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2024年2月 3日公開

甲斐野央投手が2年目に肘を痛めてしまった原因をプロコーチが考察

すでに西武ナインからウェルカム状態にある愛されキャラ甲斐野央投手

甲斐野央投手

すったもんだの移籍劇を経て、甲斐野央投手がようやくライオンズのユニフォームに袖を通した。本来であれば人的補償での移籍が決まった後すぐにでも入団会見をしたかったわけだが、渡辺久信GMがそうさせなかった。

甲斐野投手は福岡の地から所沢に移籍してくる。これはまるでクラウンライターライオンズの選手たちが、1979年に平和台球場から所沢の西武球場に移って来た時と同様だ。ちなみにその当時は多くの選手たちが所沢への引っ越しに対して後ろ向きだったのだが、ベテラン土井正博選手が「俺はどこででもやる」と言ったことで他の選手たちもようやく納得し、チーム全体で所沢に引っ越す算段となった。

だが甲斐野投手の場合は単身福岡から所沢に引っ越して来なければならない。兵庫県出身の甲斐野投手にとって、所沢は土地勘だってない場所だ。もちろん現代ではスマホのアプリを使えば、都内からでも迷わず西武球場駅までたどり着くことはできる。だが慣れ親しんだ福岡を離れて単身所沢にやってくることには、ある種の覚悟もいったはずだ。そして渡辺久信GMも、甲斐野投手に慣れない土地で余計な心配をすることなく、まずはゆっくり落ち着いて家探しをして地に足をつけて欲しいという思いから、入団会見を後回しにしていたと言う。これはまさに選手ファーストの対応であり、渡辺GMが選手たちから信頼される所以だと言える。

だが少なくとも甲斐野投手は望まれてライオンズにやって来るのだ。「人的補償」と聞くとどうしてもややネガティブなイメージを持ちがちだが、甲斐野投手の場合はほとんどトレード同然の移籍だったと言える。一般的には人的補償で移籍した選手が移籍先で活躍する例は多くはない。だが一軍でバリバリのリリーバーだった甲斐野投手の場合、首脳陣も春季キャンプでは迷わずA班入りさせるほど期待値は大きい。

筆者の正直な意見としては、毎年下半身を怪我して離脱し、去年に関しては不祥事によりほとんど全休だったスラッガーよりも、リリーバーとして確かに計算できる甲斐野投手の存在の方が、チームにプラスになると思う。さらには、FA移籍していったスラッガーは不祥事を起こす前から多くのアンチが存在していたが、甲斐野投手はほとんどアンチがいないと言って良いほどの好人物だ。

筆者はこれまではマウンドでボールを投げる甲斐野投手のことしか知らなかったのだが、この移籍劇に際して周囲の声を記事で読んでいくと、甲斐野投手はかなりの好青年で明るく、誰からも好かれ、なおかつムードメーカーにもなれるキャラクターであるようだ。

入団会見では冗談混じりに「最初は猫をかぶっておく」と話していた甲斐野投手だが、岡田雅利捕手はそんなことする必要はなく、素のままの甲斐野投手でライオンズに飛び込んできて欲しいとコメントしている。人柄の良い投手陣の選手たちだけではなく、岡田捕手や炭谷銀仁朗捕手も甲斐野投手に対してすでにウェルカムの姿勢を示している。

まだライオンズのユニフォームを着て投げたボールは1球もないわけだが、しかしもうすでに甲斐野投手はすっかりライオンズナインに受け入れられているといった印象だ。ほとんどトレードとも言えるこの移籍は、甲斐野投手にとっては本当にプラスになるという印象しか筆者は持っていない。

2020年に甲斐野央投手が肘を痛めてしまった原因を考察する

さて、その甲斐野投手は中学三年生の時、兵庫県代表チームで松本航投手とチームメイトだった。その際は松本投手が凄すぎて、甲斐野投手は投手を辞めようと決心したほどだったと言う。だが今では甲斐野投手と松本投手にはほとんど差などない。それどころか松本投手もうかうかしていれば、あっという間にチームでの存在感で甲斐野投手に上回られてしまうだろう。

2021年には二桁勝利を挙げている松本投手だが、それ以降は7勝6敗、6勝8敗と思うように勝ち切れないシーズンが続いており、その間は二軍落ちも経験している。コロナウィルスなどの特例を別とすれば、不振による登録抹消はかつては三本柱とも称された松本投手にとっては屈辱的だったはずだ。

だが今季はかつてのチームメイトである甲斐野投手がライオンズに加わり、松本投手にとっても先発とリリーフのポジションの違いはあれど、同学年で切磋琢磨していける気心の知れた選手と共闘できるようになった。これは松本投手にとっても、甲斐野投手にとっても良きカンフル剤となるのではないだろうか。

ちなみに甲斐野投手の今季の目標は「50試合以上に登板する」ことであるらしい。甲斐野投手の最多登板はルーキーイヤーの65試合が最多で、故障からの完全復活を印象付けた昨季は46試合に登板している。つまり50試合登板というのは無茶な数字ではなく、体とも相談した上で現実的な程よい高さの目標と言えるのではないだろうか。

ルーキーイヤーに関しては、甲斐野投手は投げたがりの癖があったと言う。ホークスでは当然、当時の工藤公康監督がコンディションを見ながら65試合で起用していったわけだが、その年の日本シリーズ終了後の8日後からスタートしたプレミア12で、10試合中5試合に登板し、それが翌年の右肘痛に繋がってしまったと考えられている。

やはりルーキーイヤーでまだオフの過ごし方も分からない状態でフルシーズン、CS、日本シリーズ、プレミア12と戦い抜き、疲れが抜けていない状態でキャンプインしてしまったことで、肘が悲鳴をあげてしまったのだろう。

ではなぜCSでもなく、日本シリーズでもなく、プレミア12が肘痛の引き金になったと言えるのか?それはプレミア12で使用されるボールに理由がある。プレミア12では国際球が使われたのだが、国際球というのはNPBの公式球と比べると、摩擦係数が約20%低いのだ。つまり国際球(とMLB公式球)はNPBの公式球よりも20%滑るということになる。

そのためボールを投げる際は、投手でも野手でもペナントレース時よりも20%力んで投げなければボールを上手く制御できなくなる。甲斐野投手も当然滑りやすい国際球に対応するため意識的であれ、無意識であれ、いつもよりもボールを強く握って投げていたことは言うまでもなく、この力みが肘をロックするような働きをしてしまい、内側側副靱帯を痛めてしまったと理論づけることができる。

これはたらればでしかないわけだが、もしルーキーイヤーにプレミア12に出場していなければ翌年の肘痛は回避できた可能性もあり、もしそうなっていれば、今頃甲斐野投手はホークス不動の守護神となっていた可能性もあっただろう。

甲斐野央投手が飛び込んでいくのはかつてないほど熾烈な守護神争いレース

言わずもがな、甲斐野投手は最速160km/hのボールを投げる剛腕投手だ。だが甲斐野投手のコメントを聞いていると、「スピードだけではプロでは勝てない。投球術も磨く必要がある」という趣旨のこと話していた。このコメントには非常に好感が持てる。

近年はまるで野球が個人競技であるかのように球速だけを追い求める選手も多い中、甲斐野投手はスピードだけではなく、投球術の必要性も十分に理解している。これはおそらく、和田毅投手を間近で見て来たことにより学んだのではないだろうか。

投球術とは、ストレートをスピードガン表示以上に速く感じさせたり、フォークボールの落下幅をより広く感じさせたり、外角をより遠くに感じさせたり、内角をより近くに感じさせる技術のことだ。プロの一軍ではこの投球術を身につけなければ突き抜けた選手になることができないばかりか、一軍で活躍することさえ難しくなる。

プロには二軍では突き抜けた成績を挙げている投手、打者が多くいるわけだが、そんな彼らが一軍で通用しないのは得てして投球術を磨いていなかったり、駆け引きを理解していない場合が多い。だが甲斐野投手は野球が個人競技ではないということをしっかりと理解していると思わせてくれるコメントを残している。そういう意味でも、甲斐野投手はただボールが速いだけの投手ではないと言って間違いないだろう。

そして甲斐野投手も当然これから守護神争いに加わっていくことになる。ファンとしてはもちろん増田達至投手に200セーブ、250セーブを達成していって欲しいわけだが、だが一番重要なのはライオンズが日本一になることだ。そのためには松井稼頭央監督も心を鬼にして、増田投手も横一線からスタートさせていくことが求められる。

だが増田投手の場合その人柄の良さからも、守護神を外されたからといってへそを曲げることはまずあり得ないだろう。それどころから甲斐野投手ら自分よりも若い投手たちが自分よりも高いパフォーマンスを発揮しているようであれば、喜んで守護神の座を明け渡してくれるはずだ。だがもちろん実際にそうなるまでは、増田投手にも当然守護神の座を死守しに行ってもらいたい。

守護神の座を狙いにいく甲斐野投手にとって経験豊富な増田投手や、かつてライオンズの絶対的守護神を務めていた豊田清投手コーチの存在は大きなプラスとなるはずだ。彼らから守護神としての帝王学を学ぶことができれば、甲斐野投手も田中正義投手に続き、ホークスを出た直後に他球団で守護神を務めていく可能性は非常に高い。

だが甲斐野投手にとってライバルは増田投手だけではない。アブレイユ投手田村伊知郎投手豆田泰志投手佐藤隼輔投手がすでに守護神争いに名乗り出ている。甲斐野投手が実際に守護神を務めるためには、彼らライオンズの強力ブルペン陣を凌いで行かなければならない。

だがこのかつてないほど熾烈な守護神争いレースを鼻の差でも制することができた時、甲斐野投手はライオンズだけではなく、球界を代表する絶対的守護神への道を歩んでいくことになるだろう。そしてこうして考えていくとやはり松井監督が仰る通り、甲斐野投手に対しては「期待しかない」というのがライオンズファンの総意ではないだろうか。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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