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2024年9月 7日公開

移籍後初の凱旋登板で160km/hを連発する勝ち方を知る男、甲斐野央投手

来季は開幕投手さえ目指せるレベルになって来た渡邉勇太朗投手

今日の試合は本当によく投手陣が踏ん張ったと思う。中でも渡邉勇太朗投手は5回を投げて被安打4、無失点という素晴らしい内容でホークス打線を沈黙させた。しかし6回のマウンドに登り投球練習をしていた際、前回の登板で打球が当たっていた右足首が急に痛くなってしまったようで、無念の降板となってしまった。

しかし降板するまでのボールの質は本当に素晴らしかった。ボールの回転数も多いように見え、今日の渡邉投手のボールには球速表示以上の速さが感じられた。そして入れるところは入れる、抜くところは抜くというメリハリも付けられており、緩急や高低も上手く使ったことにより、それもまたボールをより速く感じさせているようだった。

一度や二度の好投だけではまぐれと言われたり、調子の良さだけで投げていることも考えられる。しかし今季の渡邉投手は一軍に上がって来て以来ずっと安定したピッチングを続けている。防御率を見ても規定投球回数には至っていないものの、2.67という数字はホークスの有原投手の2.59と比べても遜色ない。

しかし有原投手の11勝に対し、渡邉投手が3勝止まりになっているのは打線の援護の兼ね合いや、登板試合数が影響している。もしもう少し打線の援護があり、さらにはここまで20試合以上に先発できていたならば、今季の渡邉投手であれば二桁勝利も目指せたはずだ。

前回の登板時にも詳しく書いたが、今季の渡邉投手は難易度が高い投球術を披露している。そして球質も制球も良く、筆者個人の印象としては全盛期の石井丈裕投手と被るのだ。石井投手は二桁勝利こそ三度のみで通算68勝ではあるが、1992年には15勝3敗3Sという成績で沢村賞に輝いている名投手だ。

渡邉勇太朗投手は制球力の良さ、球質の良さが石井丈裕投手と重なる。近い将来、渡邉投手がライオンズのエースとなる日はそう遠くはないだろう。そして勝ち星に関しては石井投手の68勝を大きく超え、100勝、150勝と目指していける資質を持った投手だと思う。もしかしたら来季は開幕投手さえ目指せるレベルにもはや至っているのではないだろうか。

甘い球を逃さずに振り抜けている佐藤龍世選手と平沼翔太選手

さて、今日の打のヒーローは何と言っても佐藤龍世選手だ。4回表に先制点となる、両チーム合わせて今日唯一の打点をソロホームランで挙げた。「甘い球が来たら思いっきり振っていこう」という佐藤選手の言葉通り、真ん中やや外寄りに入って来た甘めのストレートを振り抜くと、打球はライトのラッキーゾーンに飛び込んでいった。今季5本目のホームランは、反対方向への見事なホームランだった。

この佐藤龍世選手が怪我から復帰して以来本当に状態が良い。8月は17試合で打率.386、9月もここまで4試合で.333となっており、四番としての仕事を果たしてくれている。佐藤選手は恐らく怪我をしている間、かなり野球脳を鍛えていたのではないだろうか。怪我をする前の6月までのバッティングと比較をすると、その内容が明らかに変わって来ている。

怪我をするまでの佐藤選手は他の若手選手たちと同じようなミスを繰り返していた。つまり甘い球を見逃したりミスショットしたりし、追い込まれてから難しいボールを打たされてしまうというパターンだ。だが復帰してからの佐藤選手は甘いボールや、やや甘めに入って来たボールを見逃すことなくしっかりと振り抜き、早いカウントからでも積極的に打って来るようになった。

若手打者たちは恐らくは「ファーストストライク」という言葉を誤解しているのだと思う。文字通り最初にストライクゾーンに来た球と認識してしまっているのだ。そのため最初のストライクであれば外角低めいっぱいの難しい変化球にも手を出してしまっている。

しかし若手選手の今現在の技術では、難しいボールをヒットにできる確率は非常に低い。そのためファーストストライクというのは、「最初に来た甘い球」と認識すべきなのだ。甘い球が来ないのであれば追い込まれるまではじっくり粘って待つ、くらいの気持ちが必要になって来るのだが、ライオンズの25歳以下の若手打者たちは、今なお難しいボールを打ちに行って凡打を繰り返してしまっている。

だがその傾向があまり見られなくなったのが怪我から復帰して来た佐藤龍世選手と平沼翔太選手なのだ。平沼選手の場合は怪我をする前の5月に.306という好成績を挙げており、怪我から戻って来た8月は3試合で.583と打ちまくっている。9月に関してはまだ4試合で.235となっているわけだが、打席数が少ないため、1試合打つか打たないかで打率は大きく変動するため、次の試合でまたヒットを打てれば、この数字は大きく変わって来る。

今季はシーズンの大半を絶望的な打線で戦って来たわけだが、佐藤選手と平沼選手のバッティングを見ていると、来季に希望が持てて来る。そしてこの二人の共通点は他球団を知っているということだ。佐藤選手も平沼選手もファイターズから移籍して来た選手であり、他球団の打撃コーチの指導を経験している。

他の若手選手にはないこの経験値が、なかなかスラッガーを育てられないライオンズの打撃コーチ陣のもとでプレーしながらも良い働きができている一つの要因となっているのではないだろうか。そういう意味では松原聖弥選手野村大樹選手にも期待したいわけだが、残念ながらこの二人に関しては他の若手打者陣と同じパターンの凡打を繰り返していた。

投手陣は明らかに成長して来ており、髙橋光成投手不在でも戦えるような状態になっている。その投手陣に加え、来季は佐藤選手と平沼選手が軸となり打線を牽引することができれば、来季はもっと良いシーズンを送っていけるはずだ。このチームは立て直しに2年も3年もかかると言われているが、筆者はそんなことはないと考えている。四番を打てるホームランバッターさえ確保できれば、来季からでも十分Aクラス入りし、優勝を目指すことができるはずだ。

移籍後初の凱旋登板で160km/hを連発する甲斐野央投手

移籍後初の凱旋登板で160km/hを連発する甲斐野央投手

さて、今日は甲斐野央投手にとっては移籍後初の凱旋登板となった。ホークス戦の登板自体は今季二度目となるわけだが、昨年までのホームであるみずほPayPayドームで投げるのは移籍後初だ。

ちなみに前回4月12日のベルーナドームでのホークス戦では、1-0とリードした8回に登板しながらも2点を奪われ、今井達也投手の今季2勝目を消してしまうという悔しい結果となっていた。だが今日はやはり8回に登板し、ヒットと四球で走者を出してしまうものの無失点で切り抜けてくれた。

しかもスピードガン表示では160km/hが連発しており、本当に力の籠った気迫溢れるピッチングだった。だがやはり古巣戦ということでまだどうしても力みが出てしまうのだろう。その豪速球を制御し切れていないようにも見えた。だがようやく古巣相手に無失点投球ができたことで、次のホークス戦からはもっと安定感のある落ち着いたピッチングを見せてくれるはずだ。

やはり甲斐野投手としても、本音を言えばライオンズへの移籍は本意ではなかったはずだ。まさか実績もあり年齢的にもまだ若い自分がプロテクトリストから外れるとは思っていなかったはずだ。しかもホークスにいれば今季は優勝を味わえていたはずなのに、移籍先のライオンズではどん底の最下位を経験してしまっている。

肘痛にしても、最下位での戦いにしても、甲斐野投手としては本当に悔しいシーズンとなったはずだ。だが見方を変えれば、甲斐野投手が怪我することなくずっと一軍にいてくれていれば、勝てた試合はもっと増えていたはずなのだ。そういう意味でも来季は決して怪我することなく一年間一軍で投げ続けてもらい、今度はライオンズのユニフォームを着て日本一に貢献してもらいたい。

筆者は「2〜3年後に優勝を目指せるチームを作って欲しい」などとはまったく考えていない。ライオンズには来季にでも日本一になってもらいたいし、それは決して不可能なことではない。その根拠の一つとして、他球団の主力打者の年齢層が比較的高いのに対し(特にホークス)、ライオンズの主力選手の年齢層は低いという点を挙げることができる。佐藤選手にしても平沼選手にしてもまだまだ全盛期で、これからさらに上がっていける段階だ。

そして最近はずっと一番に入っている長谷川信哉選手にしても、今日もしっかりと1安打放ち、これで4試合連続ヒットとなり、一番に入ってからの8試合中、7試合でヒットを放っている。二軍で頑張って来たことが少しずつ一軍で実を結び始めていることを考えれば、来季が非常に楽しみなチーム状態になっていると言える。

常勝球団から移籍して来た甲斐野投手にしても、そんなライオンズの現状にある程度の手応えを感じているはずだ。このチームで優勝を目指すことだってできると感じているなずなのだ。あとはホームランを打てる外国人四番打者さえ固定することができれば、来季は本当に良い戦いができると筆者は確信している。

多くのライオンズファンは今のライオンズには絶望ばかりを感じてしまっているかもしれないが、筆者個人としては正直なところ、今のライオンズには希望しか感じていない。投手陣も良いし、ここに来て打者陣にも成長が見え始めている。だからこそ甲斐野投手にはホークスで学んだ王者のイズムをライオンズに叩き込み、すっかり負け癖が付いてしまったライオンズの若手選手たちに勝ち方を教えてあげて欲しいのだ。そのためにも甲斐野投手は一年間ずっと一軍にいなければならず、来季それが実現されれば、来季のライオンズは間違いなく見違えるような強いチームになっているはずだ。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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