2024年6月18日公開
今年のライオンズは考えられないくらいに弱い。6月のチーム成績は2勝12敗で、勝率は.142というあり得ない低さになっている。ちなみにフランチー・コルデロ選手の今日時点の打率は.141であるため、ライオンズの6月はこのコルデロ選手の低打率同等ということになる。
渡辺久信監督代行はこの現状を打破するため、補強を行うことを示唆した。まだ「何も決まっていない」と話されているが、しかしこれは契約には至っていないという意味で、実際には複数のラインで補強の交渉が進められているはずだ。
ちなみにライオンズの支配下契約選手は現在66人となっており、あと4人分は新戦力を入れることができる。まず渡辺監督代行が補強と言ったということは、新たな選手を外から獲得することを意味する。それが1人になるのか2人になるのかは分からないが、とにかく最低でも1人は補強されるであろう形が見えてきた。
そしてさらに考えられることは育成選手の支配下契約への切り替えだ。育成選手の中には精度はまだ低いもののパワーがある外国人選手がいるし、もしかしたら育成選手のうち誰か一人を一軍で試すという形になるのかもしれない。ただその場合、小兵タイプの選手はダメだ。小兵選手のタイプはもうすでに多すぎるくらいに多く一軍に名を連ねている。そのため育成契約からの切り替えとなるのならば、パワーヒッタータイプである必要がある。
なお外国人選手の補強を行う場合は、昨季のクリスキー投手のように日本球界を経験している打者一択ということになるだろう。ちなみに一部メディアはウルトラCとしてエルネスト・メヒア選手の復帰もありだと報じていたが、さすがにこれはないのではないだろうか。確かに今年行われたライオンズのOB戦ではホームランを打つ姿を見せてくれたが、メヒア選手が引退したのは3年前だ。
しかも引退する前からライオンズではかなり出番が減っており、キャリア終盤では代打での出場がメインになっていたため、仮にメディカルチェックで問題がなかったとしても、ブランクを考えるとメヒア選手の復帰は、ファンとしてはとても嬉しいが、現実問題としては非常に難しいだろう。
そうなると個人的にはやはりマーク・ペイトン選手の復帰を期待したい。確かにペイトン選手もライオンズ時代には怪我もあり満足のいく成績を収めることはできなかったが、しかし怪我が治った後は日本野球への対応力も見せ始めていた。すでに日本慣れしていることを考えると、ペイトン選手の復帰はなしではないと思う。
ちなみにペイトン選手は現在はマイナーリーグでプレーしており、5月の月間打率は.339だった。6月は.271となっているが、しかし6月前半だけで2本塁打をマークしており、比較的好調を維持している。マイナーリーグの年俸を考えれば、もし西武球団がオファーを出せばペイトン選手も喜んでまたライオンズのユニフォームを着てくれるのではないだろうか。
そしてペイトン選手は外野手であるため、現在レギュラーが一人もいないライオンズの外野陣を考えると、ポジション的にもフィットする存在だ。また、ペイトン選手はデーゲームよりもナイトゲームの方が高い打率を残しており、そういう意味でもナイトゲームが多い日本の一軍の試合には合っていると言うこともできる。
とにかくいずれにせよ、メヒア選手じゃなくてもペイトン選手じゃなくても、日本の野球をよく知っている選手を獲得する必要がある。理想を言えば昨日も書いた通りドラゴンズのビシエド選手を獲得することであるわけだが、高額年俸によりそれが難しい場合は、やはり日本球界を知っている選手一択ということになるはずだ。
さて、渡辺久信監督代行は「野球人生を賭けてライオンズを立て直す」と、監督代行就任時に話していた。ではどうすればライオンズを立て直すことができるのだろうか?それはやはり練習あるのみということになるだろう。
西武ライオンズの初年度である1979年からの3年間は、オヤジと呼ばれ慕われた故根本陸夫氏が編成を担いながら監督を務めた。まさに今の渡辺久信GM兼監督代行と同じスタイルだった。だが根本監督では勝てないと選手が噂し始めたのを小耳に挟むと、根本監督は自らをスパッと切り外部から広岡達朗監督を連れてきた。
この広岡達朗という人物は管理野球が代名詞となるほどの監督だったわけだが、とにかく練習が厳しかった。根本監督時代には他球団と大して差のない練習をしていたライオンズだったが、広岡監督に変わるとそれがガラッと変わり、キャンプではウォームアップの代わりに200mを100本走るようになった。
しかも朝から夕方までみっちり練習をするのはもちろんのこと、夕食を済ませると毎晩ミーティングが行われ、ミーティング後には夜間練習も待っていた。ライオンズの黄金時代というのは、このような練習量によって作られたものなのだ。決して良い選手が集まっただけで優勝できたのではなく、良い選手が集まってこれだけの練習を行っていたからこそ優勝するのが当たり前のチームになることができたのだ。
もちろん現代にそのまま広岡野球を持ってきたとしても、かつての菊池雄星投手のようにゴネる選手も出てくるだろう。だが今のライオンズに必要なのはまさに広岡野球の厳しさだ。根本監督が3年間かけて下地を作ったチームを、広岡監督が見事に花咲かせていった。しかも広岡監督の指導は根性論ありきではなく、投げ方にしても捕り方にしても当時では珍しいほど理論的な指導が行われていた。
例えば筆者はかつて大石達也投手がライオンズに入った際、大石投手のテイクバックを見て必ず肩を痛めるだろうと予測した。そしてそのためには背中側に大きく入っていたテイクバックを直す必要があり、それにより右肩のインナーマッスルが過度に伸ばされないようにし、肩を痛めにくいフォームに変えるべきだと当時筆者は書いたり話したりしていた。
これは野球を科学的に学び、バイオメカニクスを理解しているからこそ分かるポイントなのだが、何とまだ野球科学どころか、バイオメカニクスという言葉さえ日本になかった頃から、広岡監督は筆者が大石投手に対し語ったのと同じ指導をライオンズの監督就任1年目から投手陣に行っていたのだ。そしてその指導により肩を痛めることなく投げ続けられたのが兄やんこと松沼博久投手だった。
このように広岡監督の指導は理不尽に厳しいのではなく、理論的根拠がある中での厳しさだったのだ。今のライオンズにはバイオメカニクスチームがあり、科学的動作分析は武隈祥太氏ら、そのチームの面々が専門的に行ってくれる。となると監督が行えば良いのはチームに厳しさをもたらすことだけ、ということになる。
渡辺久信監督代行は前回ライオンズの指揮を執った際、涌井秀章投手や岸孝之投手、中島裕之選手や栗山巧選手ら、他球団のどの選手たちよりもたくさん練習をする選手たちを多く抱えていた。そしてその頃のライオンズには、他球団以上に多くの練習をすることが普通であるという風潮がまだ残っていた。
しかし今のライオンズと言えばどうだろうか。大した成績を残してもいないのに、夜歩きタバコをしながら飲み歩いている姿を週刊誌に報じられたり、SNSでファンをナンパしたりと、練習以外のことに忙しくしている選手が多すぎる。これでは今のライオンズが弱いことにもまったく驚きを感じない。だからこそ今渡辺監督代行がやらなければならないのは、チームに厳しさを注入していくことなのだ。
今のあり得ないほどに弱いライオンズを立て直すためには、現有戦力を上手く起用していくというレベルの話ではどうにもならない。これが例えば三原脩監督が話した超二流という言葉のように、総合力としては一流ではないが、得意分野においては超一流という選手たちだった場合は話は別だ。例えば黄金時代で言えば平野謙選手はバッティングは一流とは言われていなかったが、送りバントの技術は超一流だった。
今のライオンズには総合力の高い一流選手はもちろんのこと、得意分野を持った超二流選手さえいない。足が速い、肩が強いことをアピールする選手たちは複数いるが、しかし盗塁数が増えているわけでも、外野手としての捕殺数が伸びているわけでもない。
そして言うまでもないが打力がある選手もいない。チーム打率は今.202という低さで、次の試合でこの打率が1割台に割り込んでしまう可能性さえ秘めている。このように、現有戦力を生かそうとしてもそれは現実的には不可能に近いのだ。現有戦力に関してはシーズン中であっても叩き上げていく必要がある。
もはや選手の自主性に任せていられる状況ではない。それが許されるのは栗山選手、中村剛也選手、炭谷銀仁朗捕手、増田達至投手ら抜群の実績を誇る大ベテランのみだ。その他は一軍にいる全選手が技術不足であり、そのような選手たちの自主性に任せていても、今後突然目に見えて活躍し出す可能性はほとんどない。
ゆとり世代だのミレニアル世代だのと言っている場合でもない。もしそのような世代の選手たちが厳しい練習に付いて来られないのだとすれば、彼らは所詮その程度の選手なのであり、そのような選手は早めに整理リスト(戦力外リスト)に加えてしまった方がいい。
はっきり言って近年のライオンズのやり方は生ぬるい。渡辺久信監督の後任となった伊原春樹監督の口が災いしてまずチームが空中分解し、そして伊原監督が更迭された後に代行となった田邊徳雄監督は、バラバラになったチームを一つにまとめ上げるだけで精一杯だった。
そして辻発彦監督は、確かに時折厳しさも垣間見せていたが、しかしベンチでは選手にいじられてしまうという威厳のなさだった。監督というポジションには今も昔も変わらず威厳が必要だ。監督がジッとベンチに座っているだけでチームの雰囲気が引き締まるという状況であることが望ましい。だが辻監督はそれができるタイプの監督ではなかった。
その辻監督からバトンを受けた松井稼頭央前監督も人柄は本当に素晴らしい人格者だったわけだが、しかし選手に厳しさを求めることはやはりできなかった。田邊監督、辻監督、松井監督ができなかった厳しさの注入こそが、今渡辺久信監督代行に求められていることだ。
渡辺久信投手も現役時代は広岡達朗監督に反発した口だった。しかし広岡監督のやり方でチームが面白いように勝てるようになると、渡辺久信投手だけではなく、当時管理野球に反発していた大ベテランたちも次第に黙るようになっていった。このように、最初は選手が不満を持ったとしても、勝てるようになれば彼らも納得するようになるのだ。
もちろん広岡監督のような管理野球をしろとは言わないが、しかしぬるま湯体質となってしまった今のライオンズに厳しさを求めることだけは徹底していって欲しい。そして厳しさを求めたことで怪我をしてしまうようであれば、その選手は所詮はその程度なのだ。弱い選手を