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2024年6月10日公開

今の弱い西武ライオンズを作る下地を作ったのは菊池雄星投手らが起こした問題が発端

どうファイティングポーズを見せたら良いか分からない今の若獅子たち

埼玉西武ライオンズ

6月8日、ホークスの小久保監督は自軍の攻撃でボーンヘッドがあったことに激怒した。試合そのものはホークスが5-3でベイスターズを下したわけだが、試合後の会見で小久保監督は吐き捨てるようにそのボーンヘッドを責め、一方的に会見を打ち切るという場面がった。

監督が激怒する姿を見せることが必ずしも良いというわけではないが、しかし今のライオンズに必要なのはこの厳しさなのではないだろうか。例えば今季ここまでのライオンズの試合を見続けていると、2球連続で送りバントを失敗した結果、追い込まれた後ヒッティングに切り替えて凡退したり、絶対的に進塁打(ライト方向へのゴロ)が求められる場面でレフト方向にフライを打ち上げたりと、打撃陣の技術がまったく一軍レベルに追いついていない。

ホークスの試合を見ていると小久保監督が厳しい目線で見守る中、選手たちは緊張感を持ってプレーしているように見える。だがライオンズの選手の中で緊張感を持てているのは栗山巧選手中村剛也選手くらいで、他の35歳未満の比較的若い選手たちは、チームが勝てていないことに野球の面白さを見出せていないようにも見える。

例えば少年野球などでも、試合にずっと勝てなかったり打席でヒットを打てないことが続くと野球が面白くなくなり、チームを去ってしまう子も多い。近年のライオンズはまるでそのような少年野球を見ているかのようだ。去年も今年もこれだけ負けているというのに、若い世代の選手は死ぬ気で勝ちに行く姿をまったく見せてこない。渡辺久信監督代行が言うところのファイティングポーズを見せられるファイターがいないのだ。

考えられる理由としては、ファイターと呼べる選手たちが続々とFAなどでライオンズを去ってしまったことが挙げられる。FAによる選手の流出は戦力ダウンだけではなく、残った選手が良き手本を失うことも意味する。つまり今のライオンズの選手たちはチーム内にファイターがいなかったため、どうやってファイティングポーズを見せれば良いのかが分からないのだ。特にミレニアル世代やZ世代などと呼ばれる若い選手たちは、ゆとり教育の影響もあってか一般社会でもファイティングポーズを見せられない者が多い。

ただ、家庭内でしっかりとした社会に対する教育を受けている一部の者は、即戦力として社会に出てくることもある。だがそれは本当に一握りであり、例えばライオンズというチーム単位で見た場合、せいぜい2〜3人程度ということになるのではないだろうか。

菊池雄星投手らが作ってしまった今の弱いライオンズの下地

そしてミレニアル世代の代表格のような行動に走った選手もかつてライオンズにもいた。それは菊池雄星投手らだ。菊池投手らはライオンズ時代、チームに設けられたルールを守ることをしなかった。そしてチームではルールを破った場合罰金を支払わなければならず、その罰金はシーズンオフに選手やその家族に還元されるシステムになっていた。

だが菊池投手は自らルールを破っておきながら罰金を支払うのを拒み続け、そのことなどに激怒したデーブ大久保コーチが菊池投手の体に適切ではない触れ方をしたらしい。すると菊池投手の説明を受けたライオンズの選手会がそれを暴力行為だと球団に訴え、その結果デーブ大久保コーチは西武球団から解雇される羽目になってしまった。

その時はデーブ大久保コーチの暴力沙汰ばかりが報道されていたが、デーブ大久保コーチは殴る蹴るといった暴力行為はしていないと思われる。確かに荒い接触のしかた(髪の毛を引っ張ったようだ)はしたのだろうが、いわゆる目を覆うような暴力行為を行なったわけではない(もちろん髪の毛を引っ張るべきではなかった)。つまり一部のミレニアル世代は自らに都合の良くないルールを守ろうとしない特徴を持つということだ。しかしルールはルールだ。そのルールが嫌なのであれば、ルールを破ったり文句を言う前に、まずはルールを守り、その後でそのルールを変えようとすべきではないだろうか?だがドラフト1位で、しかも高校時代からチヤホヤされていた菊池投手にそのような発想はなかったようだ。

正直言うと、菊池投手は筆者の中では数少ない好きになれない野球選手の一人だ。なぜならもし菊池投手らがこのような下らない揉め事を起こしていなければ、西武球団がコンプライアンスに対しこれほど過敏になることはなかっただろうし、デーブ大久保コーチも解雇されなかったことで、もっと永続的に2008年のような強力打線を、選手の好不調に左右されることなく作り続けられていたはずだ。そもそも罰金を取られて文句を言っている選手たちは遅刻の常習犯なのだ。だが菊池投手らのような訴えがまかり通ってしまうのが今のプロ野球という特殊な業界だと言える。もしこれが一般企業であれば遅刻の常習犯は確実に解雇されるはずだ。

一般的には西武球団の前オーナーである堤義昭氏の粉飾決済事件以来西武球団がコンプライアンスに対し過敏になったとも言われているが、実際には菊池投手が問題を起こした後からだ。これ以降、ちょっとしたことでも選手が騒ぎ出さないようにと、西武球団は選手に対し過保護になり過ぎていく。

デーブ大久保コーチは確かに清廉潔白な人ではなかった。2008年に日本一になった直後には女性とのトラブルが表沙汰になり一時期コーチ職を解かれている時期もあった。そしてデーブ大久保コーチと反りの合わないミレニアル世代は菊池投手だけではなかったというのも事実だ。例えば松坂健太選手もデーブ大久保コーチとは合わなかった選手の一人だ。

だがデーブ大久保コーチには非常に高い指導能力・育成能力があり、だからこそ2008年のライオンズ打線は198本ものホームランを打つことができたのだ。そして何よりも筆者が感銘を受けていたのが、渡辺久信監督の人望をより高められるようにと、デーブ大久保コーチが自ら嫌われ役を演じていたことだ。強いチームには必ず嫌われ役を務められるコーチがいるわけだが、それを人知れず率先して演じていたのがデーブ大久保コーチだったのだ。

しかし今のライオンズはどうだろうか?松井稼頭央前監督も、平石洋介コーチも、そして他のコーチたちも選手たちにはとても好かれている。なぜなら人当たりが良く決して怒ることがないからだ。本来であれば平石コーチが嫌われ役を演じなければならなかったわけだが、それができなかったということは、平石コーチはヘッドコーチには向いていないということなのだろう。

となると、渡辺監督代行自ら嫌われ役となっていかなければならない。本来は監督がそうなるべきではないのだが、しかしそうせざるを得ないのが今のライオンズの弱さを象徴している。コーチたちは誰も嫌われ役にはなりたくないのだ。ちなみにデーブ大久保コーチは嫌われ役を演じたことでのストレスや、寝ずに対戦相手の研究をしていた過労により、2008年のシーズン中から実は体調を崩されていた。筆者はデーブ大久保コーチのように、これほど命懸けで野球に尽くす野球人はそれまで見たことがなかった。

筆者も監督としてチームを率いた経験があり、その際には筆者の盟友とも呼べる人物をヘッドコーチに据えた。そしてヘッドコーチには選手の味方になってもらい、その時は筆者自身が嫌われ役に徹し3年間そのチームを率いたのだが、嫌われ役を続けるというのは本当にストレスが溜まる仕事なのだ。筆者自身がのちにそのような経験をしたことで、デーブ大久保コーチが嫌われ役を演じた過酷さを身を持って体験することができた。

今ライオンズに必要なのはデーブ大久保コーチのような存在であるわけだが、今の西武球団は決してデーブ大久保コーチの復帰を許さないだろう。確かにデーブ大久保コーチは時代遅れと言えば時代遅れのやり方をしていた。だが実際やっていることは星野仙一監督と同じであり、他球団でも普通に行われていたことなのだ。もちろん今でも多くの球団に罰金制度は残っている。

しかし時代遅れと言われても、実際にデーブ大久保コーチの指導によりライオンズ打線は破壊力抜群になっていったのだから、コーチとしての導き方は正しかったと言える。ちなみにデーブ大久保コーチはやり方は時代遅れだったのかもしれないが、指導理論に関しては常に最新の野球科学を学ばれていた。野球科学に関してはまさに筆者の専門分野であるわけだが、デーブ大久保コーチと熊澤とおるコーチは、筆者が知る12球団のコーチの中でも、数少ない確かな理論を持っているコーチだった。

だが2008年の強力打線を作り上げたこのお二人は、デーブ大久保コーチは上述の形で、そして熊澤コーチも自らの意思によりライオンズを去ってしまった。後にその理由を熊澤コーチ自身から伺ったのだが、なるほどなと思える理由だった。

今この時が渡辺久信監督が根本陸夫になれるかどうかの分かれ道

西武球団は今、選手だけではなく監督コーチの育成にも力を入れているわけだが、しかし名将や名コーチはカリキュラムによって生み出せるものではない。コーチになりたての頃は、名将や名コーチのやり方を見ながら指導方法を学ぶべきなのだ。しかしそれをせず、ただフレッシュな面々を集めて「さぁ、ここから指導法を学んでいきなさい」と放牧をしてもすぐに限界が訪れる。まさに今のライオンズのように。

例えば名将森祇晶監督は巨人のV9時代に名将川上哲治監督を見て帝王学を学んだ。筆者が尊敬する野球人の一人である広岡達朗監督もまた然りだ。そして他球団で言えば、やはり名将と呼ばれた仰木彬監督は現役時代には、筆者が最も尊敬する野球人である三原脩監督を見て帝王学を学んだ。三原監督はその采配を「三原魔術」と称され、仰木監督は「仰木マジック」と称された。そしてそのイズムを受け継いでいるのが栗山英樹前日本代表監督とバファローズの中嶋聡監督だ。

だが黄金時代終焉後のライオンズの場合、名将と呼べたのはわずか3年で黄金時代後のチームを作り上げた東尾修監督と、黄金時代以来の完全優勝を果たした渡辺久信監督だけだ。伊東勤監督も一応は日本一になっているが、しかしリーグ優勝経験はない。

松井稼頭央監督の場合、東尾監督を間近で見て帝王学を学んでいたわけだが、しかし昭和の匂いを漂わせる東尾監督と、いかにも現代人という出立ちをしていた松井選手とでは、キャラクターにあまりにも差がありすぎた。そのため松井監督は東尾監督の元で学んだことを監督として生かしきれなかったのだろう。

伊東監督に関しては名将にもなり得たと思うが、しかし裏金問題に絡んでしまいライオンズを去るしかなくなってしまった。ここ最近は伊東元監督と西武球団の間にあったわだかまりも雪解けを迎えているようにも見えるが、少なくとも監督当時、伊東監督は森祇晶になることはできなかった。

ちなみに東尾監督があと一年長く監督をしていれば、かなり高い確率で日本一を達成していただろう。だがその東尾チルドレンを引き継ぎ2002年はぶっちぎりでリーグ優勝を果たした伊原春樹監督は、シーズン中と同じ選手起用にこだわり、日本シリーズで巨人相手に4戦4敗で敗れてしまう。臭覚の鋭い東尾監督であれば、シーズン中の功労者であっても不調と見れば日本シリーズでは起用法を変えたはずだが、しかし伊原監督はそうしなかった。

西武球団が今の弱いライオンズを見て何を感じているのかは分からない。だが菊池雄星投手が問題を起こした以降のやり方をこれからも続けていけば、ライオンズは衰退の一途を辿っていくだけだろう。そうならないためにも、今こそライオンズにはホークスで小久保監督が見せているような厳しさが必要なのだ。もしくはデーブ大久保コーチのように嫌われ役を演じられるコーチが必要なのだ。

そして今ライオンズは渡辺久信GM兼監督体制となったわけだが、これは渡辺久信監督代行が尊敬する根本陸夫監督と同じ道だ。根本監督もライオンズやホークス時代はGMとしての権限を持ちながら監督を務めていた。そして根本監督が下地を作った後、ライオンズもホークスも常勝時代を迎えて行く。

こうなってしまった今この時こそが、渡辺久信という野球人が根本陸夫になれるかどうかの分かれ道となるのかもしれない。だが渡辺監督代行なら必ず後半戦はライオンズファンを魅了する野球を見せてくれるはずだ。今はまだ選手たちは、松井監督とはまったく違う渡辺監督代行のやり方に戸惑っている段階だと思う。渡辺野球に慣れようとしている最中だと思う。だが選手たちが、しっかりと発信を続ける渡辺野球を理解し始めたら、ライオンズはきっと今季中に勝ち始めるはずだ。少なくとも筆者はそうなることをまったく疑っていない。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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