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2024年4月26日公開

怪我後の新たな左膝と向き合いながら完全復活を目指す若林楽人選手

若林楽人選手の怪我の原因は120%で走り続けてしまったことにあった

若林楽人選手

今季、怪我からの完全復活が期待されている選手の一人が若林楽人選手だ。若林選手はプロ一年目の2021年、5月までに20盗塁を決めるという韋駄天ぶりを発揮し、西武ファンのみならず、全国の野球ファンを魅了した。

しかし若林選手はその時のことをスポーツニュースサイトのインタビューで振り返り、1年目は毎日試合が行われるプロ野球でのペース配分も分からず、ただ怖いもの知らずのアドレナリンだけでプレーしていたと語っている。そしてファンからすると驚きであるわけだが、プロ1年目から球界トップクラスの走力を持ちながらも、走ることが武器になると理解したのはプロ入り後だったと言う。

ルーキーイヤーの春季キャンプ中に小関竜也コーチ、黒田哲史コーチに「足で稼げる」と言われてその気になり、そこで初めて盗塁というものを真剣に考え出したようだ。だがプロ入りして春季キャンプを迎えるまでは、大学四年生の秋に4本塁打した長打力と守備力を自分の最大の武器だと考えていたと言う。

確かに若林選手のバッティングにはパンチ力がある。プロ1年目、開幕から怪我をするまでの僅か2ヵ月程度の間に若林選手は2本塁打を放っている。筆者はずっと勘違いをしていた。若林選手はプロ入り前から走力の高さを自覚しているのかと思いきやそうではなく、それどころか盗塁やスライディングに対し苦手意識さえあったらしいのだ。

しかしそれが小関コーチ、黒田コーチとの出会いにより野球観が変わり、プロ1年目の若林選手はとにかく驚異的なペースで盗塁を重ねていった。だが120%を出し続けるような走りを続けたことにより、知らず知らずのうちに若林選手の下半身には見えない疲労が溜まっていった。

若林選手自身今振り返っても、怪我をして当たり前というくらいアドレナリンだけで無茶なペースで走ってしまっていたらしい。その結果、2021年5月30日のタイガース戦で左膝前十字靭帯を痛め、すぐに手術という運びとなってしまった。

これはトレーナーがしっかりとコンディションを見ていれば防げた怪我だったのでは?とも言いたいところだが、しかしプロ野球の場合、コンディショニングを優先的に見てもらえるのは主力やベテラン選手たちで、ルーキーはどうしても後回しになってしまうのだ。

そのためルーキーの場合、不調を訴えない限りはトレーナーのサポートを受けられないことも非常に多い。若林選手の場合、怪我をするまではとにかく元気いっぱいにプレーをし続けていたため、トレーナーも若林選手の下半身の疲労には気付くことができなかったのだろう。何せ若林選手自身でさえ気づいていなかったのだから。トレーナーとしては悔しい怪我となってしまったが、しかしトレーナーができることにも限度はある。

まだ左膝に痛みを抱えながらのプレーだった3年目までの若林楽人選手

ファンとしてはまたあの韋駄天ぶりを見たいという期待もあったわけだが、若林選手自身としては「もう前のようには走れないし、走るべきではない」と考えているようだ。つまり2ヵ月で20盗塁するような無茶な走りではなく、走るにしても月間5個程度のペースで、最終的に30盗塁程度に到達すればいいと考えていると言う。

若林選手としては1年目からの過去3年間は、本当に辛い3年間だったと思う。プロ入りしてすぐの春季キャンプで足が武器になることを知り、実際1年目は開幕から一軍で走りまくり、早々に自らの立ち位置を勝ち取っていった。しかしそれも僅か2ヵ月で左膝前十字靭帯を痛めてしまったことにより、その新たな武器があっという間に奪われてしまったのだ。まるで嵐のような目まぐるしささえ感じていたはずだ。

そして2年目は一度は一軍に上がったものの左膝の痛みはまだかなりあったようで、僅か28試合の出場に留まった。3年目に関しては痛みこそ軽くなったものの、しかしその痛みが完全に抜けることはなく、想像以上に回復までに時間がかかっていた。そしてその3年目を終えた昨オフ、若林選手の左膝からはようやくボルトが除去された。

これでまた以前のように走れるかとも筆者はファンとして浅はかにも考えてしまったわけだが、しかし以前のように走ることは、上述したようにできなくなってしまったらしい。その若林選手の言葉を裏付けるように、ファームではここまで13安打を放ちながらも盗塁は0となっている。

なかなか復活することができない若林選手に対し、ライオンズファンからは厳しい声が上がることもあるわけだが、筆者は一貫して若林選手のことは応援し続けている。なぜなら若林選手は、やると決めたことはとにかく徹底的にやる選手だからだ。怪我の回復に対しては甘く見ていたと本人も話しているわけだが、しかしこうと決めたら突っ走ることができるのが若林選手なのだ。

そしてその姿は周囲の人間を惹きつける魅力がある。だからこそ若林選手は駒大苫小牧高校でも、駒澤大学でもキャプテンを任されていたのだ。選手として中途半端な人間性であれば、決してキャプテンなど任されるはずはない。だが若林選手は名門野球部で高校、大学共にキャプテン職を務め上げている。

また、筆者が若林選手に期待する理由としてはもう一点、身体能力だけでプレーをしていない点を挙げることができる。もちろんルーキーイヤーに関してはアドレナリンだけで身体能力以上のパフォーマンスを続けてしまったという失敗を犯してしまったわけだが、しかし今は自らの身体能力をしっかりと理解し、さらに怪我をした左膝の神経の反応を敏感に感じ取りながらプレーをしているようだ。

これが超高校級、超大学級といったスーパープレイヤーの場合は身体能力だけでプレーをし続けても10年程度はそれが通用することもある。だが若林選手はスーパープレイヤーというレベルではない。堅実に自らの技術を高めていかなければプロでは通用しないレベルの大学生選手だった。

そしてそのような選手の場合、自らの体を正確に理解し、できる限り思い通りの動きができるようにすることで、プロで通用するレベルの選手へと進化することができる。筆者は若林選手にはそのようなプレイヤーになってもらいたいと期待しているのだ。

「怪我後」の新たな左膝を向き合い続ける若林楽人選手

さて、今季ここまでの若林選手は一軍では6試合に出場し、打率は.087となっている。数字だけを見るとまったく物足りないし、またいつ二軍に落とされても不思議ではない数字だ。しかし二軍でのバッティングを見る限り、今季は少しずつ「怪我後」の新しい自分を確立し始めているのかなと思えることがある。

そして若林選手自身、パンチ力のある打撃と守備力を武器だと考えているため、まだ100%とは言えない左膝の心配が今後さらになくなっていけば、若林選手の打率は間違いなく少しずつ上がっていくはずだ。だがそのためには、もう少し一軍での場数が必要になってくるだろう。

二軍で好調だったとは言え、一軍と二軍では相手投手が投げてくるボールの質がまったく異なる。それこそ下手したら、中学野球と甲子園レベルの高校野球ほどにも違ってくる。例えば単純に、ライオンズで言えば今井達也投手レベルのボールを二軍戦で経験することなど事実上不可能だ。だからやはり怪我によりしばらく一軍を離れていた若林選手は、一軍レベルの投手が投げるボールに時間をかけて目慣れしていく必要がある。

今季ここまでの若林選手自身の感想としては、恐らく一軍レベルのスプリッターは予想よりも大きく落ち、一軍レベルのスライダーは予想以上に遠くまで曲がり、一軍レベルのストレートは予想以上に速く飛んでくるというものも少なからずあるはずだ。だが今季はまだ25打席しか立っていない一軍での打席数を今後さらに増やしていくことができれば、若林選手は少なくとも.270〜.280程度は打てる打者になるだろう。

そして守備範囲の広さと強肩ぶりは誰もが認めるところであるため、その守備力を加算すれば打率.270だったとしても、3割バッター相当の存在感を示すことができるはずだ。

あとは若林選手は無理に引っ張りにいかないことだ。一軍で打てていない時のスウィングを見ていると、いつもレフト方向を見ながら振っているように見えていた。だが仮にレフト方向に飛ばすとしても、意識としてはやはりセンターから反対方向に持っておかなければスウィングがアウトサイドインになってしまい、なかなか打率は上がっていかない。

だが強い打球をレフト方向に打つにしてもしっかりと反対方向を意識した上での結果であれば、スウィングはインサイドアウトとなり、ボールも見極めやすくなり、打率も出塁率も共に上がっていくようになるだろう。今は結果を急ぎ過ぎているようにも見える若林選手だが、しかしまだ焦ることなく、コンタクトを重視した上で長打力を求めるという順番での考えが必要なのかもしれない。

例えばその良いお手本としてライオンズにはヘスス・アギラー選手がいる。アギラー選手はまさに反対方向を意識しながらも、引っ張れるボールが来たらレフト方向に強く弾き返していくという使い分けが非常に巧い。このアギラー選手のスタイルを少し参考にするだけでも、若林選手の確実性は上がっていくだろう。

大学四年時の秋季シーズン、若林選手はキャプテンとして10試合に出場し、打率.310、4本塁打、13打点という素晴らしい成績をマークし、ベストナインにも選ばれている。若林選手はこの打力を自信にしてプロ入りしてきた選手なのだ。そのため若林選手も、なんとか今季二軍で見せてきたような活躍を一軍でも見せたいと考えているはずだ。

だが過去2年間は、左膝を庇いながらのスウィングをすることによってフォームを崩してしまった。だが今季は少しずつ「怪我後」の新しい左膝に合ったフォームが仕上がりつつあるようだ。オフにボトル除去手術を受けた影響もあるため、他選手よりはシーズンのスタートダッシュは利かないという状態だと思う。だが体やフォームが仕上がってくれば、若林選手はきっと外野の一角を確実に自分のエリアにすることができるだろう。

今はまだファンが納得する数字は残せていない若林選手だが、筆者は今後も変わらず若林選手に対し大きな期待を寄せていきたい。そして若林選手が一軍で活躍をする姿は、盟友ブランドン選手にとっても良い刺激となるはずだ。プロであるが故、成績が悪ければどうしてもファンには叩かれてしまう。だが筆者は今後も変わらず若林選手に対しては大きな期待を寄せていきたいのである。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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