ファンもメジャー移籍を期待した松坂大輔投手とアンチを増やしている平良海馬投手の違い

2024年4月11日公開

アンチを増やし続けている感がある平良海馬投手の危うさ

平良海馬投手

ライオンズはここまで11試合を戦い、何と投手陣はまだ1本もホームランを打たれていない。これは12球団唯一で、次に少ないのは中日ドラゴンズの2本となっている。さらにワイルドピッチが0なのもここまでライオンズのみとなっている。これはきっと豊田清投手コーチの投手陣に対する徹底した意識づけが好影響をもたらしているのだろう。

現役時代の豊田コーチは精密機械とも称されるほど抜群の制球力の持ち主だった。丁寧に丁寧に低めに投げ続け、全盛期にライオンズの守護神を務めていた頃は年間50試合前後に登板し、被本塁打は僅かに1〜2本だった。現在のライオンズの投手陣はまさに、現役時代の豊田投手のスピリットを受け継いでいるかのようだ。

さて、ここで名前を挙げたいのが平良海馬投手だ。平良投手は空振りを奪うためには「低めに投げる意味がない」と最近のインタビューでハッキリと言い切っている。確かに平良投手のコース別の空振り率ということになると高めの方が圧倒的に良い数字となっているのだろう。だが空振りが欲しいばかりに高めでの勝負を増やすことには危険が伴う。

高めというのは「釣り球」と表現されることもあり、高めに速いボールを投げると日本のプロ野球では空振りを取れることが多かったのは間違いない。だが近年は打者のレベルが上がっていることもあり、一昔前と比べると高めの釣り球で空振りを取れる確率は決して高くはない。

そして何よりも高めのボールというのは「ホームランボール」と呼ばれることもあるほどホームランになりやすいのだ。こうして可能性だけで考えると、今季ライオンズで最も早くホームランを打たれるのは平良海馬投手になる可能性は、決して低いとは言えない。

現にここまで2試合の平良投手のボールは、好調時と比べると勢いが弱いようにも見え、合わされただけのバットでも簡単に外野まで飛ばされてヒットを打たれているケースも多い。奪三振のタイトルを狙う平良投手はより多くの空振りが欲しいのだろうが、しかし三振を取ることをこうして優先していってしまうと、チームを勝利に導くピッチングから図らずも遠ざかってしまうケースが多々ある。

例えば全盛期の松坂大輔投手は時々、試合の勝敗よりも目の前の強打者との勝負を楽しんでしまう癖があった。そのためチームとしては低めに投げてホームランだけは避けて欲しい場面で、高めのストレートを投げてそれがコントロールミスとなってしまい、ホームランを打たれてしまうことも多かった。240イニングスを投げた2001年には、松坂投手は実に27本のホームランを打たれている(2023年にライオンズの投手陣が打たれた全ホームランは95本)。

ただし松坂投手はファンにもチームメイトにも愛されていた。そのため怪物が強打者との対決を楽しむ姿も肯定的に見られることがほとんどだったわけだが、現在の平良投手は少し状況が違うようだ。その理由は早々とメジャー移籍する旨を宣言してしまっているからだと言える。

ライオンズファンのSNSを覗き見すると、先日大宮で負けた後は、「こんなピッチングでメジャー行こうとしているのか?」と書かれたり、YouTuberであることを揶揄されたりと、かなり辛辣なコメントが目立っていた。もちろん多くのライオンズファンに愛されている平良投手ではあるが、早々にメジャー宣言したことで同時に多くのアンチを作ってしまっていることは否めない。

誰もが期待した松坂大輔投手のメジャー移籍

一方実際にメジャー移籍を果たした松坂投手の場合、メジャー移籍までの8年間でライオンズに118勝をもたらしていた。この圧倒的な成績により、誰もが「メジャーで投げる松坂を見たい!」と思うようになっていた。だが平良投手は昨季までで僅かに18勝15敗、31セーブ、94ホールドという数字に留まっている。

もちろんこの成績も立派な数字であるわけだが、しかしメジャー移籍ということになると話は別だ。絶対的守護神になったこともないし、エースとして常にローテーションの中心を担った経験もない。つまり冷たい言い方をすると、平良投手はメジャーに行くと宣言しながらも、まだファンが納得できる成績を残せていないということなのだ。そしてこれは髙橋光成投手にも同じことが言える。

そして投手陣全体が低め低めに丁寧に投げて失点を減らそうとしている中、平良投手は空振りを取りたいが故に「低めに投げる意味がない」というコメントを残している。もちろんこれは空振り率という文脈あっての言葉であるわけだが、すべての野球ファンがこの文脈を理解できるわけではない。特に少年野球世代では「平良投手が低めに投げる意味がないって言っていたから高めに投げよう」と考える選手も出てくるかもしれない。

言葉というのは自らが意図しない形で伝聞されることがほとんどだ。特にSNS全盛期である現代では、コメントの一部だけが切り取られてシェアされていくケースばかりだ。SNSを活用している平良投手であればそのことを十分理解しているとは思うのだが、しかし現状はアンチを増やし続けているというのが現実ではないだろうか。

もちろんアンチを0にすることは難しいと思う。だが松坂投手がアンチを増やさなかったように、栗山巧選手中村剛也選手炭谷銀仁朗捕手にはほとんどアンチがいない。増田達至投手もアンチは少ない選手ではあるが、しかし昨季は一部のライオンズファンが増田投手が連続してリリーフに失敗してしまった際、「増田劇場」という言葉を使って揶揄することがあった。だがこれはアンチ云々という以前にファン側のモラルの問題だと言える。

野球のプロフェッショナルコーチである筆者は、NPBよりもMLBの方がずっとレベルが高いということを自らの肌で実感している。確かにWBCでは優勝した日本ではあるが、しかし日本シリーズの覇者とワールドシリーズの覇者が対戦した場合、日本のチャンピオンチームが勝てるとは筆者には思えない。

そもそもWBCのアメリカなど野球先進国の代表メンバーは、決してトッププレイヤー軍団ではなかった。侍ジャパンはすべての選手がNPBのトッププレイヤーであったわけだが、アメリカなど他国はMLBとの契約問題もあり、代表チームはまったくトッププレイヤーのみで構成されたチームではなかった。

日米にはそれだけの差があるわけで、日本のトッププレイヤーが野球の最高峰であるメジャーを目指す気持ちは筆者にはよく理解できる。やはりアスリートであれば世界トップの場で実力を試したいと考えるのが当たり前だ。そのため髙橋投手にしろ、平良投手にしろ、メジャーを目指すこと自体は筆者は心から応援している。

だがその前に彼らにはやらなければならないことがある。平良投手はちょくちょく誤解を与えるような言葉を残しているわけだが、メジャーを目指したいのであればそんなところで無駄にアンチを増やすべではない。

上述の空振り率に対する言葉も「低めに投げる意味はない」という言葉を使うのではなく、「低めに投げることは大事だが、自分は高めに投げた時の方が空振りを取れることが多い」とだけコメントしておけば、アンチを増やすことはないし、打たれた時に「低めに投げる意味はない」という言葉で揚げ足を取られることもないはずだ。

西武球団が避けたいのは髙橋光成投手と平良海馬投手の「上沢直之化」

野球というのはチームスポーツだ。だが平良投手を見ていると時々個人競技をしているように見えることがある。ちなみに同様のことを筆者は昨年まで、山川穂高選手に対し幾度も書いてきた。「自分が活躍すればチームは勝てる」というニュアンスの言葉を残しているのが山川選手や平良投手なのだ。だがこのニュアンスの言葉は日本で受け入れられる可能性は低い。

上述した通り、圧倒的な数字を残していた松坂投手が時々個人対決を優先してしまうことに関しては、ファンも「松坂投手にはその権利がある」と考えてくれた。だがまだファンがメジャー移籍に対し納得する成績をまったく残せていない平良投手の場合、「三振もいいけどチームをもっと勝たせて欲しい」とファンに思われることが多くなってしまうのではないだろうか。

ちなみに平良投手は年齢的に、今オフメジャー移籍をしても西武球団に多額の譲渡金をもたらすことはルール上できない。そのため今オフのポスティング移籍はまずないと考えて良いだろう。だがポスティングによりメジャー移籍を目指すのであれば、とにかく少しでも多くの譲渡金を西武球団にもたらす必要がある。なぜならプロ野球は慈善事業ではなく、れっきとしたビジネスだからだ。

今季からメジャーに挑戦している前ファイターズの上沢直之投手のポスティングマネーは、僅かに93万円となってしまった。日本ハム球団は長年上沢投手に大金を支払って丹念に育成してきたにも関わらず、球団にもたらされた譲渡金は僅かに93万円だった。オリックス球団に72億円をもたらした山本由伸投手とは大違いだ。

西武球団として警戒しているのは、髙橋光成投手や平良海馬投手の「上沢直之化」だと言える。流石にこの金額でポスティングで出すメリットは一切ないし、日本ハム球団のビジネス下手具合は他球団のファンからしても心配になる程だ。

とにかく平良投手には、ファンにもチームメイトにも球団にも、温かくメジャーに送り出される選手になってもらいたい。そのためには誤解を与えそうな言葉や、揚げ足を取られそうな言葉、切り取られて使われたらアンチを増やしそうな言葉は今は慎むべきではないだろうか。

冒頭の話に戻ると、ライオンズは開幕から11試合連続で被本塁打0を続けている。これは2リーグ制以降のプロ野球では新記録となるわけだが、その記録が進行中である今、平良投手のコメントはタイミングが悪かった。ホームランを避けるには低めに投げるのが鉄則と言われる中、平良投手は前後に文脈があったとは言え、「低めに投げる意味はない」という強烈な言葉をインタビューで使ってしまった。

もしこれで最初の被本塁打を打たれるのが平良投手になることがあれば、平良投手はアンチにとって恰好の餌食となってしまうだろう。筆者はプロコーチとして普段、選手たちにはこのような誤解を生む言葉は避けるようにと指導している。そしてどう話せば敵やアンチを増やさないで済むのかも指導することがある。

このようなプロコーチ目線から見ても、平良投手の言葉には時々ドキッとさせられてしまうのだ。松坂大輔投手はファンやチームメイトからだけではなく、ライバルであるイチロー選手、中村紀洋選手、小笠原道大選手、清原和博選手ら敵チームの選手にもよく愛された。だが果たして今、平良海馬投手はどうだろうか?

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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