2024年2月11日公開
昨年に続き、今年の春季キャンプでも松坂大輔氏が4日間限定の臨時コーチとして南郷にやってきた。松坂氏と言えば、言うまでもなくかつてのライオンズの大エースであり、その名を知らない選手・ライオンズファンなど一人もいないだろう。
日本球界、メジャーリーグで素晴らしい実績を残して来た松坂氏の経験値を少しでも譲り受けようと、ライオンズの投手たちも「ぜひアドバイスを受けたい」と言う投手ばかりだ。今回も残念ながら4日間限定の臨時コーチなのだが、できれば期限を切らずにライオンズのユニフォームを着続けてもらいたいなとも思う。
2021年を限りにユニフォームを脱いだ際、渡辺久信GMは即座に松坂投手に対しコーチ就任を要請した。だが松坂投手は、現役時代にできなかった家族サービスと、外側から野球を見ることに時間を使っていきたいという理由でその時の要請は固辞している。
しかし松坂大輔氏が将来のライオンズの監督候補であることには間違いないし、渡辺久信GMも、松井稼頭央監督の後任として松坂氏のことは第一候補に挙げているはずだ。
近年のライオンズは、二軍監督として経験を積ませた後に一軍監督に昇格させるという手法をとっている。つまり二軍では若手選手だけではなく、将来の監督候補も育成されているということだ。
将来の松井稼頭央監督の後任候補はもちろん松坂氏であるわけだが、しかし松坂氏の招聘が上手くいかなかった場合に備え、と言うととても失礼に当たるが、現在二軍では西口文也監督が指揮を執っている。西口二軍監督は現役時代からチームメイトに「西口に勝ちをつけてあげたい」と思われていたような人柄で、将来一軍監督になれば選手たちも間違いなく「西口監督を胴上げしたい」という思いでプレーをするようになるだろう。
そのため将来的な松井監督の後任は、松坂氏でも西口二軍監督でも一軍の強さを維持していけるはずだ。だが球団運営という面から見ると、より多くの観客を呼べるのは西口監督よりも松坂大輔監督であることに間違いはない。かつての怪物が監督ということになれば、そのインパクトは計り知れない。
さて、松坂臨時コーチは初日から何人かの投手の指導にあたり、その中でもルーキー武内夏暉投手の完成度には驚かされたようだ。指導後には修正点は一つもないと語るほどで、順調にいけば開幕ローテーション入りできるレベルにあると明言されている。
もちろん多少のリップサービスも含まれているとは思うが、しかしあえてメディアに対してそう明言したということは、リップサービスをど返ししてもかなり魅力を感じる投手として、武内投手は松坂氏の目には映ったのだろう。
現在のライオンズの先発陣で開幕ローテーション入りが濃厚とされているのは髙橋光成投手、平良海馬投手、今井達也投手、隅田知一郎投手ら4人で、残り2枠を狙っているのが與座海人投手、松本航投手、渡邉勇太朗投手、青山美夏人投手、ボー・タカハシ投手、そして武内夏暉投手となる。このように開幕ローテーション争いもかなり熾烈を極めており、12球団でもトップクラスの投手力を誇っていると言える。
もしこの争いを勝ち抜いて武内投手が開幕ローテーション入りしたとなると、やはり武内投手はドラフト1位指名に相応しい投手だったと言うことになり、「開幕ローテ入りできる」という松坂臨時コーチの自らの言葉に対する自信も、確信に変わっていくだろう。
松坂臨時コーチが視察した武内投手のブルペンは、まだまだ肩が仕上がっていない状態でのピッチングだった。それでも武内投手が投げるストレートは糸を引くように美しい軌道だったと言い、球質の良さを高く評価する指導者、評論家が多い。
あとはここからペースを上げすぎて調子を落としてしまうことにさえ注意していけば、肩がしっかりと仕上がった時、オープン戦でも投げる機会は自ずと増えていくだろう。
そして理想的にはやはり、サウスポーである隅田投手と武内投手がそれぞれ表ローテ・裏ローテの二番手として投げられるようになれば、サウスポーを挟んで登板する右投げの一番手・三番手投手もかなり投げやすくなり、左右それぞれの投手たちがそれぞれの相乗効果を生み出すようになるだろう。
さて、松坂大輔臨時コーチが合流した初日、南郷のグラウンドには松松コンビが復活した。マシンバッティングでまず松井稼頭央監督が打席に立ち、レフトフェンス上段に直撃するあわやホームランという打球をを披露すると、その後促されるようにして松坂臨時コーチが打席に立った。
松井監督は現役を退いた後も一度もユニフォームを脱がずにここまで来ていることもあり、まだまだ現役さながらのスウィングを見せてくれた。だが松坂臨時コーチに関しては、イチロー選手のチームで年に一度プレーしているとは言え、フォームに現役時代の面影はあまり見られなかった。
もちろんそれは当然のことでありまったく不思議ではないわけだが、10球ほど打ったのち、なんと借りていた西川愛也選手のバットを根本から折ってしまった。この時の投球はバレルを外れてバットの先っぽに当たっているため、ミート力に関しても随分と衰えてしまったなという印象だ。
広岡達朗氏のように「指導者は動けないようではダメ」と仰る方もいるが、しかし実際には選手と指導者はまったくの別物であり、指導者が選手同様に動ける必要はない。もちろん動けるに越したことはないが、例えば名将と呼ばれた森祇晶監督や野村克也監督などはほとんど動きを見せない監督だった。
そのため例えば松坂臨時コーチの動きがやや鈍っていたとしても、将来ライオンズの指導者としてユニフォームを着ることに何ら差し障りはない。それどころか外からしっかりライオンズの野球を見ることにより、ライオンズの強みと弱点を明確に炙り出し、将来の指導に生かしていってもらいたい。
それはだいたい10年後くらいになるのだろうか。松井稼頭央監督が何度も日本一を達成したのち、「辞任」ではなく「勇退」という形で監督を退任された時、やはりライオンズファンが望むのは松坂大輔監督の誕生だと思う。もちろん西口監督や豊田清監督の野球も見てみたいわけだが、やはり松坂監督の誕生にはかなりのインパクトがある。
それにしても近年のライオンズの監督事情は他球団が羨むほどだと思う。通常「名選手は名将にあらず」と言われるように、現役時代に名選手であった人ほど名指導者になるのが難しいと言われている。
だが松井稼頭央監督は日米通算2705安打、西口文也二軍監督は182勝、松坂大輔臨時コーチは日米通算170勝と、いずれも他を寄せ付けないレジェンドばかりだ。こうして名選手を名将に育て上げるライオンズ独自のシステムが強化されていけば、今年から始まるライオンズの常勝時代は今後長らく続いていくことになるだろう。