2024年5月26日公開
交流戦前最後のリーグ戦を終え、松井稼頭央監督の休養が発表された。ここまでの成績は15勝30敗で、5位イーグルスとは3.5ゲーム差、首位ホークスとは15.5ゲーム差となっており、12球団で唯一の勝率3割台となってしまっている。
この成績では確かに休養というのは致し方ないと言うこともできるわけだが、筆者個人としてはせめて今シーズンは指揮を全うして欲しいという気持ちが強かった。
そして松井監督で勝てなかった理由は、やはりその優しい性格の影響が大きかったと言える。例えば選手がミスをしても、連敗が続いても、松井監督は決して選手やコーチを責めることをしなかった。本来スポーツでは叱咤激励することが効果を発揮することが多い。
例えば送りバントを失敗した選手に対しては、試合後インタビューで「あの場面は1球で決めなきゃいけなかった。それができなかったのだから、彼はバントの特訓が必要ですね」、くらいのことを言っていかなければ、選手は緊張感を持って練習に励むことができなくなる。
だが松井監督は決して怒らず、選手を責めることもせず、「起用したこちらの責任です」と言うばかりだった。そのため選手としても「失敗しても監督に怒られないし、また起用してもらえる」という頭になってしまい、このような甘えがある中でプレーすることで結果を出せないことが続いていってしまう。
だからこそ松井監督の敗因はその優しさだったと言えるのだ。例えば元祖二刀流とも呼ばれ、大洋やヤクルトで指揮を執った故関根潤三監督は、一見するといつも優しい微笑みを携えながら采配を執っているようにも見えた。だが実は激情家で、選手がやるべきことをやらないと般若の如く起こることがあった。そして瞬間湯沸かし器とも揶揄された故藤田元司監督も同じだったと言える。
関根監督や藤田監督ほどでなかったとしても、やはり松井監督も怒るべき時は怒るべきだったと思う。それによってチーム全体にももっと緊張感が生まれていたはずだ。
松井監督が休養したのちは、交流戦からは渡辺久信GMが代行監督として指揮を執ることになった。筆者個人としては三原脩監督と渡辺久信監督は最もリスペクトしている野球人であるため、渡辺監督の再登板は嬉しいと言えば嬉しい。だがチームがこのような状況であるため、事情が違っていればもっと素直に喜べていただろう。
松井監督は選手に対して厳しさを見せることができなかった。選手時代は誰よりも自分に厳しくトレーニングを積んでいたため超一流になることができたが、実は選手時代から決して他者を責めるようなことは口にしない人柄だった。ネガティブなことを言うことさえなく、野球界において言えばまるで聖職者のような人格者だった。
一方渡辺久信代行監督は、前回指揮を執っていた時から厳しさを見せる監督だった。「寛容力」という言葉だけが一人歩きしたこともあったが、寛容なだけではなく、選手に対し言うべきことはしっかりと言う監督だった。
そして交流戦から監督が変わるわけだが、コーチ陣が変わることはない。つまりコーチ陣は全員渡辺久信代行監督よりも若い世代であり、渡辺監督も前政権時よりもコーチに対しガンガン言いやすい環境となっている。
ちなみに渡辺GMが代行監督になったのは球団フロントの総意であり、決して「代打俺」を宣言したわけではなかった。球団全体に代行監督は渡辺GMにしか任せられない、という考えがあったようだ。
なお前政権時は6年間指揮を執り、5度Aクラスを達成し、2008年には日本一も達成している。Bクラスに転じたのは2009年に4位になった時だけだった。
今のライオンズに必要なのは圧倒的な統率力だ。その点渡辺GMは高い統率力を持った監督で、しっかりと言葉を使ってチームを引っ張っていくことができる。代行監督を務めるにあたってもすでに、選手やコーチに対し「俺について来てくれ」と力強く宣言している。
松井監督はキャンプ時や試合前練習の際など、熱心に選手たちに打撃指導をする姿もよく見せていた。そしてその指導により金子侑司選手は今季復活を果たしたわけだが、松井監督はもしかしたら監督タイプではなく、将来的には好々爺的な打撃指導職人になるタイプだったのかもしれない。
さて、寛容力に話を戻すと、この寛容力を勘違いしているライオンズファンも多いように見受けられる。選手を自由にさせていただけ、という印象を持っているライオンズファンも多いようなのだが、実際にはそうではなく、選手に対し「お前がやりたいようにまずはやれ。だが出来なかった時は覚悟しておけ」というのが実際に渡辺監督が見せていた寛容力だった。
例えばその典型が涌井秀章投手だろう。プロの世界ではまさに渡辺久信監督の教え子とも呼べる涌井投手だったが、一時先発として力を発揮できない時期が続いていた。それでも涌井投手に対し絶対的な信頼感を持っていた渡辺監督は、とにかくしばらくは涌井投手自身が最善だと思えることをやらせていた。
だが涌井投手のやり方でなかなか復調できない時期が続いてくると、渡辺監督は涌井投手を守護神起用することで、しっかり腕を振って投げる感覚を思い出させようとした。
一部メディアではこの守護神起用を嫌って涌井投手がFA移籍したとも報じられていたが、しかし渡辺監督による涌井投手の守護神起用は一時的なものだった。最終的には渡辺監督も涌井投手を先発に戻す考えを持っていたのだ。渡辺監督としては、「今は守護神を任されているんだから、守護神としてシーズンを全うする覚悟を持ちなさい」というようなことを涌井投手に対し伝えていたとも言われている。
このように渡辺監督は、「やれるならやれ。できないなら俺の采配に従え。だが俺の采配で上手くいかなかった時は俺が責任を取る」というタイプの監督で、これこそが渡辺久信監督の寛容力だった。
しかし今は寛容力を前面に出している場合ではない。明るい雰囲気の中にも厳しさを秘めたチーム作りをしていく必要がある。ここまでは1勝2敗ペースでの戦いが続いていたわけだが、ここから2勝1敗ペースで勝って行けば、まだまだホークスに近づいていくチャンスはあるし、そもそも実際の勝負は9月となってくるため、巻き返すにはまだ十分な試合数が残されている。
ちなみに選手の監督に対する目もガラッと変わってくるだろう。松井監督は177cmで非常にスタイリッシュな体型だった。一方の渡辺代行監督は185cmの95kgという非常に大きな体格で、ベンチ内での存在感はまるで変わってくるはずだ。 そういう意味でも選手に睨みを効かせることもしやすくなり、ライオンズナインも今まで以上に緊張感を持ってプレーするようになるのではないだろうか。
松井稼頭央監督の休養は本当に残念でならない。だが振り返っていても仕方がない。ここからは渡辺久信代行監督の指揮により、まずは1つずつ負け越しを減らしていくことが最優先だ。そしてエースだった髙橋光成投手に対し「エースとしての成績がまったく物足りない」と言い切れる渡辺久信代行監督の厳しさがあれば、必ずやライオンズも再び牙を剥くことができるはずだ。