選手からリプレー検証のリクエストがベンチに送られ、それに松井監督が応えたというものだった。
もしかしたらその選手(走者)にとってはセーフだと感じたプレーだったのかもしれない。しかし二度も三度も見なくとも、それは明らかにアウトだと分かるものだった。ベンチもセーフだとは思っていなかったはずだ。にも関わらず松井監督は選手の要望を受けてリプレー検証をリクエストした。
もしベンチがアウトだと判断していたのだとしたら、いくら選手が要求してもリプレー検証のリクエストなど出す必要はないのではないだろうか。「アウトなんだからサッサと戻ってこい」くらいのことを選手に言っても良いのではないだろうか。その方がよほど試合の流れが良くなると筆者は思うのだが。
このような面でも筆者は、松井稼頭央監督の采配に甘さを感じてしまっているのだ。そしてこの甘さをファンが感じてしまっているうちは、ライオンズが強くなることはないのではないだろうか。松井監督にはもっと絶対的な監督としての存在感を持ってもらいたい。「監督に頼めばなんとかしてもらえる」などと選手に思われるような甘い采配は見せるべきではない。
現在は目下7連敗中のライオンズではあるが、しかしこれが8月じゃなかったことだけは不幸中の幸いだ。8月の7連敗は優勝を絶望的にもしかねないが、今であれば7連敗してもまだ首位との差は4.5ゲームに留まっている。4.5ゲーム差であれば、このままズルズル連敗を長引かせなければ十分に取り返せる差だと言える。
そしてシーズンの最後には16年振りの日本一を祝えるよう、選手たちには仲良しクラブは卒業し、勝って和し、それによってさらに強いチームへとなっていってもらいたい。少なくとも7連敗中に選手が笑顔を見せているようではダメだと思っているのは、決して筆者だけではないはずだ。