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2024年1月 3日公開

井川慶投手でさえ太刀打ちできなかったメジャーの壁を髙橋光成投手は越えられるのか?!

パ・リーグで投高打低の傾向が強くなってきた理由

チームロンゲ髙橋光成投手

近年のプロ野球を全体的に見ると、やはり投高打低という傾向が強いと言える。特にパ・リーグはその傾向が顕著だと言え、2023年は3割打者が2人しか出ず、しかも首位打者の打率も.307と低調だった。もちろん3割を記録したということは素晴らしいわけだが、首位打者ということになると数字としてはやや寂しいものだった。

ではなぜ近年、これほど顕著な投高打低傾向が見られているのか?その理由は単純で、投手の分業制が数年前よりも進んだためだと考えられる。

例えばライオンズの場合、昨季2023年最もイニング数を稼いだのは髙橋光成投手の155回、次いで平良海馬投手が150回、今井達也投手が133回、隅田知一郎投手が131回という並びだった。近年エースとして扱われている髙橋光成投手でさえも、僅か155イニングスしか投げていない。

現代野球では7回、8回、9回をそれぞれ一人のリリーバーに任せて試合を締め括ることが多くなった。すると先発投手は6回まで試合を作れば良いということになり、6回前提の先発登板であれば、初回からある程度飛ばしていくことができる。すると打者としてもそう簡単には打てなくなる。

そして7回以降は球威のあるリリーバーたちが1イニングを全力で抑えにくるため、6回まで以上に打つのが難しくなる。流石に1軍主力レベルの全力投球を簡単に打ち返すことは、1軍のクリーンナップだとしても難しい。

このように投手の分業制が進み、自分がどこで投げるのかをある程度計算しながらブルペンで肩を作りリリーバーはマウンドに向かえるため、当然パフォーマンスも向上しやすくなる。

さらに言えば近年はワンポイントリリーフが禁止になった。それによりセットアッパーも、イニングの頭から投げられる機会が増え、これもリリーバーのパフォーマンスを安定させる要因になっている。

やはりいくらリリーフ専門と言えど、イニングの途中からマウンドに登るよりは、イニング頭でマウンドに登った方が遥かに投げやすいし、自分のリズムも作りやすくなる。これらの要素が重なり、近年は投高打低の傾向が強くなってきたと言える。

かつてのライオンズのエースと比べるとまだまだ物足りない髙橋光成投手

髙橋投手や平良投手が目指すメジャーもやはり投手の分業化は進んでおり、それは日本よりもはるか以前より起こっていた。だがエース級となると10年前あたりの数字を見ると、メジャーでは250イニングス前後を投げる先発投手がざらにいた。つまり髙橋光成投手よりも1シーズンで100イニングスも多く投げているということだ。

ただし最近10年で見ていくと確かにメジャーでも先発投手のイニング数は減ってきている。10年ほど前は250イニングスを投げる投手も多くいたのだが、近年は200イニング少々というのがエース級のトレンドになってきている。特にコロナ禍以降は先発投手にさほど無理をさせない采配が目立ってきているように見える。

それでも多くの先発投手たちが200イニングス前後を投げているわけであり、もし髙橋投手や平良投手がメジャーで先発を目指したいのであれば、最低限日本で200イニングス近く投げるパフォーマンスを見せるべきだろう。

もちろん大谷翔平投手のように、クリーンナップを打てる投手となれば話は別だ。だが髙橋投手も平良投手もライオンズでは打席に立つことはないため、投手業に集中することができる。だからこそ筆者は、少なくともエース級は200イニングスを投げるべきだと考えている。

エースというのは他の投手よりも抜きん出たパフォーマンスを、安定感のある状態で長いイニングスを投げ続けることができ、さらに一年間ローテーションに穴を空けずに投げられる投手のことを言う。つまり松坂大輔投手、西口文也投手、涌井秀章投手らのように。

髙橋光成投手もポスティング移籍希望を明言したことで、メジャー関係者も多少なりとも注目をしている存在だと思う。ノア・シンダーガード投手のように長髪を靡かせながら投げるその風貌もインパクトは抜群だ。だがパフォーマンス面となると、二桁勝利を挙げて素晴らしいと言える反面、メジャー移籍候補としては可もなく不可もなくといった数字に留まっている。

平良投手に関しても本気で奪三振のタイトルを獲得したいのであれば、やはり200イニングス前後は投げる必要がある。つまり髙橋投手も平良投手も、昨季よりも40イニングス以上多く投げるべきなのだ。そして40イニングスというのは、4試合半分ということになる。つまり昨季の数字に加え、あと4回半完投しなければならないということだ。

先発転向一年目だった平良投手はまだしも、髙橋投手も近年の分業制にやや甘えているように見えることがある。やはりエースとしてメジャー移籍を目指すのであれば、相手先発投手よりも先にマウンドを降りることだけは絶対に避けたい。そう、かつてそれをことあるごとに言い続けていた涌井秀章投手のように。

伊良部秀輝投手や井川慶投手でさえも通用しなかったメジャーの壁

このように投手の分業制は近年、打者に対し不利に働くだけではなく、エース級投手のレベルを下げることにも繋がっている。ちなみに渡辺久信GMは現役時代、若い頃はもちろんのこと、引退間際の台湾でも200イニングス以上を投げるタフネス振りを見せている。そんな実績を残してきた渡辺久信GMだからこそ、髙橋投手の数字には大きな物足りなさを感じているのだろう。

なお投高打低の傾向は長年続くことはないと考えられる。なぜなら投手の球速はそう簡単に上がるものではないが、バッティングマシンに関しては200km/h以上投げるものがいくらでもあるためだ。つまり昨季の投手たちが投げたアベレージ以上の球速をマシンで打って目慣らしをすることで、2024年は打者たちももう少し打率を上げてくることが考えられる。

果たしてその時、メジャーを目指す髙橋投手や平良投手の7〜8イニングス目のボールがどれだけ相手クリーンナップに通用するのかというのは、今季のペナントレースを占う一つのポイントともなるだろう。

そして渡辺久信GMは髙橋投手と平良投手に対し、QSのクリアだけではまったく満足していない。QSというのは先発投手が6回を3失点以内で抑えることなのだが、渡辺GMは特にこの二人にはHQS、つまり7回を2失点以下で抑えるピッチングを求めている。

投手の分業制が進んだ現代においても、メジャーを目指すのであれば日本では当たり前のようにHQSをクリアできる投手である必要がある。逆を言えば、それくらいのレベルじゃなければなかなかメジャーでは通用しないということだ。

髙橋投手と平良投手の特徴としては、筋力トレーニングをメインにして球速アップを目指しているという共通点がある。もちろん筋トレは大切なトレーニングであるわけだが、気になるのは二人が常に球速アップを目指すという言葉を残している点だ。

もちろん球速は遅いよりは速い方がいい。だがスピードガン表示がいくら速かったとしても、球質が良くなければ簡単に打ち込まれてしまう。現にアメリカには160km/hを超えるボールを投げられる若手投手がいくらでもいるわけだが、彼らは球が速いだけで投球術を持ち合わせていないため、メジャーではまったく通用しない日々を過ごしている。

例えば日本では剛腕投手として鳴らした伊良部秀輝投手や井川慶投手らは、期待値ほどメジャーで活躍することはできなかった。特に日本では桁違いの活躍を見せた井川慶投手はメジャーではまったく通用せず、2年間で2勝しただけでアメリカ生活を終えている。

伊良部投手に関しては見た目からは想像もできないほどの理論派投手であったため、メジャーで34勝を挙げることはできたが、やはり期待値には程遠いピッチング内容だった。髙橋投手や平良投手は、彼らの二の舞を踏んではならない。球速で勝負をするのではなく、球質と投球術で勝負をすることをもっと大切にして欲しい。

まとめ

とにかく今後も昨季のような顕著な投高打低が続くことは考えにくい。今後メジャーを目指していく山本由伸投手未満の投手たちは、そこでいかに良い結果を残せるかが鍵となってくるだろう。

23歳で渡米した大谷翔平選手のように、25歳未満でなおかつプロ経歴が6年未満の場合は、メジャー側も多額の移籍金を支払う必要がないため、リスクを恐れずに獲得を目指すケースも多くなる。だが髙橋投手は来季28歳、平良投手は25歳でもうインターナショナルFAには当てはまらない。

つまり西武球団からすると、ポスティングで移籍をするなら多額の移籍金をもたらしてくれなければ困るというわけだ。そのためにも渡辺GMの仰る通り突き抜けた成績が必要になってくるわけだが、果たして投高打低の傾向が弱まっていった際、髙橋投手と平良投手がどれほどのパフォーマンスを見せられるのかというのは、メジャーのスカウトマンたちも注目しているはずだ。

だからこそまだ投高打低傾向にある今の段階で、他を圧倒する数字を残せないようでは西武球団としてもポスティングにかけにくいということになる。投高打低というのは投手にとっては大きなチャンスなのだ。そのチャンスを活かし、今季は他を圧倒する成績を残した上でチームを日本一に導き、晴れてポスティング要望を球団に伝えて欲しい。

これは髙橋投手や平良投手だけではなく、佐々木朗希投手にも同じことが言えるわけだが、彼らは自分たちの希望だけを伝えるばかりで、球団側の損得をまったく考えられていないように見える。もちろん彼らには将来的にはメジャーで大活躍してもらいたいが、その前に日本で、チームメイトもファンも納得する結果を残すことが先ではないだろうか。

そうすればかつて松坂大輔投手がメジャー移籍した時のように、チームもファンも、誰もが快く送り出してくれるはずだ。そのような門出を迎えられるようにするためにも、今季は髙橋投手と平良投手のメジャー移籍に対する本気度を示す突き抜けた成績を筆者は期待したいと思う。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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