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2024年8月29日公開

かつての内海哲也投手のような上級テクニックを見せ始めた渡邉勇太朗投手

千葉ロッテマリーンズ vs 埼玉西武ライオンズ/17回戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Lions 2 0 0 0 0 2 0 0 4 8 14 0
Marines 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 0

継投○渡邉勇太朗H佐藤隼輔平良海馬ボー・タカハシ上田大河
勝利投手渡邉勇太朗 2勝4敗0S 2.83
本塁打佐藤龍世(4)

マリーンズ戦の連敗をようやく16で止めることができた西武打線の爆発

もし今日の試合に敗れていた場合、1965年に東京オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)が南海ホークス相手に喫した同一カード開幕17連敗という歴代ワースト2位の記録に並ぶところだった。ちなみに16連敗というのは2003年の横浜ベイスターズに並ぶワースト3位のタイ記録だった。

そしてワースト1位は1955年に大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)が中日ドラゴンズ相手に喫した19連敗となっているようだ。ライオンズは辛うじて日本ワースト記録を更新することは避けられたわけだが、しかし対マリーンズ戦開幕16連敗というだけで十分な不名誉となる。

だがその不名誉な記録もようやく16連敗で止めることができた。今日は今までの連敗の鬱憤を晴らすかのように、0-8でマリーンズを下す圧勝だったわけだが、その一番の立役者は先発し5回2/3を被安打4の無失点で好投した渡邉勇太朗投手だろう。もちろん援護した打線も今日は素晴らしかったわけだが、今日に関しては渡邉勇太朗投手の好投が光った。

しかし心配なのは渡邉投手の怪我の具合だ。次回の登板に影響がないと良いのだが、今日は6回にソト選手の打球が右足に直撃し、それにより降板するというアクシデントに見舞われた。

渡邉投手は一度ベンチに下がり治療を受けた後またマウンドに戻ったのだが、しかし投球練習をしてみるとやはり痛みがあったようで苦悶の表情を見せた。そのため一度はマウンドに戻りながらも、結果的にはここで悔しい降板となってしまった。

だがこの場合、恐らく渡邉投手と首脳陣の判断は、最初に治療のためにマウンドを降りた時点でノーだったはずだ。しかしそれでも一度マウンドに戻ったのは、これは二番手投手の肩を仕上がるための時間稼ぎだったと思われる。これは野球では、今日のようなアクシデントが起きた際によく用いられる時間の使い方だ。

そして痛みを押しながらも一度はマウンドに戻り渡邉投手が時間を作ってくれたおかげで、二番手の佐藤隼輔投手も打者一人をしっかりと3球で打ち取り、渡邉投手のフォア・ザ・チームのスピリットに応じて見せた。

かつての内海哲也投手のような上級テクニックを見せ始めた渡邉勇太朗投手

かつての内海哲也投手のような上級テクニックを見せ始めた渡邉勇太朗投手

それにしても、渡邉勇太朗投手は非常にクレバーなピッチャーだ。体格の大きさから一見パワーピッチャーのようにも見られがちだが、実際にはそうではない。もちろん150km/h近いストレートを投げられるパワーもあるわけだが、しかし投げているボールを1つ1つ観察していくと、非常に頭を使って投げているのがよく分かる。

読者の方にもぜひ次の渡邉投手の登板時に観察していただきたいのだが、渡邉投手はカウントを稼ぎにいくストレートと、カウントを整えた後のストレートでだいたい5km/hほど球速に変化をつけているという点だ。例えば初球のストレートが143km/hだとしたら、カウントが整って打ち取りにいく際のストレートは148km/hまで球速を上げている。

つまり渡邉投手のストレートは1打席の中で球速がどんどん速くなっていくということで、これは打者としてはなかなか合わせにくい。打者としては初球の143km/hのストレートにはなんとなくタイミングが合ったとしても、その感覚で次のストレートを待ってしまうと完全に振り遅れてしまうのだ。今日もそれにより差し込まれている打者が多数いた。

ピンチになるとギアを上げるというピッチャーはいくらでもいる。例えば平良海馬投手もよくそのような姿を見せ、ピンチを作った自分自身を、自分自身でリリーフするようなピッチングを時折見せることがある。だが渡邉投手は1打席の勝負の中でギアを入れ替えている。これは間違いなく内海哲也コーチのアドバイスによるものだ。

この球速の変化の付け方は非常に効果的なのだが、しかしピッチャーからすると実は怖くてなかなかできないというのが現実だ。少なくともある程度制球力に自信を持っている投手じゃなければできない。なぜなら初球にやや力を抜いたストレートが打者のホットゾーンに入ってしまった場合、それは完全にホームランボールになってしまうためだ。

そのため1打席の中で徐々に球速を上げていくというテクニックは、相手打者のコールドゾーンにしっかりと投げ切れる制球力がなければ成立しない。そして今日の渡邉投手のボールを観察していると、やや力を抜いたストレートを同じ打者に対し同じコースに幾度も投げていた。つまりしっかりとボールを制御しながら球速を徐々に上げていたということだ。

一部の打者にはやや甘いところに続けて投げていたシーンもあったのだが、しかし恐らくはそのあたりにその打者のコールドゾーンがあったのだろう。ちなみにホットゾーンとコールドゾーンは紙一重であることが多く、ホットゾーンのすぐ近くにコールドゾーンがあることも多いため、そこで制球ミスをしてしまうと痛打される危険が高くなる。

髙橋光成投手平良海馬投手は球速表示ばかりに注目しているようなコメントをこれまでし続けているが、しかし渡邉投手はそうではなく、球速は球速でも、球速に変化をつけることによって勝負どころでのストレートをより速く見せるという上級テクニックを用いている。

ライオンズファンの多くがご存知の通り、渡邉投手は内海哲也コーチを現役時代から支持していた。その時の内海コーチの教えを、今ようやくこうして具現化させられる技術を今季の渡邉投手は身につけることができたのだろう。球速表示ではなく、球速の変化でこのように勝負するテクニックを磨いていけば、近い将来渡邉勇太朗投手は、きっと全盛期の内海哲也投手のような大エースへと成長していけるはずだ。

今季怪我に泣いた佐藤龍世選手と平沼翔太選手が牽引し出した新西武打線

今日のマリーンズの先発投手は2015年のサイ・ヤング賞投手であるカイケル投手だった。ライオンズ打線はその難敵を前にし、初回から四番佐藤龍世選手のツーランホームランで先制することに成功した。まだ立ち上がりの不安定な状態だったとは言え、サイ・ヤング賞投手を攻略したのだから、ライオンズ打線にはこれを大いに自信にして行ってもらいたい。

それにしても、クリーンナップが打つとやはり得点力はこうも上がってくるものなのだろうか。今日は四番佐藤龍世選手がホームランを含む3安打2打点、そして昇格したばかりの五番平沼翔太選手が4安打2打点と大暴れして見せた。この勝負強い二人がシーズンの大半で不在だったことが本当に悔やまれる。

佐藤選手と平沼選手はそれほど多くのホームランがない分、相手バッテリーからすると最大限の注意はそれほど必要はない。これがホームランを30本も40本も打つような打者である場合、最大限の注意を払いながら投げる必要があるため、抑えても打たれてもスタミナの消耗は激しくなる。だからこそクリーンナップには大砲が必要であるわけだが、例えばこの二人が一皮剥け、来季は三番五番をしっかりと担えるようになり、四番に長距離砲を入れることができれば、ライオンズ打線は僅か1シーズンのみで生まれ変わることも十分に可能だ。

佐藤龍世選手にしても平沼選手にしても、今季は本当に怪我に泣かされてしまった。もしこの二人の怪我さえなければ、ライオンズはここまで苦しい戦いを強いられたということはなかったはずだ。そのためまさにこの二人の怪我というのは、ライオンズにとっては泣きっ面に蜂と言ったところだった。

平沼選手の場合、もう少し下半身を鍛えて土台に安定感を持たせれば、3割30本を狙える素質を持っていると筆者は考えている。ただ、現在は身長179cmに対し体重が80kgとかなりの細身だ。だがここで上半身をメインに筋肉を増やしていくのではなく、ホークスの近藤健介選手のように下半身を鍛え抜いて体を大きくしてもらいたい。

そうすれば昨季までの合計が僅か4本塁打だった平沼選手は、数年後には20本30本を普通に打てる打者になっていけるはずだ。例えば近藤健介選手も30代に入ってから突然ホームランを打てるようになったわけだが、平沼選手にもファイターズの先輩である近藤選手と同じように、30本を狙いえる打者に成長して行ってもらいたい。

そして今季はふくらはぎとハムストリングスという二箇所の怪我がいずれも下半身だったことを考えると、やはり平沼選手はこのオフの下半身の強化は最重要課題だと言える。ただし髙橋光成投手のように一冬だけで5kgも6kgも増やしてしまうのではなく、2〜3年かけて徐々に10kg程度増やしていくことが大切だ。

また、佐藤龍世選手にももう少しホームランを打てる打者に進化して行ってもらいたい。今日はキャリアハイとなる4本目のホームランを放ったわけだが、佐藤選手もやはり20本以上は打たなければならない選手だ。例えばそれほどホームランを打たなかった繋ぎの四番とも呼ばれた鈴木健選手であっても、20本前後のホームランを幾度も記録し、通算では189本のホームランを放っている。

選球眼が良く四球が多いというのは鈴木健選手と佐藤龍世選手の共通点だ。あとはクリーンナップに入った佐藤龍世選手の後ろを打つ打者の安定感が出てくれば、佐藤選手に対するマークも過剰なものではなくなり、もっと安定してヒットを打てるようになるだろう。そしてもし四番佐藤龍世・五番平沼翔太という打線がしばらく続くのであれば、平沼選手がこうして勝負強いバッティングを見せてくれている限り、佐藤選手に対する厳しいボールは減っていき、佐藤選手の打率も残り試合でグングン上がっていくものと思われる。

もし今後1〜2年の間に佐藤龍世選手が鈴木健選手のような存在に、そして平沼選手が近藤健介選手のような確実性を身につけられれば、もう二度と今季のような屈辱的なシーズンを送る心配はなくなるだろう。そしてこの二人にはライオンズ愛を持ち、FAを獲得しても宣言残留をしてライオンズでプレーし続ける選手になっていって欲しい。それこそ栗山巧選手中村剛也選手のように。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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