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2024年8月 6日公開

配球のセオリーがまだ分かっておらずミスリードを繰り返す古賀悠斗捕手

オリックスバファローズ vs 埼玉西武ライオンズ/16回戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Lions 0 0 0 0 0 2 0 0 0 2 7 0
Buffaloes 0 2 0 0 0 2 2 0 × 6 13 0

継投●渡邉勇太朗ジェフリー・ヤン上田大河
敗戦投手渡邉勇太朗 1勝3敗0S 2.92

最初のツーランホームランを打たれた場面の古賀捕手の配球について

毎週マウンドに登っていれば、当然良い日もあれば悪い日もある。今日の渡邉勇太朗投手はどちらかと言えば悪い日ということになるのだろう。ボールそのものにもばらつきがあったし、何よりも配球に疑問符がつくことが多かった。

配球に関してはまずは1本目のツーランホームランを打たれた場面から振り返ってみたい。2回裏、無死一塁という場面で西川龍馬選手を迎えたわけだが、その初球はアウトローいっぱいにカットボールを投げた。残念ながらこれは僅かに外れてボールとなってしまったわけだが、実際にはストライクとコールされてもおかしくないくらい際どいコースに行っていた。

紙一重でストライクになっていたとしても、この初球のカットボールは、バッターが手を出したとしてもヒットになる可能性はほとんどなかっただろう。よほどアウトローへのカットボールに的を絞っていない限りは。つまり初球の入りに関しては非常に良かったということだ。

だが問題は2球目だ。初球が紙一重でボールになっていただけに、2球目は何としてもストライクが欲しかったのだろう。しかし古賀悠斗捕手が要求したのは初球と同じカットボールで、しかもこのカットボールがほとんど真ん中付近に行ってしまったのだ。

初球のカットボールが非常に良かっただけに、同じカットボールが真ん中付近に入ってくれば当然打者としては打つことが簡単に感じられる。特に西川龍馬選手のように実績のある選手であれば、同じ球種が1球目よりも甘いところに入ってくれば、心の中で「ありがとう!」と叫びながらバットを振りに行くはずだ。

なぜ筆者がこの配球に疑問符を付けたかと言えば、とにかく初球のカットボールが非常に良いコースに決まっていたからなのだ。ピッチャーというのはどんなに制球力が良い選手であっても、2球続けて同じ球種で完璧なコースに投げることはできない。いや、もちろん不可能ではないのだが、精密機械と呼ばれた豊田清投手でさえも、本当に狙ったところに狙い通りに投げられたのは10球中2〜3球だったと言う。

まだ経験値が低い渡邉勇太朗投手の場合、カットボールを2球連続で良いコースに決められる可能性は確率としては非常に低くなるのだ。だがここが経験値が同じように低い古賀捕手の弱みなのだろう。初球に素晴らしいカットボールが来たため、その素晴らしいボールを2球続けて要求してしまったのだ。これはプロの配球ではなく、高校野球レベルの配球だと言える。

高校野球の場合は、甲子園レベルであってもピッチャーが超高校級のボールを持っていた場合、そのボールを連投させておけば抑えられる可能性は非常に高い。あとは逆にマリアーノ・リベラ投手のように、MLBにおいても超一球レベルのカットボールを持っている場合は、全球カットボールで勝負をしに行っても抑えることができる。だが残念ながら渡邉勇太朗投手のカットボールはリベラ投手のレベルには至らない。

つまり古賀悠斗はこの場面、初球があまりにも素晴らしいコースにカットボールが決まったため、その初球のカットボールを活かすべきだったのだ。例えば同じようにアウトローに、カットボールよりも遅く曲がり方も大きいスライダーやカーブを投げさせれば、泳がせてファールでカウントを稼げたり、引っ掛けて内野ゴロゲッツーという結果も期待できた。

だがこの西川選手の場面では、初球が難易度10のボールだったとすれば、2球目は難易度3のボールとなってしまったために、西川選手に打った瞬間それと分かるホームランを献上することになってしまった。もちろん打たれた渡邉勇太朗投手の自責であるわけだが、しかしそれ以上にこの場面は配球に問題があったと思いながら筆者は見ていた。そして古賀捕手は、カットボールで詰まらせてゲッツーという結果を急ぐべきではなかった。

2本目のツーランホームランを打たれた場面の古賀捕手の配球について

続いて2本目に打たれたツーランホームランの場面だが、ここでは初球がアウトローにストレートが決まり1ストライクから対戦が始まった。普通に考えればこの場面も、初球に決まった良いボールを2球続けるべきではないのだ。例えば初球は速いボールが決まったのだから、2球目は緩急を付けるなり、同じコースにカットボールなどのムーヴィングファストボールを投げて、ストレートだと思わせてバットを振らせ、芯を外しに行くのが常套手段となる。

だがここでも古賀捕手が選んだボールは2球連続同じ球種で、真ん中やや高めのやや内寄りという、やはり初球よりも遥かに難易度が落ちるコースへの同じストレートだった。しかも初球のストレートよりも2球目のストレートの方がやや球速が落ちているように見えた。

つまりこの若きバッテリーは、2回裏に犯したミスを6回裏にもまた繰り返してしまったということになる。このように同じミスを繰り返したことにより、今日の試合後は渡辺久信監督代行も渡邉勇太朗投手に関しては渋い顔を見せていた。

もちろん配球の中では同じ球種を何球も続けることはある。例えばかつてイーグルスのユニフォームを着て岸孝之投手をリードしていた炭谷銀仁朗捕手は、ライオンズ時代の山川穂高選手に対し全球ドロップ(縦に大きく割れるカーブ)を投げさせ、見事山川選手のフォームを崩すことに成功し、その後山川選手は調子を落としていった。

確かにこのような配球もあるわけだが、これをやる際に守らなくてはならいのは、絶対に前の1球よりも難易度を下げないということだ。例えば初球、真ん中のラインにドロップを投げさせたら、2球目はインサイド、3球目はワンバウンドするような低さ、4球目は外いっぱい、というように、コースを変えながら絶対に難易度を落とさないことがこの配球の成否の分かれ道となる。

そして岸孝之投手には、炭谷捕手のリードに応えるだけのボールをコントロールする技術があった。しかし渡邉勇太朗投手にはそれだけの技術はまだない。渡邉勇太朗投手はまだまだ発展途上のピッチャーであるため、さすがにこの時のベテラン岸投手のようなテクニックを見せることはまだできない。

正直なところ、古賀捕手が何を意図して配球を考え、そして1試合に二度も同じ球種を続けた2球目にツーランホームランを浴びるという結果になってしまったのか、筆者には分からない。実際の対戦を見ていても、西川選手がカットボールをまったく待っていないような素振りも、中川選手がまったくストレートを待っていないような素振りも見せていないのだ。

例えば炭谷捕手も、上述の山川選手に対する場面だけではなく、同じ球種を2球続けさせる場面は少なくない。しかしその場面を観察していると、1球目のボールは甘いか、完全なボール球かということがほとんどだ。つまり2球続けて同じボールを投げさせても、2球目の方が難易度が高くなる確率が非常に高いということだ。

古賀捕手ももしかしたらこのような炭谷捕手の配球を見ながら、同じ球種を2球続けさせたのかもしれない。だがそれをするならば初球がどこに決まったのかをしっかり考えなければならない。このあたりをもう少し考えて瞬時に判断できるようになれば、古賀捕手ももう少し良い捕手になれると思うのだが、配球に関してはまだまだ疑問符が付く場面が多いのが現状だ。

果たして古賀悠斗捕手は1球1球をどれほど大切にできているのだろうか

古賀悠斗捕手

ちなみに7回に打たれたソロホームランに関しては、これは初球のストレートが高めに抜けたところを狙われただけなので、これは配球云々ではなく、単純に渡邉勇太朗投手の失投と言うべきだろう。

そして6〜7回あたりには、渡邉勇太朗投手のボールは明らかに力がなくなっていた。この日のストレートの最速は148km/hだったと思うのだが、7回にホームランを打たれたストレートは143km/hだった。さすがにそれまでに3回も打席に立ち、他の打者が打席に立った際に幾度も147〜148km/hのボールを見ている一番打者大里選手に対し、それよりも5km/hも遅いストレートを甘いコースに投げては打たれるのが当然だ。

3打席目までの大里選手に対してはカットボール攻めが多かったわけだが、そのカットボールを3打席目までに見せすぎてしまったために、4打席目はストレートから入ったのだろう。

ちなみに大里選手の3打席目に関しては、渡邉勇太朗投手は初球は真ん中やや外よりやや高めのコースにカットボールを投げ、2球目は内角高めいっぱいの厳しいところに同じ球速のカットボールを投げた。このように、初球が甘いボールになって、2球目は高い確率で難易度を上げられる場合に関しては2球続けて同じ球種を選ぶ価値はある。

そしてもちろん炭谷捕手であってもミスリードしてしまうことはあるわけだが、その確率は低い。だが古賀捕手の場合は昨季からずっとその確率が高い状態が続いているのだ。この確率を下げていかなければ、古賀捕手はいつまで経ってもチームを勝たせることができる捕手になることはできないだろう。

筆者は森友哉捕手の配球にさえ満足はしていなかったのだが、古賀捕手の配球に関してはその森捕手を遥かに下回っているというのが現状ではないだろうか。だがもちろん古賀捕手も、渡邉勇太朗投手同様に発展途上にある選手であり、まだまだこれから伸びていく選手だ。

だが、かつての名捕手たちのように配球をすべて覚えていくくらいになっていかなければ、古賀捕手はなかなか一軍レベルの捕手にはなれないだろう。例えば谷繁元信捕手がまだ駆け出しだった頃、当時の大矢バッテリーコーチにその試合の配球をすべて言わされていたそうだ。大矢コーチは1試合すべての配球を丸暗記しながら、試合全体の配球を考えていくことを若き谷繁捕手に教え込んでいった。

そして打者であれば、イチロー選手も各打席の配球をすべて暗記していた。このように名プレイヤーになれる選手というのは、しっかりと記憶に残るほど1球1球を丁寧に扱っているのだ。果たして古賀捕手はここまで丁寧に1球1球を扱えているのだろうか。

野球というのはがあり、考えながらプレーするスポーツだ。そして考えるためには記憶力が養われていなければならない。記憶がない状態で考えても、それは場当たり的な配球にしかならないからだ。

古賀捕手は、いつかはきっと炭谷捕手レベルのキャッチャーになれると思う。しかしそのためにはまだまだやらなければならないことが数え切れないほどある。だがそれらを一つ一つクリアしていくことができれば、今季よりも来季、来季よりも再来年というように、古賀捕手はどんどん成長していくことができるだろう。そしてそのためにも筆者は、古賀捕手には12球団のどの捕手よりも記憶力と思考力を使っていくことを求めたいのである。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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