2021年2月18日公開
開幕投手筆頭候補の髙橋光成投手がここまで非常に良い調整を見せてくれている。2月17日に行われた紅白戦では2イニングスを投げて被安打1、無失点という上々の内容でマウンドを降りることができた。
今季25歳となる髙橋投手に、少しずつエースとしての自覚が芽生え始めているのかもしれない。1年前まではまだまだ若さや勢いによってバッターを捩じ伏せようとするピッチングが目立っていたのだが、昨季後半からはそのような姿があまり見られなくなった。
西口文也投手コーチの指導によるところが大きいらしいのだが、先発投手らしく、力みなく自分自身のボールを投げられる確率がかなり高くなって来ているように見える。
勢いに頼っていた頃はボールが暴れることが多く、自分が投げているボールを制御し切れていないように見えることが多かった。だが昨季後半あたりからは、しっかりと投げたいボールを投げられているように見え始めた。
それほど球数を投げないリリーバーであれば勢いで抑えてにいって良い場合もあるのだが、長いイニングを投げる必要がある先発投手はそれをすべきではない。まるでチェスをするかのように先々のカウントをイメージしながら配球を組み立て、抑えようが打たれようが、とにかく自分自身のイメージに極力近いボールを投げることが重要だ。
昨季後半戦以来、髙橋投手はそのようなスキルを身につけたように見える。
今回の紅白戦で筆者が素晴らしいなと思ったのは、髙橋投手がブルペンで100球投げた後でマウンドに登ったという点だ。本人のイメージとしては、終盤8〜9回のマウンドに登る心境とコンディションを作ってのことだったのだろう。
もちろんこのような調整を行う先発投手は髙橋投手だけではないわけだが、しかし結果を追い求めたがる若手投手の場合、なかなかこのようなことができる心理的余裕を持つことができない。
しかし髙橋投手はもうすでに開幕戦に投げるつもりで調整をしているのだろう。今季初登板となる紅白戦の段階で、このような完投を意識しての調整を見せてくれた。これはまさに心理的余裕とエースとしての自覚の現れだと言えるのではないだろうか。
やはりエースは分業制が確立された現代野球であっても、しっかりと完投してリリーバーを休ませてあげるという役割を全うすべきだ。肩肘に不安を抱えていたり、ベテラン投手であれば話は別だが、髙橋投手は今季25歳というまだまだ発展途上の投手だ。それならばやはり試合終了までマウンドを誰にも譲らないという気概こそが望まれる。
多くのピッチャーが成績を積み重ねながら徐々にエースになっていくのに対し、髙橋投手からはすでにエースとしての自覚が感じられる。投手としてのタイプは違うわけだが、感じられる雰囲気としてはかつての涌井秀章投手のようだ。
ライオンズにはしばらく絶対的エースの存在がなかった。涌井投手がライオンズを去って以来、上位チームのエースとの直接対決で投げ勝てる投手の存在がなかった。しかし今、髙橋投手がまさにそのようなピッチャーになろうとしている。
エースとは、相手エースとの直接対決に勝ってこそエースと呼ぶことができる。開幕戦に投げるということは、シーズンを通してほとんどのマウンドで相手チームのエースと投げ合う形になっていく。そこで勝てるのが真のエースであり、そこで勝てない投手をエースと呼ぶわけにはいかない。例え何らかのタイトルを獲得できたとしても。
ライオンズが2018年と2019年に勝ち切れなかったのは、真のエースの存在がなかったからだ。しかしこれから髙橋投手がそのような存在になっていってくれれば、かつてのように2年続けてCSで涙を呑むこともなくなるだろう。
一昔前までのライオンズはとにかく短期決戦に強かった。それはひとえに絶対的エースの存在があったからだ。西口文也投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手のような。
今季髙橋投手が相手エースとの直接対決に勝ち続け、最多勝争いに加わるようなピッチャーに進化することがあれば、ライオンズの日本一はグッと近づくことになるだろう。
ファンが望んでいるのはCSに出場することではない。パ・リーグを制したのち日本シリーズで4勝することだ。2008年以来の覇権奪回を実現するためにも、髙橋光成投手の進化は不可欠だ。今季髙橋投手には、真のエースとしてチームを日本一に導く活躍を期待したい。