2024年1月 4日公開
2023年は渡邉勇太朗投手にとってはとても悔しいシーズンとなってしまった。本来であれば浦和学院時代のチームメイトで、昨季ルーキーだった蛭間拓哉選手と共に一軍で活躍したかったわけだが、春季キャンプで痛めた右肩の影響で出遅れてしまい、一軍に上がれたのは九月になってからだった。
渡邉投手は、昨季まで二軍投手コーチを務めていた内海哲也コーチの愛弟子とも呼べる投手だ。内海コーチも、自身がライオンズで現役だった頃から渡邉投手には目をかけ、コーチになってからも熱心に指導に当たっていた。もちろん内海コーチの指導はどの選手に対しても平等だったわけだが、やはり渡邉投手に対する思い入れは少し違っていたと思う。
渡邉投手は近い将来、ライオンズに対する内海哲也コーチ最大の遺産となるだろう。それくらい内海コーチも渡邉投手には期待をしていたし、実際に一軍で活躍できると確信していた。そして蛭間選手も加入したことで2023年はまさに勝負の年となるはずだったのだが、上述の通り春季キャンプ中に右肩を痛めて出遅れてしまった。
しかし九月に一軍に上がってからの2試合は非常に素晴らしい内容だった。9月20日の昨季初登板となったファイターズ戦では5回で94球を投げて被安打2の無失点。翌週9月27日のイーグルス戦では6回で86球を投げて被安打5の1失点という内容で、2試合合わせると防御率は0.82、WHIPも1.09というエース級以上の数字を残した。
病み上がりということもあり豊田清投手コーチも無理はさせず100球弱で降板させているが、来季肩の不安がなくなれば、100球前後で7回程度を平均的に投げられるようになるのではないだろうか。元来先発タイプの投手であるためスタミナは持っている。後は今季肩の不安なく投げられるようになれば、ローテーションに食い込んでくる可能性は高いだろう。
だがライオンズの一軍先発陣の層は厚い。とは言え穴がないというわけでもない。2021年に自身初の二桁勝利をマークした松本航投手だが、ここ2年間はかつて三本柱と呼ばれていたことが霞んでしまうような成績に低迷している。もし今季も同じような不安定なピッチングを続けた場合、松本投手に変わって渡邉勇太朗がローテーションに食い込んでいくことになるだろう。
昨季の初登板はすでに最下位がほとんど確定していたファイターズが相手だったため、この日の好投だけであれば評価するのは難しかった。だが翌週、ライオンズよりも上位にいてまだCS出場を目指して戦っていたイーグルス相手にも好投を披露している。これは昨季5位に沈んだライオンズにおいて、2024年に向けての大きな光明となった。
元々渡邉投手はドラフト2位指名でライオンズ入りし、背番号も高卒ながら12番を与えられていた。それだけ期待された選手だっただけに活躍するのは当然と言えば当然なのかもしれないが、しかし昨シーズン、最後の最後で見せたピッチングはまるで覚醒したかのような、まさに内海コーチが期待した通りのピッチング内容となった。
渡邉勇太朗投手は体格もピッチングフォームも、大谷翔平投手にやや似ている。だがピッチング内容そのものは大谷投手とは異なり、渡邉投手はどちらかと言えばカッターを使って打たせて取るのが非常に巧い。だからこそ昨季最後の2試合でも、非常に少ない球数で5回、6回を投げ抜くことができた。
そしてカッター以外にはスライダーやカーブ、スプリットを投げることができる。大谷投手の場合はイニング数以上の三振をガンガン取っていくピッチングスタイルだが、渡邉投手の場合は奪三振はだいたいイニング数の半分くらいの数にとどまっている。だからこそ球数を抑えることができ、将来的には110球程度で完投数を増やせる投手になっていくことが予想される。
三振を取れる能力というのはやはり素晴らしいが、しかし三振をたくさん取ったからといって勝てるわけではない。渡邉投手の場合は力任せに三振を取りに行ったり、バットを圧し折ろうとすることがない。これは内海投手の指導によるところもあるのかもしれないが、渡邉勇太朗投手のピッチングスタイルは、ローテーションを守りながらも長いイニングを投げていくのに最適なスタイルだと言える。
大谷翔平投手のような体躯から巧く芯を外してくるピッチングをされたら、打者としては非常に嫌なのではないだろうか。見た目は完全に剛腕投手なのに、ピッチングスタイルが技巧派というギャップは打者を戸惑わせ、上手く的を外しながらアウトを積み重ねていける。
さて、ライオンズにはご存知の通り浦和学院時代の同級生である蛭間拓哉選手が昨季から加入した。これから新たな時代に突入していくライオンズは、やはりこの若き二人が主力となって引っ張っていかなければならない。
それでなくともライオンズでは、早ければ今オフにでも髙橋光成投手がメジャー移籍してしまう。だが現在エースとして投げている髙橋投手が抜けたとしても、昨季渡邉投手が見せた成長を目の当たりにすると、髙橋投手が抜ける不安などまったく感じなくなってくる。
そして今季渡邉投手が、昨季終盤に見せたパフォーマンスをシーズンを通して出し続けていけば、現在背負っている12番という背番号ももっと重みのある番号に変わっていくかもしれない。例えば現在ライオンズでは、内海投手がジャイアンツ時代につけていた26番が空いているし(ただし現状ではこの番号は佐々木健投手のためにキープされている)、髙橋投手がメジャー移籍した後は13番に変更する可能性だってあるだろう。
いや、それだけではない。もし渡邉勇太朗投手が絶対的エースと呼べる成績を残した場合は、かつて松坂大輔投手が背負っていた栄光の18番を与えられることだってありうるだろう。
とにかく言えることは渡邉勇太朗投手に対するファンの期待、チームの期待、内海コーチの期待は非常に大きいということだ。恩師でもある内海コーチに恩返しするためにも、今季は5月31日〜6月2日に行われるジャイアンツとの交流戦3連戦で登板し、ぜひ昨季最後に見せた素晴らしいパフォーマンスをジャイアンツ戦でも披露してもらいたい。
そしてもしジャイアンツが今季日本シリーズに駒を進められた際には、そこでもジャイアンツを返り討ちにするピッチングを渡邉勇太朗投手には披露してもらいたい。渡邉投手が投げて蛭間選手が打つことで勝ってもらいたい。今季この二人がそのように主力としてライオンズを引っ張っていくことができれば、これまでの主力をサポートに回すことができ、ライオンズは近年にないほどの強さを見せられるようになるだろう。
ライオンズが今後新たな黄金時代を築き上げていくためには、早々にポスティングでメジャー移籍を目指すと公言している選手に頼っていてはダメだ。ずっとライオンズのユニフォームを着てプレーしてくれるであろう選手たちが中心となり勝っていかなければ、常勝軍団を組織していくことはできない。だからこそ筆者は今季、埼玉出身の渡邉勇太朗投手と、群馬出身でライオンズJr.上がりの蛭間拓哉選手の同級生コンビを中心に勝っていって欲しいと期待しているのである。