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2022年11月16日公開

ライオンズを西武愛に溢れた選手で溢れさせるための効果的手段

まだまだFA宣言をしにくい空気が残っているNPB

NBPのドラフトやFA制度はやはり見直すべきだと思う。現在はそれぞれMLBを模倣して作られた制度で運営されているわけだが、選手の考え方もファンの考え方も日米では異なる。特に選手側の考え方は日米では完全に違うと言っていいだろう。

MLBの場合はフランチャイズプレイヤーの存在が非常に稀だ。入団から引退までずっと同じ球団でプレーをする選手はほとんどいない。また、日本選手のように生まれ故郷でプレーをしたいと口にする選手もまずいない。選手たちは常に上昇志向を持ち、より良い条件でプレーできる球団へとFA制度を使ってどんどん転職していく。

そのため主力選手をFAで失ったとしても、その穴埋めをするための選手がFA市場にはまだまだたくさん残っているケースがほとんどだ。しかし一方のNBPはそうではない。FAで主力を流出したとしても、穴埋めをするための要員がFA市場にまったくいないケースがほとんどで、今オフライオンズは森友哉捕手をFA流出してしまったわけだが、しかしFA市場には森捕手の穴埋めをできるレベルの捕手のフリーエージェントはもう残ってはいない。

NPBにFA制度が導入されてからもう30年くらいが経過するわけだが、未だにこのFA市場が活性化されてない。FA権を取得しても行使しない選手も多く、FA宣言後にかつての木村昇吾選手のように行き場を失くすことを恐れて二の足を踏んでいる選手も多い。

NPBのFA制度は一部の選手にとっては権利だと言い切ることができるが、多くの選手にとってはそれほど魅力的ではない制度、状況であるとも言える。NPBでも、もっとスター選手以外でも安心してFA宣言をできる環境作りをしていく必要があるだろう。

そしてどうしても選手が二の足を踏んでしまう状況を作ってしまったのが、西武球団も含めてかつては一部の球団が宣言残留を認めていなかったせいだ。今では宣言残留を認めないと公言する球団はなくなったが、しかし一部ではまだFA宣言をするとフロントの心証が悪くなり、FA宣言後の残留がしにくくなるケースもあるという。

このような状況を12球団を挙げて改善していかなければ、今後もFA権が一部の選手にとってのみの権利となってしまう。どんな選手でも安心してFA宣言できるように、コミッショナーがリーダーシップを発揮しての改革の必要性は、もはや待ったなしだと言える。

地元に帰りたいと言ってライオンズを去った選手たち

さて、ライオンズの話をすると、今後ライオンズはドラフト戦略を根本的に見直すべきだろう。ライオンズはこれまでに生まれ故郷でプレーをしたいという体裁の下でFA移籍していった選手が多数いる。福岡県出身の帆足和幸投手はホークスに、宮城県出身の岸孝之投手はイーグルスに、千葉県出身の涌井秀章投手はマリーンズに、そして大阪府出身の森友哉捕手はバファローズに。このように少なくとも4人の主力選手たちが、優勝や契約条件などよりも地元を優先して移籍していってしまった。

涌井秀章投手の場合は当時の伊原春樹監督が挑発を行わなければライオンズに残留していた可能性も高った。しかしスポーツ紙各紙が取り上げていたように、伊原監督が心ない言葉を涌井投手に浴びせたことにより、涌井投手も体裁的には地元に恩返ししたいという言葉を残しライオンズを去ってしまった。

メジャー移籍であったり、西武球団とは条件が雲泥の差であったり、そのような状況でのFA移籍は仕方ないと思う。アスリートであれば、よりレベルの高いメジャーでプレーをしたいと思うことは自然なことであり、それに関しては球団側もしっかりとバックアップしてあげるべきだとも思う。

だが西武球団の場合、かつては条件面では同等だったり、西武球団の方が良い条件を提示したのにも関わらず主力選手がFA移籍してしまうケースが多かった。これはもちろん当時のフロントの能力が低かったことも影響しているわけだが、しかし地元でプレーをしたいということを理由にされてしまうのは、これはプロ球団としては少し情けない。

蛭間拓哉

ライオンズは今後は、主力になりうる期待度の大きな選手に関しては、埼玉近隣から獲得すべきだと思う。例えば今年のドラフトで1位指名した蛭間拓哉選手などは、渡辺久信GMと同郷であり、かつてはライオンズジュニアでプレーしていたこともあった。入団前からライオンズを第一希望としていたこともあり、このような選手であればFA権を取得しても、地元に帰りたいという理由でFA移籍してしまう心配はない。

これは群馬県出身の髙橋光成投手や、栃木県出身の今井達也投手にも同じことが言える。このような選手の場合はFA権取得時に地元に帰ることを移籍の理由にすることはない。この段階で既にFA流出の理由を一つ消すことができるため、今後ライオンズは埼玉の近隣から主力選手を集める努力が必要になるのではないだろうか。

上述したように、メジャー移籍や条件面においてFA移籍されてしまうのは仕方がないことだ。しかし地元に帰りたいということを理由にFA移籍させてしまうのは、プロ球団としては何としてでも回避したいところだ。

ライオンズをライオンズ愛溢れる選手で溢れさせるための手段

茨城県に関してはまだまだ巨人に憧れている野球関係者が多いという筆者個人の印象なのだが、栃木県や群馬県はライオンズに対し非常にポジティブな野球関係者が増えて来ていると思う。これは選手だけの話ではなく、野球指導者たちもライオンズに対しとてもポジティブなのだ。そんな野球指導者や父母に野球を教わった選手たちも、自然とライオンズに憧れるようになる。

このような環境をもっと強化するためにも、ライオンズは埼玉県はもちろんのこと、栃木・群馬・新潟・茨城など近隣の野球振興にももっと力を入れるべきだ。例えば現在は埼玉県のみとなっているライオンズアカデミーを近隣の県にも拡大し、もっとライオンズと触れ合う場の常設を増やしていくべきだ。

そうすれば近隣県の野球関係者や選手たちのライオンズ愛を培うだけでなく、引退した選手たちの受け皿を増やすこともできる。まさに一石二鳥と言えるのではないだろうか。そしてライオンズアカデミーで育成した選手たちをドラフトで指名していけば、ライオンズはライオンズ愛を持つ選手たちで溢れていくことになる。

そして他球団に入団したライオンズアカデミー出身者たちも、いつかは「地元でプレーをしたい」と言ってFAでライオンズに移籍してくるようにもなるだろう。そしてその時までに、FAにおけるBランク以下の選手でも安心してFA宣言できる環境をNPBには整えていってもらいたい。

そして行く行くはライオンズアカデミーだけではなく、埼玉西武ライオンズの少年野球チーム、中学野球チーム、高校野球チームを作っていけるような制度も必要だと思う。もし西武球団がこのようなチームを持つことができれば、地元企業のバックアップを受けて、セレクションで合格した選手に関してはユニフォームや野球道具の一部は自腹ではなく、無償で提供を受けられるようにもなるはずだ。

野球というスポーツを続けるのは本当にお金がかかる。例えば軟式野球のないアメリカでは、硬式野球のグラブは2万円程度で購入できる。筆者が長年仕事で愛用しているアンダーアーマーの硬式用キャッチャーミットも、アメリカで198ドルで購入したものだ。しかし軟式と硬式が混在している日本では、上質な既製品の軟式野球用のグラブが2万円前後で、硬式用となると5万円前後となり、道具の高さを理由に野球を辞めてしまう子が多いことも無視することができない事実だ。

高校野球にしても日本もそろそろ甲子園一択ではなく、甲子園を目指さない学校外のチームも増やしていくべき時期に来ていると思う。そして西武球団には将来的には現在のレディースチームに加え、率先してそのような下部チームを作ってもらい、ライオンズ愛に溢れた選手をドラフト指名できる機会を増やしていって欲しい。

これがもしかつての松井稼頭央選手のように、より高いレベルを目指してメジャー移籍をしたのであれば「アメリカでも頑張れ!」と、ファンとしても心から応援できるのだが、しかし今回の森友哉捕手のように「地元でプレーしたいからライオンズを去る」と言われてしまうと、ファンとしてはちょっと白けてしまう。「バファローズでも頑張れ!」とも言いにくくなる。

そしてオリックス球団が条件提示してから、予想以上に僅かな期間で移籍が決まってしまったことも、ファンの気持ちを白けさせている。これがもし悩みに悩んで苦しみ抜いた結果バファローズを選んだ、というのならまだしも、これだけ決断が早いとなると、「ライオンズを出る前提のFAだったのだな」とも思えてしまう。

森捕手にはもちろんバファローズでも頑張ってもらいたいとは思うが、しかしライオンズとしては森捕手のすべてのデータを持っている分、来季の投手陣は絶対に森捕手には打たせてはいけないし、野手陣も森捕手のリードを読んでいるかのように、森捕手がマスクを被る時はいつも以上に打り、森捕手にライオンズを去ったことを後悔させなければならない。そしてそれこそが森捕手に対するライオンズからの餞別になると筆者は信じている。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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