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2023年12月29日公開

今井達也投手が目指すべきはただの二桁勝利ではなく、突き抜けた絶対的エースの座

石井一久投手と比較するとよく分かる今井達也投手のポテンシャルの高さ

今井達也投手

今オフ、3年連続沢村賞を受賞したオリックスバファローズの山本由伸投手がドジャースに移籍することになった。これによりまたパ・リーグはやや寂しくなってしまうわけだが、しかし心配はいらない。なぜならライオンズに今井達也投手という素晴らしいスーパーエース候補がいるからだ。

筆者はこれまでは、ライオンズで山本由伸投手と互角以上に投げ合えるのは今井投手だと常々書いてきた。その理由としてはやはりストレートの強さと、マウンド上で相手に向かって行く闘争心の強さを挙げることができる。

もちろん現時点では今井投手の成績は山本投手の成績の足元にも及ばない。だが今井投手の手のつけようがないストレートを時々でも見せられると、今井投手以上にNPBでポスト山本由伸を務められる投手はいないように思えてくる。

今井投手はまだまだ完成形とは言えない。まず絶対的エースに絶対不可欠な安定感に欠けるし、怪我が少ない方でもない。しかしここ1〜2年は自らの荒れ球を上手く活用できるようになり、その姿はまるでメジャー移籍前の石井一久投手を見ているようだ。

かつてライオンズでも大活躍した石井一久投手も、今井投手同様球威球速は素晴らしかったのだが、如何せん制球力に難があった。だが故野村克也監督曰く「制球力はなんとでもなるが、球速だけは生まれ持ったもの」とされ、野村監督の指導により石井投手は制球難を抱えたままでも球界を代表する投手へと成長していった。

そして今井投手と石井投手の共通点としては、リーグ最多の与四球を複数回記録していることだ。つまりそれだけ制球に難があり四球が多いということになり、その分WHIP(1イニングあたりに出す走者の平均人数)があまり良い数値にならない。日米で大活躍した石井一久投手でさえも、一度だけ1.05という素晴らしいWHIPを叩き出したが、その他のシーズンは軒並み1.2〜1.5程度の平均以下の数値になっている。

一方今井投手は、石井投手のようにリーグ最多の四球を出しながらも打たれているヒットの本数が非常に少ない。例えば2023年に関しては四球は133回を投げてリーグ最多の61個、WHIPは1.11で、被打率は.187だった。これが石井一久投手の場合、196回を投げてリーグ最多の105四球を出した1998年のWHIPは1.29で、被打率は.206だった。

この数値を見ても分かるように、日米通算182勝を挙げている石井一久投手以上にポテンシャルの高い数値を残しているのがこれまでの今井達也投手なのだ。

2024年は今井達也投手が開幕投手を務めなければ始まらない

もちろん今井投手の制球力で山本由伸投手レベルの数字を残すことは難しいだろう。なにせ山本投手のWHIPは5年連続で0点台であり、やや次元が違うところにあるためだ。だがパ・リーグ、そしてプロ野球を盛り上げるという意味では今井達也投手は、十分にポスト山本由伸としてファンを魅了する魅力を持っている。

ちなみに今季今井投手はリーグ最多の8死球を出しているわけだが、おそらく今井投手が死球を出してもそれほど怒る打者はいないだろう。なぜなら相手打者の全員が「今井はどこに投げてくるか分からない」と考えているからだ。そのため相手打者は気安く踏み込んでいくことができず、それができない分差し込まれやすくもなる。

これが例えば制球力抜群の投手が連続死球を与えた場合は「狙って当てた」と思われることもあるのだが、今井投手の場合は「今井だから仕方ない」と思ってもらえるのだ。今季に関してはこの打者心理が上手く今井投手に対し働き、被打率を抑えることに成功した。

今ファンが見たいのは制球を気にするあまり縮こまってしまう今井達也投手の姿ではなく、どこに行くかは分からないが唸りを上げるような剛腕ストレートだ。だからこそ今井投手には小さなことなど気にすることなく、ベストショットをキャッチャーミット目掛けて投げ続けてもらいたい。

そしてキャッチャーミットを破壊するようなストレートを投げ続けていれば、今井投手は二桁勝利で喜んでいられるレベルには収まらないはずだ。それこそ16勝、17勝と勝ち星を積み上げていき、来季にでも最多勝に輝くことができるだろう。

ライオンズでは髙橋光成投手平良海馬投手がすでに近い将来でのメジャー移籍希望を表明している。このライオンズの現状において、今井投手は彼らに勝ち星を先行させてはいけない。

髙橋投手と平良投手は近くライオンズを去ってしまうのだ。それならば今井達也投手が来季は開幕投手を務め、そのシーズン1勝目から最多勝に向けて突き進んでいくべきだろう。そうすることによって髙橋投手と平良投手が抜ける将来的なダメージを軽減することができる。

つまり今井投手が絶対的エースとして君臨していれば、髙橋投手や平良投手が抜ける際でも「エース流出」ということにはならずに済むということだ。

※ ちなみに筆者は今井投手の入団会見以来、今井投手がメジャー志向に関する言葉を発したのを耳にしたことがないが、現在の今井投手の心境はいかなるものなのだろうか。

48番を新たなエースナンバーとして育てようとしている今井達也投手

一転人柄に関しては、ライオンズファンなら誰しも知っているように今井達也投手は人情派だ。尚且つ「ライオンズはエースが抜けていくチーム」と言えるほど現状を達観している姿も見せる。ただしこのコメントに関してはチーム批判とも受け取れるため褒められたコメントではないのだが。

とにかく今井投手はどこか冷めた物の見方をしながらも、慕っていた武隈祥太投手が2022年を限りに引退をすると、背番号11番を返上してまで武隈投手が背負っていた48番の継承を球団に直訴した。今井達也投手は、それほど男気のある投手なのだ。

そんな今井投手が今後エースの座に就き、「俺に付いて来い」と言わんばかりの迫力満点のピッチングを続けていけば、ライオンズの投手陣はただ安定しているだけではなく、安定感を保ちながらも突き抜けた成績を残せるようになるだろう。それこそまさにかつてライオンズでエースと呼ばれた東尾修投手、渡辺久信投手、工藤公康投手、西口文也投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手らのように。

突き抜けたその活躍により渡辺久信投手は41、工藤公康投手は47、西口文也投手は13という数字をライオンズの新たなエースナンバーとして育て上げた。そして今、今井達也投手が48という数字をライオンズのエースナンバーへと育てようとしている。

一般的に48という背番号は何の変哲もない、どちらかと言えばドラフト下位指名選手が背負うような番号だが、今井達也投手が来季以降絶対的エースとして君臨していけば、いつかは48番を背負いたいと思う後進が出てくることにもなるだろう。そう、まるで今井達也投手が武隈祥太投手から48番を受け継いだあの日のように。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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