2024年5月11日公開
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | |
Eagles | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 7 | 1 |
Lions | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | × | 2 | 10 | 0 |
継投/ ○武内夏暉〜 H松本航〜 Sアルバート・アブレイユ
勝利投手/武内夏暉 3勝0敗0S 1.50
セーブ/アルバート・アブレイユ 1勝2敗8S 1.69
昨日の記事で、こんな時だからこそファームで活躍している村田怜音選手を試してみるべきだと書いたわけだが、今日はその村田選手が早速プロ初一軍に呼ばれ、プロ初打席で初ヒットを放ち、そして試合後にはプロ初となるヒーローインタビューまで経験した。まさに初物尽くしとなった村田選手の一軍デビューとなった。
昨日のファームでの試合後、村田選手は西口文也二軍監督から電話を受けて一軍昇格が伝えられたようだ。村田選手自身としては3エラーをしでかした直後の昇格だったこともあり、かなり驚いたという。そして初昇格を伝えられた後はずっと緊張していたというが、初打席では初々しいくらいのフルスィングで見事にプロ初ヒットを放って見せた。
フランチー・コルデロ選手同様守備に難がある村田選手ではあるが、思い切りのあるスウィングは見ていて清々しさを感じる。チームがこのように苦しい時だからこそ、まだ空気を読む余裕のないルーキーの直向きさがチーム状況を変えてくれると信じたい。
村田選手のスウィングを見ているとまだまだ荒削りというのはもちろんなわけだが、その荒削りの中に野性味を感じさせてくれる。あまり考えすぎて打席に立つというタイプではなく、来た球に素直に反応して打っていくタイプの打者なのではないだろうか。例えば極端に言うと長嶋茂雄選手や柳田悠岐選手のようなタイプだ。
打者にはしっかりと配球を読みながら好球を待つ栗山巧選手やヘスス・アギラー選手のようなタイプと、あまり考えすぎずに来た球に対し条件反射的にスウィングしていくタイプの打者がいる。まだ3打席しか見ていないわけで厳密なことを言うことはできないのだが、村田選手は恐らくは後者に当たるのではないだろうか。
だとすると村田選手は今のライオンズ打線を変えてくれる可能性を秘めている。なぜなら今のライオンズの打者たちは色々なことを考えすぎて、来たボールに対して素直に反応し切れていないことがほとんどだからだ。打席の中でも各打者に迷いのようなものを感じ、大敗した昨日の試合を振り返ってみても、多くの打者が高めのボール球で簡単に空振りを奪われていた。
ボール球に手を出してしまう典型的なパターンとしては、「次はこのボールが来る可能性が高いからそれを狙っていこう」と考えているケースだ。そう考えると体はバットを振る前提で始動し始めるため、「狙ったボールと違う」と気づいた後にスウィングを止めることが非常に難しくなる。
ライオンズのデータルームは近年かなり強化されているため、相手投手の配球パターンはスコアラーからかなり詳細に情報が入って来ているはずだ。恐らく打者たちはそのデータによって頭でっかちになってしまい、予測と異なる配球をされることによって体がボールに対して素直に反応し切れなくなっているのではないだろうか。少なくとも昨季以降のライオンズ打線を見ていると筆者はそう感じてしまうのだ。
だが村田選手の場合は今日一軍に上がって来たばかりで、相手投手のデータなどまったく頭には入っていない。だからこそ打てそうな球に対し体が素直に反応していけているように見える。ただしもちろんすべての打席でそれが上手くいくわけではない。しかし今日の試合では3回に1回はその反応が上手くいきヒットになったのだから、村田選手には今後もデータによって頭でっかちになるのではなく、本能でバットを振っていくことを続けていってもらいたい。
さて、今日の先発投手はルーキーの武内夏暉投手だったこともあり、スタメンマスクはこれまで通り炭谷銀仁朗捕手が務めた。やはり扇の要に炭谷捕手がいてくれるだけでライオンズの戦いには安定感が生まれてくる。
武内投手は確かに素晴らしい投手で、ここまでは新人王レースは独走状態だと言えるだろう。しかしバッテリーを組む相手が炭谷捕手でなければ、武内投手がデビュー戦からここまで素晴らしいピッチングを続けることはできなかったはずだ。
今日の試合を見ていても、炭谷捕手は上手く対角線や緩急を使って打者の目線や足元を動かす配球を見せてくれた。このような配球はまだ古賀悠斗捕手にできるレベルのものではない。確かに打力や肩においては古賀捕手の方が上だろう。しかし捕手としての総合力では炭谷捕手の方が圧倒的に上だと言える。
ライオンズは昨季も今季も古賀捕手を主戦捕手に据えて戦ってきているわけだが、その結果ずっと負け続けている。チームとしてはもちろん将来の正捕手を育成していかなければならないわけだが、しかしここまでほとんどの試合で先制点を相手に許し負けている状況では、若手捕手の育成など二の次にすべきだ。チームの安定感と卓越した配球力、そして暴投をいとも簡単にキャッチしてくれる捕球力の高さを考えると、主戦捕手は炭谷捕手に切り替えるべきではないだろうか。
これは以前のコラムでも少し書いたことなのだが、伊東勤捕手が37歳の時と、今季37歳になる炭谷捕手の肩を比べると、今の炭谷捕手の方が圧倒的に盗塁を刺す能力は高い。伊東捕手は36歳だった1998年の時点でもうほとんど盗塁を刺せなくなっていた。98年の日本シリーズで伊東捕手が走られまくってそれにより主戦捕手が中嶋聡捕手に代わったことを覚えているライオンズファンも多いと思う。
一方炭谷捕手の盗塁阻止率は2022年が.339、昨季が.220とまだまだ盗塁を刺す能力を兼ねそろえている。ちなみに今季の古賀捕手の阻止率が.294であるため、昨季の炭谷捕手と比べてもビックリするほどの差はない。そして打率の方も炭谷捕手は今季はここまで.269と、FA移籍前のライオンズ時代以上のハイアヴェレージを記録している。さらに付け加えると炭谷捕手のバント技術は非常に高いため、八番からチャンスを上位打線に繋げることにも長けている。
松井稼頭央監督もGW明けからようやく選手を少しずつ動かし始めたわけだが、次は正捕手を入れ替える時期にすでに差し掛かっていると思う。古賀捕手はまだまだ一軍レベルでは経験が浅く、まだ駆け出しだった頃の細川亨捕手、野田浩輔捕手と比べても捕手としての安定感はまだまだかなり足りていない。
確かに捕手は起用することでしか育成することのできない難しいポジションであるわけだが、しかし屈辱的な負け数となっている今は育成よりも、老体に鞭を打ってもらってでも炭谷捕手に頑張ってもらった方が、チームの安定感は間違いなく向上していくはずだ。
さて、今のライオンズ打線を見ていると気になることがキリなく出てくる。上述したボール球を振っていることもそうだし、今日の外野まで飛んだヒット9本中(10安打中1本は投手への内野安打)、反対方向に打っているのは金子侑司選手のレフト前ヒット1本だけなのだ。残りの8本はすべて引っ張って打っているヒットとなっている。
野球にはインサイドアウトという言葉があり、打者は、投手が投げたボールの自分側の面をバットで叩きにいくことによって打球がヒットになる確率を高めることができる。逆に自分とは反対側の面を叩くアウトサイドインのスウィングになってしまうと、調子が良い時はもちろん打てるわけだが、僅かでもその好調さに翳りが見えてくるとパタリと打てなくなってしまうのだ。今季の外崎修汰選手はまさにその典型だと言える。
例えば若林楽人選手なども今季は引っ張ることがほとんどであるわけだが、筆者の記憶が正しければ若林選手は昨季、チームでは数少ない(唯一の?)反対方向へのホームランを打っているはずだ。逆方向にもそれだけのバッティングができるのだから、若林選手がもっとインサイドアウトを徹底していくことができれば、末恐ろしいスラッガーにだってなれるはずだ。
しかし現状では若林選手だけではなく、佐藤龍世選手や外崎選手もほとんどの打席でアウトサイドインになっている。今ライオンズでインサイドアウトを徹底できているのは岸潤一郎選手くらいだろう。岸選手に関しては常にセンターから右方向を意識したインサイドアウトのスウィングになっているため、これからさらに経験を積んでいけば将来的には3割を打てるようになれるはずだ。
ライオンズで3割バッターと言えば森友哉捕手以来であるわけだが、その森捕手もインサイドアウトを徹底した打者ではないため、良い年と悪い年が交互に訪れていた。となると安定的に打率3割を打っていたのは秋山翔吾選手が最後ということになる。つまりもう5年間もそのような安定感がある打者がライオンズにはいないということだ。
だが岸選手が今後もインサイドアウトを徹底していくことができれば、将来的には秋山翔吾選手のような守備力抜群の好打者となることができるだろう。ちなみに秋山選手がブレークしたのは27歳のシーズンで、岸選手は今季まさに27歳を迎える。そう考えると岸選手は、首脳陣ももう少し英才教育を施しても良いのではないかと思える。
そして若林選手だが、アマチュア時代は元々は三塁や二遊間を守っていた選手で、本格的に外野手となったのは大学時代からではなかっただろうか。そう考えると若林選手は、かつて外崎選手が外野から二塁に回った時のように、将来的には外崎選手の後継者として育成し直すという選択肢もなしではないと思う。
いずれにしても岸選手は今後最も成長が期待できる選手の一人だと言える。蛭間拓哉選手が一軍に上がって来て今日のように2安打放つ姿を見れば、負けていられるかという気持ちもまた強くなっていくはずだ。そして守備力も非常に高く、肩の強さと正確性はイチロー選手にも引けを取らないほどだ。
外野手の肩の強さを証明する数字は、捕殺の少なさだ。捕殺とは、例えば外野からバックホームをしてそこで走者をタッチアウトにすることなのだが、この数が少ないほどその選手は強肩だと言える。その理由は相手チームがその選手の肩が強いと判断している場合、走者を無理して走らせないためだ。岸選手はそういうタイプの外野手だと言える。
逆に肩が強くても正確性が低かったり、緩慢なプレーを見せることがある場合は、かつてのクロマティ選手のように相手チームに伝説として語り継がれる好走塁を決められることもあり、相手チームは捕殺を恐れずにどんどん走者を進塁させようとしてくる。だが岸選手の場合、相手選手が走ることを躊躇する肩の強さと正確性があるため、この守備力に関してはかつての秋山翔吾選手以上だと言えるだろう。
残念ながら今日の試合では代走と守備での出場だけにとどまった岸選手ではあるが、ベテラン金子選手が好調で、蛭間選手もマルチヒットを記録している状況に触発され、二学年下の若林選手からポジションを奪うくらいの強い気持ちをファンに届くようにアピールし続けてもらいたい。そうすれば岸選手は間違いなく素晴らしい選手になっていけるはずだ。